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不完全では無い

とりあえず連続投稿はここまでです。

当時、雨も曇りもなく晴天が広がる空。



未だ開場前とはいえ人の波は既に出来ていた。

ある一人の誕生日のために。




■◆バックヤード◆■


リハを終えた舞台上を歩き危険物などの最終確認をする。

何も予想が動物系統の相手とはいえやはりやり過ぎるくらい確認をする方が良いだろう。



一通り鱗樹と確認を終え、警備員とREADが招集した対処人員にバトンタッチし会場を出る。





「ふぃ〜、疲れる疲れる。」


「春八、自販機あるが飲むか?」


「冷たいものならなんでも」





鱗樹から冷えた炭酸を受け取り喉を潤す。


六月。


暑さと湿気が入り交じるなんとも不快を誘う月だ。



しかも開場前の熱気がさらなる拍車をかけ、もはや熱された砂漠よりも地獄に近い環境が成立していた。

さすが可鈴、人気はピカイチのようだ。





「そういえば春八、お前なんで有名人と知り合いなんだよ」


「答え知りたいか?そりゃ有名人になる前から知り合いだからだよ」


「質問の意図を汲み取れや」





鱗樹に両の拳をこめかみにグリグリとされただでさえ熱に働かない頭にダメージが加算される。

たとえ人智を超えたモノに変身しようが元の人体は人間、流石に痛い、ちょ止め、いや、流石に痛い痛い痛い



そのまま行くと頭蓋骨が貫通するのでは無いかと思われるほどの力を振りほどき近場の柵に腰を落とす。





「高校からの縁だよ縁」


「そんなラノベみたいな環境があるかよ」





それ言っちゃったらこの状況もあまり変わらん様な気がするが…………



炭酸を一気に飲み込み、刺激に痛みを感じる口内を落ち着かせ再び歩き始める。





「そろそろ開場だ、開演中に事は起きるだろーから……配置に行くか。」


「おう、開場中は任せとけ」





鱗樹と別れ、鱗樹は開場内に戻り、俺は外の非常階段を登る。

どこから来るか分からない為中と外に配置が分けられるのは当然である。



しかしこの前の、可鈴に首謀者の心当たりを聞い時、明らかに少しの動揺がある様に見えた。





「さて、可鈴アンチが力つけて調子乗ってるだけか………あるいは」





会場を見下ろす。

入口辺りはやはり賑わっており、興奮気味な観客の足音や声が届く。

皆の顔を見ると今日この日を楽しみに来たと火を見るより明らかに顔に書いてある。





「どちらにせよ何事も起きない事が大事───いや、起こさせる前に芽を摘む、か。」






明らかに不審な動きをする一人を見つける。

入場口から外れ、どうやらこのバックヤード方面に足を進めている。


顔はよく見えないがその行動や歩き方を見るに自信に満ち溢れている。





「ビンゴか」





バックヤードに近づく前、二人の警備員に止められどうやら口論になっているらしい。


警備員の一人が無線を着けたらしく胸元の機会から会話が聞こえる。





『だから、俺はヒヨナちゃんの返事を受け取りに来ただけだ!俺の一途な─────』


『いいから!ここは関係者以外立ち入り禁止です』


『これ以上騒ぐようなら────』





男は警備員に抑えられ会場から引き離されていく。

どうやら熱烈なファンの方だったようだ。



階段を降りようと動かしていた足を戻し上から監視を続ける。

にしても初めて見たが本当にあんな輩が居るとは………。





『春八、そっちは大丈夫だったか?』





通信に鱗樹の声が入る。





「ああ、ただの我の強いファンだったらしい、今警備員さんに取り調べ受けられてる」





受けられてる?なんか一瞬だけ日本語が変に感じたがまあゲシュタルト崩壊する前に切り上げるか。



鱗樹から了解の意を受け取り再び監視に戻る。



そして何事も無く開演数分後。





「やば」





反射的に口を開くよりも早く地面に手を着き世界と接続する。




【アクセス:迦楼羅】!!!!





