「大奥様」の巻
奥様が、大奥様を殺した。
何事の不思議はなけれど。
大奥様は、三言で言うと、毒婦、あばずれ、奸婦であった。
奥様にもあたしたちメイドにも、辛く当たるのが趣味のような女だった。
ミスを見つけたら、それはもう鬼の首を取ったかのような喜びようで、わたしたちを叱責した。
ミスをしなければ、ミスをでっち上げる悪女であった。
そして見た目は美しかった。
だから余計にタチが悪かった。
人の心を傷つけるのを、生涯の目的としているのではないか? とすら思われた。
旦那様も、それを苦にして自殺されたに違いない。
奥様は、わたしたちをずっと庇って下さっていたので、奥様がついに堪忍袋の緒を引きちぎって大奥様を殺した時、あたしたちは今こそ恩返しの時だと思った。
わたしの名はツルコ。
鶴の恩が壊死。
いや、死んではいけない。
鶴の恩返し、である。
つい、面白い変換文字が出たので書いてしまった。
「奥様、毒婦の死体は庭に埋めましょう」
「そして花の種を蒔き、お花畑で分からなくしてしまいましょう」
「作業はわたしたちが致します」
わたしたちは口々に申し出た。
大奥様は、ご近所でも有名な毒婦であったので、
「発狂して何処かに行ってしまった」
と町内に伝えたら、
「いつかはそうなると思っていたわ」
「皆さん、今までよく耐えてらしたわねえ」
「ワシ、大奥さんが川の方に歩いて行くのを見たよ」
「あたしも、土手をフラフラしているのを見たわ」
などと言う事になった。
大奥様がいなくなって、はや三ヶ月。
わたしたちには平和な時間が流れていた。
庭に芽が出て、茎が伸びてゆき、そしてついに花が沢山咲いた。
「あら、花の種はヒマワリだったのね」
「大輪のヒマワリだわ。凄く伸びるのねえ」
ヒマワリは、わたしたちの背丈を軽々と越えた。
「おおお。とっても綺麗。大奥様、栄養があったのねえ」
などと評し、わたしたちと奥様は盛り上がった。
庭は一面のヒマワリ畑になった。
「おおお。黙っていたら、こんなに美しいのねえ」
近所の人々も感心していた。
わたしたちを睥睨するヒマワリは皆、
大奥様の顔をしていた。
(大奥様咲くおおお)
おおおくさま、さく。おおお!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
昨日のカズエさん話と違って、個人的に納得できました。
回文も、イカれてて、面白く思いました。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
今日、午後には、
「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」
第十六話「突入! クカタバーウ砦」前編。
を、投稿します。
明日は、第十六話の、後編を投稿します。
よかったら、読んでみて下さい。




