「大シズカ、小シズカ」の巻
中野辺村の警備隊は、屈強で有名だった。
これまでも、迷い魔獣、ハグレ魔族の侵入を許した事はなかった。
それと言うのも、警備隊の二人の女隊長、静がケタ外れに強かったからである。
二人は名前が同じだったので、大柄な方を大シズカ、小柄な方を小シズカと呼び、区別されていた。
「聞いたか、大シズカ。帝都を襲った魔族どもが、バッチリこの中野辺村に向かって敗走しているそうだぞ」
「うん。今から帝都に援軍を頼んでも間に合わないし」
大シズカは、苦々しい笑みを浮かべて応じた。
「困ったものだ」
「村人たちは逃げ出す準備で忙しい」
「ちょっと二人で、敗走魔族の様子を見に行こうか?」
「そうしよう、大シズカ」
谷を越え、山に登り、中野辺峠から敗走魔族の様子をうかがう大シズカ、小シズカ。
「なんだ、魔族どもヘロヘロだな」
小手をかざして言う大シズカ。
「身の程知らずを絵に描いたような敗走ぶりだな」
と、苦く笑う小シズカ。
「ここからこれらの岩を落としたら」
と、岩に隠れて言う大シズカ。
「殲滅できるんじゃないか?」
「そんな事をしたら、峠の名物、千体ダンゴ岩が失くなってしまうぞ」
「村が蹂躙されるよりはマシだ」
「それもそうだな」
そして、岩を落とし始める大シズカ、小シズカ。
「むう。蓋付きのダンゴ岩は、手強いな」
「なあに、二人でやれば、蓋付きダンゴ岩でも落とせるさ」
爽やかな汗を額に浮かべて、小シズカが応じた。
そうして、峠の名物千体ダンゴ岩、フタのような帽子を被ったダンゴ岩も次々と落とされた。
街道を逃げていた魔族どもが、ことごとく死んでも、二人シズカはダンゴ岩を落とし続けた。
彼女らは、とてもタフだったのである。
そして、とても面白くなってしまったのである。
特に蓋付きダンゴ岩は手強く、落とし甲斐かあったそうだ。
新しく、街道のダンゴ岩を片付ける二人の女の姿が、中野辺峠下の名物になった。
(二人静ずしりタフ) ふたりしずか、ずしり! タフ!!
(蓋物もタフ) ふたものも、タフ!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」
も、連載中です。よかったら、読んでみて下さい。