亀裂から漏れる黄金の光を全身に浴び、翼を広げる。





「すまないが予告にあった招かれざる客ってお前か?」





雰囲気で分かる。

いや、分からされた。





「いや、俺は依頼されてね、この女を二度と歌えないようにしろって」





階段下、一撃を放つにはギリギリ届く範囲にいる男が一枚の写真を取り出す。


間違いなく可鈴の写真だ。





「だから問題無くここを通過させて貰えないか?なぁ門番さんよ」





褐色の肌に編み込まれた黒い髪。

筋骨隆々な素体に野生を帯びている。


外見だけだとサバンナで狩人をやっていそうなヤツだ。





「生憎、許可証のご提示が無ければ通しちゃダメな決まりなんでね」


「そうか、ならここは穏便に────力ずくで通る!」





男は地面に手を着き唱える





「アクセス!」【アクセス:ゴリラ】!!!





黒い体毛に肥大化する両の腕。

人の肉体の域を超える暴力的なまでに大きな図体。





「行くぜェ金ピカ野郎!」


「来いよデカブツ!」





ゴリラはその巨躯に似合わぬ跳躍力で一気に立体的な差を縮め一つ上の踊り場に着地する。


そして次に何をするか────、そう、





「叩き潰してやんよ!」





両手の拳を一気に叩きつけ自らの足場を崩し縦版のドミノの様に次々に足場を地面に向かって瓦解させてゆく。


まるでもう一度【アクセス】せんとするように。



しかし圧倒的な力を誇るゴリラの両拳を横に構えた錫杖で受け切る。

それは細身と巨躯では圧倒的にアドバンテージが違うが素体の土俵では無い。


お互い拮抗する力勝負に込める力のあり方もまた変わる。



初めに迦楼羅が頭上で横に構えた錫杖を傾け相手の力の集中点をズラす、しかしそれを事前に察知してか完全なるアドリブか、滑る左拳をそのままの勢いに錫杖の外に出し─────しかし両拳ならともかく片腕だけとなったゴリラの重みを押し出す様に払い錫杖をすぐさま胸の方に引き寄せる。


