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負け女と元カレの幽霊  作者: 葛西渚
2章 堀口
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理解すればするほど人は遠くに

芽久は嘘を見抜ける。それも百パーセントと言えるのような確率で。


ただ、すべての嘘を見破れるわけではないらしい。彼女の質問に対し、相手が答えたとき、嘘かどうか、判定できる能力のようだ。だから、芽久は質問を連発し、俺と言う人間を知ろうとしていたのか、と後で納得した。そして、俺を急に信用し始めた理由も。もし、話の流れや言い回しが、ちょっとでも違っていたら、芽久には「大人は嘘を吐くもの」と受け取られていたかもしれない。


「私が嘘を吐いている、って思わないの?」


「それを証明する方法はないし、俺は視えないものが視えたせいで疑われてきた人間だ。君を傷付けたくないという気持ちはあるし、力になりたいと思う」


「……本当に?」


「本当だ」


芽久は笑顔を見せた。そして、俺は今、彼女に”質問”されていた、と後から気付いた。彼女はこうして他人の本音を引き出してきたのだろう。そして、それが自分を傷付けたとしても、やめられないのだとしたら、強いジレンマを抱えているのではないか。


「それで、その能力はいつから?」


「うーん、半年くらい前かな。最初は変な違和感があるくらいにしか思わなかったけど、それが何なのか自分で確かめているうちに、どういう状況でそれが起こるのか理解して行った。だから、最近は誰かに質問するとき、注意するようにしていたつもりだったんだけど、まさかお母さんにあんな秘密があるなんて、思いもしなかったから」


「確かに、知りたくないことを知ってしまうことは、複雑な気持ちになるな」


俺は思わず苦笑いを浮かべる。頭の中に過去の嫌な記憶が過ってしまったからだ。悠也という名前。知りたくはなかったのに、俺は知ってしまった。流れ込んできてしまった。そのせいで、不必要に光莉を傷付けた。俺にとって、光莉は初めての大切な女だった。


だからこそ、裏切られたと思ったときの感情も激しく、相手を傷付けてしまいたい、という衝動に駆られた。それがどれだけ自分勝手な感情だったことか。今になっては後悔しているが、それでも俺は彼女を無理にでも傍にいて欲しいと願ってしまった。どこまでも自分のことばかり考えた行動の結果が、今の生活と言うわけなのだが…。


「何考えているの? 彼女のこと?」


「……質問するな」


「あはははっ。堀口さんって正直だよね。変な力なんて無くても、堀口さんの嘘は見抜ける気がする」


俺は芽久の前で大人の男ぶっているわけだが、そう言われてしまっては口籠るしかなかった。


「でも、本当にそうだよね」


芽久は俺を馬鹿にするわけでもなく言った。


「私も彼氏がいたんだけど、嘘が分かるようになったせいで微妙な空気になってさ。別れちゃった。堀口さんもそんな感じ?」


「まぁ…そんな感じだ」


「苦労してきたんだねぇ」


またも不用意に芽久の質問に答えていたことに動揺したが、別に困るようなことではない、と自分に言い聞かせた。芽久はそんな俺の心も見抜いただろうか。少女らしくない大人びた笑顔を俺に向けた。


「他にもさ、友達だと思っていた人たちとの距離もどんどん開いて行って、誰も信用できないって思い始めちゃったんだよね。これから大人になるのに、もう人間不信になってさ、どうなっちゃうんだろうって少し不安」


「俺も君と同じくらいの年齢のときは、毎日が不安だった。それでも、意外と何とかなるもんだ」


「何となるかなぁ。ウチはお金持ちだからさ、最悪の場合は親の財産を食いつぶすようにして生きるのも有りなのかもしれないけど、そんなことしたら、きっと自分のこと凄い嫌いになっちゃうだろうな」


少し話しただけだが、芽久は思ったよりも大人だった。ただ、子供の我が儘で親と喧嘩したわけではない。だとしたら、似た力を持つ先輩として、力になってやらなければ、という気持ちが強くなっていた。


「俺は君と家族の問題は解決できない。でも、その力の制御方法については、教えることができる、と思う」


「そんなこと、できるの?」


「たぶんだけどな。俺も数年前までオンオフできなくて、精神的に参っていた時期があった。でも、訓練して自由にオンオフできるようになってからは、何とか人間として暮らしている」


「その時期のせいで、彼女と別れたの?」


「何でもそいう話に持っていくな」


「だってぇ…気になるんだもん」


芽久はどういう意味を込めたのか、眉間に皺を寄せる。俺は少しずつ芽久の能力を回避するコツを覚え始めていた。


時計を見ると既に一時間が経過していた。相談室は基本的に一時間までの使用になっている。次の予約が入っているためだ。恐らく、諏訪部さんに言えば芽久のために五つある相談室のどれかを彼女専用に確保し、時間も無制限にするかもしれない。だが、そんなことになれば、俺の精神が持たないだろう。


「とにかく、今日はここまでだ。次からは、力をコントロールする訓練を始めよう。次はいつが良い?」


「ええ、もう終わり? 延長できないの?」


今日は無理だ、とシンプルに伝えると、芽久は思いのほか簡単に引き下がった。


「でも、家まで送ってもらえるんだよね?」


忘れていた。と言うか、九条美沙都は遠慮しなかったのだろうか。

良く知らない男に、娘を送らせるなんて。


「受付の前で待っていてくれ」


「おっけー」


芽久は大人しく相談室を出たので、俺は一度オフィスに顔を出した。諏訪部さんに車のカギを渡され「頼んだぞ」と念を押される。俺は適当に返事して、受付へ向かった。

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