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侍女という名の宰相  作者: 黒野ひゅーるり
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第四話 タイムリープ

骨董品屋の二階。

サリスとリリーシアはまたしてもここに戻って来て、互いに向き合って座っていた。

サリスが平然としているのに対して、リリーシアの方は何やら気まずそうにもじもじしている。

「さっきの話なんですけど」

「はいっ!?」

リリーシアは思わずビクッとした。

「本当なんですよね?」

もちろん、リリーシアがタイムリープしているという話だ。

普通であれば、こんなくだらない話を間に受けるようなサリスではない。適当に受け流して元の日常に戻っているだろう。

だが、サリスには人の何倍も優れた洞察力があった。客商売をしているから身に付いたのかどうかは分からない。

ただ、その目で他人が本当のことを言っているのか嘘をついているのかを見抜くことは、サリスにとってはとても容易なことだった。そのサリスの目から見ても、リリーシアが嘘をついているようには見えないのだ。

(おそらく本当のことなんだろう)

サリスはほぼ確信していた。それは彼女の持つ洞察力だけではなく、彼女の経験値からも言えることだった。

ほんの数時間とはいえ、サリスはリリーシアと行動を共にし、彼女の言動を全て見てきた。今まで様々な人と関わってきた中で、リリーシアは特異と言える存在だった。

純粋。ただその一言に尽きる。貴族にしてはその性質が極めて珍しいものであることをサリスはよく知っている。いや、一般市民にしても少数だろう。そのため、彼女の経験からいってもその純粋なるリリーシアが嘘をついているとはどうしても思えないのである。

それに、そんな嘘を一商人に話したところで一体何になろうか。リリーシアが不利益を被ることはまずないが、とはいえ何の利益にもなりはしない。

(何があったんだろうか)

サリスの関心は、ただその一つにあった。

サリスは普段から、他人に関心を持つことはないに等しい。最前から言っている通り、彼女は自分の日常を守ることにのみ特化しており、他人のことなどどうでもいいのである。仮にタイムリープという謎の現象を体験した人が身近にいたとしても、彼女は何事もなかったかのように無視して日常を送るだろう。

そんなサリスが、なぜリリーシアに関心を持つのか。それは、リリーシアが自分にタイムリープのことを打ち明けたことに違和感を覚えているからだった。

(私に打ち明けて、どうするつもりなんだろう)

最初の人生では、サリスとリリーシアが出会っていたかどうかすら分からない。そもそもサリスとリリーシアには何の接点もないのだから、当然のことだが。

そんな一商人に対し、リリーシアはなぜそんな不思議な現象を打ち明ける気になったのか。そして、一体自分に何を求めているのか。

それに万が一、自分に関係のあることならば一大事だ。サリスが守ろうとしている日常が壊れかねない。サリスは、リリーシアの口から自分が欲しい答えを聞こうと思ったのだ。


リリーシアは、相変わらずもじもじしていて何も話そうとしない。

「タイムリープのこと、本当なんですよね」

サリスがもう一度聞くと、リリーシアは一瞬ビクッとしたが、やがて首を縦に振った。

「何があったんですか」

サリスは核心に迫ろうとしていた。

「分かった。話すから、落ち着いて聞いてほしい」

リリーシアは一回深呼吸をすると、話し始めた。

「三年後、わたしは死ぬんだ」

死、と聞いてもサリスは驚かない。未来に何かない限り、タイムリープすることはまずないだろうと思っているからだった。

「何で死ぬんですか」

「殺されるんだ、何者かに」

「自分を殺害した犯人が分からないということは、なぜ殺されたかも分からないんですか?」

「犯人は分からん。だが、理由にはほんの少し心当たりがある」

リリーシアは茶を少し飲むと、湯呑みを床に置いて続けた。

「わたしはおそらく、政争に巻き込まれて死ぬのだ」

(それはないだろう)

サリスがそう思うのには理由があった。

リリーシアのゼメル家とは、二十四家いる下級貴族のうちの一家である。下級、と呼ばれるのが嫌いな貴族が多いので、地方を治めている所以で「地方貴族」とも呼ばれる。

彼ら下級貴族の上に位置するのが十二家からなる中級貴族だ。彼らは主に、下級貴族が治めている小さな領土の数倍の大きさをほこる広大な領土である「貴族直轄領」を有している。

その上に八家からなる上級貴族がいる。彼らは領土を持たない代わりに、王都の政治に深く関与する。そのため、軍人や官僚との癒着がひどく、国王軍や中央官僚府は彼ら八家の誰に与するかで派閥が分かれている。

そして、それら八家のうち最も勢力が強大な四家は国王から「大臣」に任命され、「四大臣」として国政を牛耳っている。

これら四大臣家などの上級貴族から中級貴族、下級貴族とはそれぞれの派閥に属しているため、水面下の派閥抗争はもちろん、表沙汰になるほどの派閥抗争が引き起こされることも少なくない。

だが、ゼメル家は話が違う。リリーシアが当主ということは、先代のリルート・ゼメルは死んだのだろう。

リルート・ゼメルの生存時点で、ゼメル家は中級貴族ハートヴァル家と繋がっているのみで、かのハートヴァル家は中級貴族の中でも劣った家だ。上級貴族とのコネクションもないに等しい。

そんなゼメル家が、政治抗争に巻き込まれることなどあるはずがないのだ。

「なぜ、政争に巻き込まれて死ぬと思ったんですか?」

「私の腹を刺した剣が、四大臣家のうちの一家、スペーランド家に伝わる秘蔵の剣だったのだ」

サリスは思わず、はっと驚いてしまった。

そういうことなのであれば、話は全く変わってくるからである。











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