ビキラ外伝「さすらいの用心棒」の巻
ベオークは、武者修行中の武闘家であった。
武者修行者は、道場破りが生業である。
訳あって、強化服を着ていた。
頭を剥き出しにした鎧武者といった風体だった。
「今日はここにしておこう」
屋根にペンペン草の生えた、いかにもヘッポコそうな武術道場の門をくぐる武闘家ベオーク。
ベオークも馬鹿ではない。
勝てそうな道場を選んで、挑んでいるのだ。
「頼もうーーー!」
玄関土間に立ち、大声で呼ばうベオーク。
「あっ、道場破りの方で?」
屏風を盾に、ヒョイと顔を出す禿げ白髪の老人、グダグダン。
道場主である。
「いかにも」
鷹揚に答える武闘家ベオーク。
「せ、先生! せんせーーーい!」
慌てた様子で嗄れ声を上げる道場主。
(むう。用心棒が居たか)
(しかしこのような貧乏くさい道場に雇われるような者)
(食いっぱぐれのヘッポコ武者であろう)
「どーーれ」
と言って玄関に顔を出すヘッポコ武者、魔人少女にして回文妖術師ビキラ。
ベオークの推察通り、食いっぱぐれて雇われたのである。
「道場破りさん。それ、治安管理局の、暴動鎮圧用の試作強化服よね」
と、鎧を指して言うビキラ。
「ほう。知っているのか。そうとも。立っての頼みで、試着しておる」
「あたしも、治安管理局に頼まれてんのよ。試作強化服を見かけたら、戦ってみてくれって。と、言う訳で……」
ビキラは回文を詠唱した。
「貫くヌラツ(つらぬくぬらつ!!」
存外な回文であった。
ビキラは具現化したヌラツを両手に装着すると、一気に間合いを詰め、諸手でベオークの腹を殴った。
ヌラツは、強化服の超硬度金属の外装を貫き、内部の衝撃吸収材を抉った。
さらにそのショックで、エネルギー伝達パネルが死んだ。
「ぐは!」
白目を剥いて玄関土間にうずくまるベオーク。
「脆いわね」
と驚くビキラ。
「先生、開始の合図がまだです!」
と言いつつベオークに走り寄る道場主グダグダン。
「しっかりしなさい、道場破り殿。打ち身、捻挫にイタミフットンダード。我が道場特製の湿布です。おひとつ如何ですか?!」
「……か、買う………」
薄れゆく意識の中で、ベオークは呻いた。
その時、ギガントスーツが緊急時の強行プログラムを起動させた。
装着者の状態を、「危機」と判断したのだ。
スーツの襟元から、アンモニアがベオークの顔面に噴出した。
さらに注射器が起き上がり、興奮剤がクビに注入される。
アドレナリンが速やかにベオークの血中に放出され、血圧と心拍数が上昇した。
戻った瞳は、瞳孔を開いていた。
ベオークは吠え、健気に立ち上がった。
補助電子頭脳がアンロックされ、ギガントスーツを操り始める。
プログラム通り両手を振り回すベオークを見て、
「そうこなくっちゃ!」
と、ビキラは笑った。
そして詠唱される回文。
「やり切り張り切り屋 (やりきり、はりきりや!!)」
具現化した張り切り屋は、張り切った。
ベオークに体当たりして壁をぶち抜き、もろともに道場の外へと転がり出た。
かくて、やり切った張り切り屋の足元には、幾筋もの白煙を上げる強化服が、横たわっていた。
ビキラの用心棒代は、壁の修理代で消えたと言う話である。
(買う飛ぶぞ武闘家)
かう! とぶぞ! ぶとうか!!
お読みくださった方、ありがとうございます?
よろしかったら、明日も「続・のほほん」にお付き合い下さい。
完結済みの、第一部「のほほん」も、のほほんな話が多いです。気がむいたら、読んでみてください。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」本編は、もう少し長い、回文をオチとした読み切り話です。
気が向かなくても、読んでみてください。
ではまた、明日。




