ビキラ外伝「大惨事、人災だ!」の巻
魔人ビキラは賞金稼ぎである。
目の前を逃げる食い逃げ常習犯を捕えるべく、ビキラは回文を詠唱した。
「安いし椅子や (やすいし、いすや!)」
回文を具現化させ、武器とするのが回文妖術師ビキラの得意技であった。
安っぽい椅子が具現化し、空中をクルクルと飛んで、おたずね者の前に、すとん! と着地した。
その椅子には顔があった。
モサモサのたおやかな眉毛。
鷲のような鼻。
グリグリの大きな目玉。
ギラギラの眼光。
ながーーーいモミアゲ。
小鳥の巣のような濃い顎髭。
薄い鼻髭。
「な、何というクドい顔だ」
椅子を見て、思わずつぶやき立ち止まる食い逃げ犯ドットン。
「キミキミ、暇そうなキミ。座ってみ。ボクに座ってみ!」
「い、いや俺は賞金稼ぎから逃げるのに忙しい!」
言い返すが、そのクドい顔から目が離せないドットン。
「ちょっと座ってみ!」
「ちょっ、ちょっとだけだぞ! 安物の椅子め!」
クドい顔の説得に負けて、椅子に座るおたずね者ドットン。
「捕まえました、マスター」
肘置きを、にょにょにょ〜〜〜! と伸ばしてドットンを抱きしめるクドい顔の椅子。
「うむ。ご苦労様」
ゆっくりと近づいてゆく魔人ビキラ。
「どうだ。安いしお買い得だぞ、その椅子は」
「どっ、どこに売ってんだよ、こんなもん」
椅子に捕縛され、ジタバタするドットン。
「あたしの頭の中だ。
『万遍なく軟便魔 (まんべんなく、なんべんま!!)』
も見て見るか? あたしは怖くてまだ使った事がないが」
「今、使ったんじゃないか?!」
「あっ?!」
軟便魔は、申し訳なさそうに、おずおずと具現化した。
(クドい顔はお買い得)
くどいかおは、おかいどく?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
今日は、午後に、
「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」
第二十話「引っこ抜いたら斧だった件」前編。
を投稿します。
後編は、また明日。




