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序章 菫色の少女

 ディオース大陸・王国領にあるラメント村というところに一人の少女がいた。彼女の母は王国領に住む貴族の娘だったが、今は平民としてそこに住んでいた。

 その少女は金髪に碧眼で、とても美しかった。しかし、感情の起伏はなく、脈はありながら心臓の鼓動音が聞こえないことから、まるで亡霊のようだと村の人々は恐れた。だが、母はそんな彼女も愛した。

 物心着いた時から、少女は一人の女性を見ることが出来た。菫色の髪に赤眼の、この世の者だとは思えないほど美しい女性……。その女性は「ユスティシー」と名乗った。

 少女は彼女がこの世界にいるハズのない者だというのは分かっていた。しかし、孤独で母しか信頼出来る人がいなかった彼女には、ユスティシーは姉のような存在だった。

 ある日、村が何者かの被害に遭った。幼いながら武器を使えるからと討伐に赴いた少女は罠にかかり、深い闇に囚われてしまう。そこでユスティシーが女神であることを知り、彼女と意思が一つになることでこの危機から逃れた。そして、少女は女神の力を借りて村を襲った集団を退けた。

 その日から、少女はユスティシーと同じ菫色の髪に赤眼になった。母は最初驚いたが、これも女神の加護だと信じた。少女が四歳の時の話だ。

 それから一年が経ったある日の夜。不意に目が覚めた少女は家に母がいないことに気付いた。外に出ると、村が炎に包まれていた。

 人々の苦しみ呻く声――その中で少女は母を見つけた。母は兵士に捕まっていた。

「来ちゃダメ!」

 近付こうとすると、母が叫び、少女の足は止まった。その瞬間――母の首が軍の将軍の剣によって落とされた。まるで時が止まったようだった。

 ――憎い。お母様を殺したこいつらが。

 それが、少女に芽生えた初めての「感情」だった。空っぽだった少女はその感情を制御する術を持たなかった。

 気が付けば、少女は村に来ていた軍隊をたった一人で壊滅させていた。そして、首のなくなった母の亡骸を抱えた。

 少女は生まれて初めて、涙を流した。その日から母を含む死者達の幻聴に悩まされ、夜も眠れなくなった。少女は心に誓った。母のために復讐すると。

 帝国軍が村を襲ったと知ると、少女は見かけた帝国軍を殺しつくした。だが、いくら死体を積み上げても幻聴は止むことを知らなかった。

 そんな生活をして二か月、血を拭うこともせずに少女は廃墟と化した建物の中に身を寄せた。そこで休んでいると足音が聞こえてきた。顔を上げると、そこには彼女より年上の、青い少女が立っていた。その少女は彼女に手を差し伸べた。

 青い少女はアイリスと言った。彼女は父が率いる傭兵団に属しており、次の依頼の場所に向かう途中、血のついた子供の足跡があったから来たとのことだった。

 アイリスに連れられて、少女はその傭兵団と行動を共にすることになった。最初は復讐心に燃えて単独行動をすることが多かったが、アイリスの説得もありそれもなりを潜めていった。

 一緒に行動するようになって半年、少女を庇って傷を負ったアイリスは怪我を治療している時に少女に言った。

「もう十分苦しんだだろう。君は、自分の信念のために生きていい。自分を、許していいんだ。誰かの許しが必要だというのなら、私が許してあげるから」

 その言葉に少女は驚いた。罪を犯した自分を許してくれる人が現れたから。それを聞いた時、少女は人生で二度目の涙を流した。

 その日から、少女は変わった。復讐心のためでなく、他人のためにその力を使うことを決めたのだ。少女はアイリスを「先輩」と呼ぶようになった。彼女のようになることを目標としたからだ。

 やがて少女はその傭兵団と別れ、人々を救う義賊としてディオース大陸で活躍するようになった。

人々は漆黒のロングコートを着た少女をこう呼んだ。「ヴァイオレット」と。

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