「水族館の怪」の巻
「ほら、いるじゃないですか。パンダ犬」
と、館長。
「ああ、犬に黒いスプレーを吹き付けて、パンダ模様にしたヤツ?」
と、執行猶予中の男。
「あの調子でお願いします。あなたをラクガキ名人と見込んでのお願いです」
「まあ、街のラクガキとは違うから、犯罪じゃないしね」
「はい。執行猶予は取り消しにはなりませんので」
「まあ、水族館の館長の頼みだからね。一丁、やってみるか」
かくて水槽を泳ぐラクガキイカの群れ。
それはそれで、やはり問題になった。
「綺麗な模様のイカねえ」
「イカかい? 魚類じゃないのかい?」
などと話し合う水族館の客たち。
「ラクガキでしょ? あれ」
「でも、水族館が、こんな事する?」
(するんです!)
執行猶予中のスプレーラクガキ名人は、自分がラクガキしたイカの水槽を前に、心の内に叫んだ。
実際に声に出す事はなかった。
夢が壊れるからである。
「そうかあ、水族館もメンツがあるもんなあ。こんなイタズラはないよなあ」
(イタズラではない。本気である)
と、名人は心の内につぶやく。
「やっぱり、こういうイカなのよ」
「綺麗だねえ。赤い鱗が」
「で、コイツは、イカなのかい? タイなのかい?」
「烏賊鯛ですよ」
ラクガキ名人は、つい口走ってしまった。
(いたのかい烏賊の鯛)
いたのかい? いかのたい?!
読んでくださった方、ありがとうございます。
今日も のほほん
明日も のほほん
空は青いか 気のもんか
(山頭火風。山頭火ファンの皆さん、御免なさい)
 




