「良い子は真似しないで下さい」の巻
マリコさんは台所で食器を洗っていて、目の前のリビングに気配を感じた。
頭を上げ、そこに見たモノは、着流し姿の見知らぬ老人だった。杖をついていた。
「だっ、誰?!」
マリコさんは驚いて叫んだ。
家族でも客でもなかったからだ。
「通りすがりの強盗じゃ。大人しくせい」
そう言って、杖から白刃を抜く老人。
仕込み杖だったのだ。
「命が惜しくば、金めの物とお前の下着を出せ。さすれば黙って帰ってやる」
(な、なんて奴。こんなに熟れた女体を前に、何もしないで帰るなんて)
マリコさんは武器になる物を探し、
「これだ!」と思って、鍋つかみを両手に装着した。
気が動転しており、出刃包丁を失念していたのだ。
「おう。我が無惨丸に血を吸わせたいと申すか、大年増。よかろう」
老人は仕込み刀を上段に構えた。
「きえええーーー!」
奇声を発してマリコさんに白刃を振り下ろした。
「ちょええーーー!」
マリコさんも叫び声を上げ、両手で、ハッシ! と白刃を鍋つかみで挟んで止め、即座に捻った。
グギッ! 老人の手首が嫌な音を立てた。
「ほわっ」
あまりの痛さによろめき、無惨丸を手離してそのままリビングの床に倒れる老人。
「許さんべな!」
思わずお国訛を出して叫ぶマリコさん。
マリコさんは隙を見せず、老人の顔面に蹴りを見舞った。
ブフォオ!
派手に鼻血を噴く老人の鷲鼻。
「はあはあ。勝ったべな、先生」
荒々しい息づかいでつぶやくマリコさん。
先生とは、活劇アニメ「あばれ旅、弥十郎!」の主人公、さいはて弥十郎の事であった。
こうして、無法の限りを尽くしてきた仕込み杖強盗は、とうとう名も無い熟れた主婦に退治されたのだった。
(鍋つかみ勝つべな)
なべつかみ、かつべな!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日もたぶん、「続・のほほん」を投稿します。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」と、
回文ショートショート童話「のほほん」が、
第一部を終了しております。
よかったら、のぞいてみて下さい。
「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」が、娘に大好評連載中。
こちらの次回話は、金曜日、土曜日に投稿予定。
よかったら、ご覧ください。




