「ひとみごくう」の巻
村を守るため、伊藤さんと佐藤さんは、人身御供として、邪竜の棲む山に向かった。
「コレも村の人々を救うため。頑張って美味しく食べられましょう、佐藤さん」
「はい。嗚呼、ウチの村に勇者様が来て下さっていたら……」
と、嘆く佐藤さん。
「勇者って、ナニ?」
「えっ? 伊藤さん、知らないの? 魔獣とか邪神を倒してくれる世界の何処かにいる正義のヒーローですよ」
「へえ。そんな便利な人が……」
「便利なだけじゃありません。村や街を救った後は、目ぼしい乙女を喰い散らかすと言う精力絶倫の……」
「ああ。やっぱり、男なのね」
「勇者様がおられたら、わたしたちも邪神に食べられずに済むのに」
さめざめと泣き始める佐藤さん。
「まったく、勇者とやら、何処でナニをしているのかしら」
村のためとは言え、食べられるのはやはり嫌な伊藤さんだった。
そして山の森の奥深く、邪竜を前にする二人。
「あっ。居ないなら、私が勇者になれば良いのでは?」
すんでの所で気がつく伊藤さん。
そうして邪竜と戦い始めるニワカ勇者の伊藤さん。
大切なのは、「私だって勇者」という思い込み。
火事場の馬鹿力と言うか、窮鼠猫を噛むと言うか、長い戦いの末に、邪竜を倒してしまう伊藤さん。
「ぜいぜい。なんとかなるものね、佐藤さん」
邪竜から出てきた長剣を手に、呟く伊藤さん。
「それってまさか、クサナギの……」
と、大好きなタレントの名を口にする佐藤さん。
「ああああ。伊藤さん、あなたが勇者だったなんて」
佐藤さんは伊藤さんにすがって、嬉し泣きをした。
「で、それらしい剣も手に入ったし、これからどうしたら良いの? 佐藤さん」
そうして伊藤さんと佐藤さんは、慣例通り、勇者の旅に出たのであった。
「で、わたしってナニ?」
と思いながらも、勇者も知らなかった世間知らずの伊藤さんに寄り添い、佐藤さんは末長く勇者伊藤サチコを支え続けたのであった。
(尊い伊藤と)
とうといいとうと!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」
第十話「あれこれな三原則」前編、後編も、明日投稿します。
早い。一週間が早い。と思いました。
在庫が出来ていないからであります。




