罠
獲物を物色しながら山に登ったが今日は空振りだった。
俺は近所の人や会社の同僚には、山登りが趣味の人畜無害の男と思われている。
それは俺がそう装っているだけの表向きの顔。
素顔は単独行の若い女性登山者を襲い乱暴して殺害している殺人鬼。
殺した女の遺体は谷底に落としたり深い森の中に破棄したりしている。
それらの遺体は殆ど見つかる事は無く、偶に動物に喰われ白骨化したのが見つかる程度。
その程度の証拠しか無い為、警察は俺を疑いながら未だに逮捕に至らないって訳だ。
頂上まで登ったが単独行をしている若い女性登山者に出会えず、下山し車を停めてある場所まで歩いていた帰り道、20代半ばくらいの美女とすれ違う。
あと数時間で夜の帳が落ちる時間に何故と思ったが、久しぶりの極上の獲物を見て疑問を仕舞い込み跡を付ける。
女は山の頂きに向かう山道を外れ、断崖絶壁がある方向に進んで行く。
もしかしてこの女、自殺志願者か?
ヘヘへ、そりゃ好都合だ死ぬ前に俺が美味しく頂いてやるぜ。
女が崖の上から断崖絶壁を覗き込んだとき後ろから襲いかかり押えつけて頂こうと考えていたのに、女は躊躇う事無く飛び下りた。
俺は慌てて崖の上で腹這いになり断崖絶壁を覗き込む。
覗き込んだ俺は俺の顔を見上げる女と間近で見つめあった。
え? って疑問に思う暇も与えられず、俺は女に襟首を鷲掴みにされ空中に放り出される。
空中に放り出された俺の目は、ロッククライマーのように女が崖の直ぐ下の岩のちょっとした出っ張りに両足と片手を引っ掛けてる姿を捉えた。
落下しながら俺の耳は女の声を拾う。
「地獄で、お前に殺された女性たちに詫びるんだな!」
俺は罠に嵌められた事を悟った。