タイムトラベルは、オーパーツの金時計とともに
その地震の後、島の神社で、私が見つけたのは、古ぼけた懐中時計。
くすんだ金のメッキは、少しへこんでいた。
動かない針を、動かそうとコンココンっと叩いてみる。
すると、どうだろう。針が動き始めたではないかっ。
逆向きに…
えっ、ナニコレ?気持ち悪い。
周りの風景歪みが 歪み始める。
ヤダっ
私は、意識を失った。
★
パっと目を覚ます。…えっ?牛?
もぉ。舐めないでっ
牛の舌の ザラリとした感触が 生々しい。
あんれまっ。生きとっただか。
牛を引いたお婆さんが、私の腕を引っ張って起こしてくれた。
ここは?っていうか、今、何年ですかっ。
明らかな、時代錯誤感。絶対、現代じゃないっ。
ここは、八丈島じゃ。
今年…けいちょう?だったか。
間違っておらねば、慶長10年の1月だべ。
いや、間違わないで。ってか、八丈島ってことは、場所は、タイムスリップ前と一緒なのね。
…ん?慶長10年の八丈島?
いやぁぁぁ。噴火するって。慶長10年の1月27日だよっ。
やだやだやだ。巻き込まないで。
この者、服も言葉も、違っておるの。
宇喜多公の家中の者ではないか?
後ろから、ちょんまげの人が、覗き込んできた。ちょんまげ… 時代劇みたい。
それはともかく、私は、宇喜多さんって人の屋敷に連れていかれることとなった。
宇喜多さんは、戦争で 鹿児島に避難していたところ、徳川って人に、ここに追放されたらしい。
ほう、噴火か。
良く分からんが、地震が続いておる。
じゃが、わしは、蟄居の身で動くことが出来ぬ。
島の神社の神主に、それを伝えてはどうかの?
私は、宇喜多さんに書いてもらった地図を手掛かりに、神社へと向かうこととなった。迷いに迷ってたどり着いたのは、もう夕方。
と…神社の中から、叫び声が聞こえる。
神主殿、盗人でございます。
ご拝領の金の懐中時計がございませぬっ。
え? 懐中時計… もしかして、コレ?
いやいや、タイミング悪すぎるっ。
あわてて 横にあった石の灯篭に時計を放り込むっ。
その瞬間、林の中から赤い熱風が吹き込んできた。
よ… 溶岩っ。
それは、火砕流。
南東斜面の火口から 流れ出た溶岩は、神社を飲み込み、私の体を溶かしていった。
★
冬休みの自由研究。
ここが その噴火の跡ね。
八丈島を訪れた 彩は、溶岩に埋もれた神社の 石の灯篭を撫でた。
あら?何かしら。
彼女が 見つけたのは、古ぼけた懐中時計。
針は動いていないようだ。
コンココンっ
針が動くか見てみようと、軽くその時計を叩く。
そして 時計が、再び 時を刻み始めた。
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こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。