しかし先に空を切っていた左拳が胸元に吸い寄せられる様に勢いそのまま殴られる。





「ガッ」





肺に溜まっていた空気が押し出され一瞬呼吸の混濁が生じる、がもう慣れたものだ。


直ぐに視界を安定させ次に正面迫る右拳を自身の左腕の筋と錫杖を縦に合わせ抑え切る。




「ほう、ここまでゴリラの力を抑え切るとは」


「は、お前のパターンはその力任せな殴打しかねぇのか?」




ギリギリと拮抗する攻防戦。

瞬間的な力のアドバンテージでは確かに迦楼羅ではゴリラには敵わない。


しかし(パワー)には技術(テクニック)で。



縦に構えている錫杖を一瞬下方にズラしさらに相手の集中点を崩す。





「な!?」


「バランスの崩れた筋肉の塊なぞ─────」





ゴリラの頭は大幅に下がった為に迦楼羅の下腹部まで。


すかさず足を上にあげ振り下ろす





「文字通り神話級のかかと落とし!」


「舐めんなよこの野郎!」





バランスの崩れた身体からの反射信号を無理やり振り切り左手を後頭部に外向きに構え振り下ろされる踵を掴む。


人の身体はコケるなどバランスが崩れた際頭や重要部を守ろうと反射的に手が前に出るようになっている。

しかし本能的にされるそれを理性的に抑え込み無理やり身体とは別の動きを作り出す。



右手で地面を抉るほど身体を支え、左手の掴んだ足をそのまま握り潰す勢いで掴む。



バランスを崩しているのは迦楼羅も同じ、人間の二本足で立つという圧倒的なバランスがいま一本のみで支えている状況。


お互い引くにも押すにも攻防の形。




しかしゴリラ、もとい森戸(もりと) (すぐる)は人間大の考えしか持ち合わせていなかった。

それはもちろん常識的で普遍的な、逆に生きてきて疑問にすら思わない問題だ。


しかしゴリラ(パワー)という押しに強い属性が故に迦楼羅(テクニック)という相手の相性は悪かった。

そもそもの手数が違うのだ。





「迦楼羅ってのはよ、何も人間の形したモノなだけじゃねぇんだよ!」





その言葉に半ば暴走しかけていた本能を冷水のような理性が覆う。


戦闘を始める前、確かコイツの背中には────





「人間の夢!───────翼だ」






均衡していたバランスが大きく傾く。

感覚的にも、物理的にも。




その翼が伝承そのままの翼だとは春八自身も流石に思わないがしかし腐っても【神話級】。



自身よりも大きな





「デカブツを追加で浮かせるなんて屁でもねぇんだよ!」


「クソ!」




地球の重力に逆らう動き。

ただのジャンプ等の跳ぶ(・・)では無く正真正銘翔ぶ(・・)だ。


重力に反し浮かび上がる己の巨躯。




もちろん空中戦となれば己に絶対の勝利は望めない。


先程の踵を掴む腕の形をしていたために浮くとなればそれ相応に形が戻るということ。


捻った腕が戻りグルンと迦楼羅とは反対の方向を身体が向く。




そして気持ちで思うよりも本能が告げる

(ヤバい)と。




空中での無理な姿勢と無様に相手に背中を見せている状況。

例えるならば目隠しされ抑えに掛けられたギロチン寸前の死刑囚。





「よーしいい子だデカブツ、このまま────」





しかしあくまで足を掴んでいるのはコチラ側。

掴む場所を握り直せば良い。



空いた右腕頭上に伸ばし迦楼羅の足首を掴み握る。

後は





「さぁ、形勢逆転の我慢比べと行こうじゃないか」


「クソが」





ゴリラは動物界の中で地上最強レベルの握力を誇る動物であり、最高は以上600kgまで達すると言われている。


反対に迦楼羅はあくまでも【神話級】、しかし素体は人間である。



文字通り神話級の硬度を持てどやはり土俵は同じ。

そもそもお互い人の域を超えている事に変わりは無い、ので。




ビキビキと嫌な音が足から聞こえる。


これは本格的に危ないようだ。




振り落とそうにも万力(ゴリラ)握力(パワー)

落まいとすがるが神鳥(迦楼羅)飛行(テクニック)




決着は空では着かず迦楼羅が会場の屋根に振り下ろした。




■◆■◆■◆■◆■



開演後、演者、観客達は言うまでもなく屋根からする鈍い物音に気が付いた者は多い。


曲の途中、MCの最中、暗転時の沈黙の場面でも鈍く遠いが微かに聞こえる。





「これって、」





パフォーマンス中、やはり勘付いた黎斗が隣のモネに呼び掛ける。

どうやらこちらを見るモネの表情からも屋根からの音は気づいていたらしく、天井を見上げ凝視する。


おそらく自分らが気づくと言うことはと周りを見渡すとやはり警備員数名が連絡を取り合っている姿が見える。



十中八九春八が敵対する者と戦っているのだろう。

しかしこの場合春八から言い聞かせられたものがある。




■◆昨日◆■



「いいか?もし会場外で激しい物音がしても応援なんて来るなよ?」





ニネが自室でウッキウキに準備をしている時に呼び止められた。





「いや、なんでよ」


「いいか?おそらく可鈴を脅していたヤツは十中八九内側の人間だ。」


「え?」





春八の突然の推理になにか始まったぞと言わんばかりの表情を浮かべる二人。





「相手はご丁寧に脅迫文中に“神の制裁をライブが終わるまでに受けると知れ”って書いている。」


「別に内側の人間がライブ中に暴れたらその通りにならない?」





モネの疑問にわざとらしくチッチッチッと手振りをする。





「今までの陰湿さを見るとあくまで自分は被害者の一人を演じたいらしい、だから本番はおそらく外部から強襲で物事を進める気だろ」





可鈴の受けた写真や実体験はどれも自分の姿を晒さないように徹底されていた。

写真の内容も外部の協力があったら分からないが関係者の一人なのは確かなはず。


そして自らの姿をバラさずに事を進めたいらしい。





「だから外で物音がしだしたら内側の人間をよく観察して欲しい。お前ら二人はニネの護衛ってのと同時に────」




■◆◆■



そのよく見える【蝦蛄】の目と【蜘蛛】の目を凝らして微かな動揺も見逃すな。




会場に入る前、事前にところどころに手駒の蜘蛛を放ち視覚の共有をしていた。



常時ON/OFFの切り替えが出来る蝦蛄の目。





その両方をフルで使い会場を見渡す。


そして一瞬ではあるが何度も困惑と動揺、焦りの表情を浮かべる者が一人。




ビンゴであった。




■◆■◆■◆■◆



しかし二人が目星を着けたことを春八は知る由もなく。



天井の一部瓦解。




お互いの本気の力比べによる弊害というか副作用と呼ぶか。


しかし不幸中の幸いな事に入口付近の人影の少ないか所。



しかししかしどちらにせよ不幸事だった事に変わりは無く、突然天井突き破って現れた金ピカの鳥人間と2m近くある黒い巨躯の姿。



どちらも観客の最高潮な盛り上げを盛り下げることにはこと早く。


一斉に身の危険を感じた大勢の観客は動き出す。



非常口から逃げ出す者、意を決してゴリラと迦楼羅の脇を全力疾走で走り抜け正面入口を使う者。





要するに彼女の願いは叶ってしまったという事だ。




予告通り、ライブ中に中止にまで追い込む出来事。



数分後にはまだ逃げ遅れた観客とゴリラを囲む様に配備された警備員とREADの対処人員。


そして【Phenom】のメンバー。




しかし彼女からすればもはや願いは叶った。

後はあの雇った人物が捕まろうが私がバレようが────しかし失意に貶めようとした隣に立つ女はまだマイクを握っている。


なんで───────





「おい可鈴!まだ公演は続いてるよなぁ!」





金色の鳥人間がよく響く大声でコチラに投げかける。


なんで?もう貴女を祝う人も貴女を好いている観客もほんとんど居ないじゃない!



しかし隣の凛と立つ女はマイクを再び握り直し。





「───まだまだ行くよぉー!」





再び音楽が鳴り始めた。





それが耳に届き錫杖を握り直す。





「どうだ、俺の親友の一人は怪物見ても動じないんだぜ?」


「らしいな」





ゴリラは「ハッ」と零し笑い、





「【迦楼羅炎(カルラエン)】」





聖なる火に焼かれ気を失った。




■◆■◆■◆■◆■


その後、公演は改めて別日に最初からやり直すという情報と、変身の解除されたゴリラを【READ】が回収。



一旦残った【FAIRY☆STORYs】とREAD面々は大部屋に集まっていた。





「今回は被害を最低限に抑えられましたが───」





鬼ノ城さんからの結果報告、アイドル事務所側との話し合いをしている最中、一人、明らかにこの一部始終に納得のいかないという顔をしている人物が居た。





「────んで、なんでなのよ…………」





ショートボブにメインカラーの緑を基調とした衣装の裾を握りしめ立ち尽くしている。

やはり、





「木漏日 アヲイさん、いや、木村 豊子さん、貴女が仕組んだのですね?」





鬼ノ城さんはまるで最初から知っていたかのような語り口で立ち尽くす彼女を問い詰める。


その言葉に棘は感じられずとも確かに鋭い響きがあった。





「わた、私はコイツに私の大切なモノを奪われた!」




震える指で可鈴を指し言葉を絞り出す姿はとても





「グループが統合される前までの─────輝いてた私を返してよ!」





ようやく周りも理解した。

悲痛に叫ぶ彼女の姿はとても惨めで




その後、可鈴や他メンバーに対する恨み辛み呪いをありったけ喚いた後。




警備員に腕を引かれ部屋を出て─────


出る前、一際激しく抵抗したと思えば地面に手を近付けていた




地面に触れるか触れないか、その間際でスローモーションになる視界の中、鬼ノ城と春八は一つまだあった違和感の正体に気付く事になる。




確かに雇われた襲撃者の【本】は動物系統のモノであった。


しかし結び付かない。




可鈴の受けた脅しの中にあったあの二本の爪痕(・・・・・)



いや、あれは爪痕とは違いもっと暴力的な器官を用いて作られた傷痕(・・)



そう思考を巡らせる間に答え合わせの時間は来たようだ。





「ア”クセス!」




裏返った耳をつんざくような音で放たれる声は自暴自棄になった今の彼女を表しているようで。





【アクセス:トリケラトプス】!!!!





太古の戦士を目覚めさせる合図でもあった。

この話は以前からやりたいと思っていた話しですが、予定より少し急ぎ足の様な展開になってしまいました。

でもキャラが勝手に動く………

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