第87話 マジックエントランス
「本当に行くの?」
リドルボルグ魔法学園の制服である、紫のスーツとローブを身にまとったエマは不安そうに尋ねる。
「何が嫌なんだよ?」
意気揚々と学園の正門に向かって歩いていたトマは振り返り尋ねる。
「だって、わざわざ入学しなくても乗り込んでバーンでいいじゃん!」
「乗り込んでバーンって……はあ、だから君は」
トマは大きくため息をつき話す。
「何度も言ってるでしょ。僕たちがそんな勝手なことしたら、全部ぶち壊しだよ。世界の均衡は絶妙なバランスで成り立ってるんだから、そもそも僕たちみたいな存在自体ありえないから」
「そ、そうなの?」
「そりゃそうだよ。はるか昔からずっと僕たちは変わらず異質なんだから。でも君は、僕の言うことも聞かずに復活したときからいろいろやらかしてるよね」
「ううーん。まあ、そうかな……」
「これ以上の暴走は、そうだなあ、神様だって許さないと思うよ」
「えっ、神様! うーん、まあ、いいたいことはわかるけど」
「ならいいじゃん。黙って従おうよ。そして、僕たちの目指すべきところは、今この星で生きている人たちに解決させる事なんだ。僕たちは予想外のアクシデントが起きた時にでも対応すればいいよ」
「わかったわよ。はあ。どうせトマは魔法学園だー、とかってどうせ、面白がってるだけでしょ!」
「あはは」
リリーがついさっき入っていった正門をトマは笑いながら、エマは怒りながらくぐっていくのだった。
「それでは、こちらから順番に入ってください」
門をくぐったところには受付があり、教員らしき数人が指示を出して新入生を導いていた。
エマとトマは渡された用紙を手に歩く。
「これはまずいね」
トマがつぶやく。
「どうしたの?」
「ほら、ここ見てよ。どうやらクラス分けの魔力技量測定があるみたいだ。これによるとまず、魔法学の記述検査をして血液検査、最後に技能検査があるみたいだね」
「血液か……あー、体内魔力量の測定って感じ? 私の魔力量どのくらいかしら?」
「いやいや、僕も君も魔力量なんて測れるわけないくらい膨大だから。だって、この世界で出会った魔法使いみんな大したことなかったでしょ」
「まあ、たしかに。当時だって私が一番だったし」
「そうだな、うまく偽装するか……」
「さすがトマ!」
エマとトマがそんな会話をしている時、リリーは記述検査の真っ最中だった。
『さすがですね、リリー様』
『そうかな、本ばっかり読んでたから』
リリーはスラスラと問題用紙に回答を埋めていく。頭の中での会話ではソフィアが感心しているのがわかった。
しかし、ふとリリーの手が止まる。
『どうしましたリリー様?』
ソフィアが聞く。
『消しゴム忘れちゃった……』
『それは、大変です……』
リリーとソフィアは困ってしまった。その時、リリーの背中を誰かがつついた。
恐る恐るリリーは控えめに首を後ろに動かす。
少し大きく高い鼻が印象的な男の子が消しゴムの切れ端を差し出していた。
(こ、これ……)
その男の子は小声でそう言うと、力強い眉毛をグイっと上げとても晴れやかな笑顔をした。
(あ、ありがとう)
リリーも小声でお礼を言う。しかしその時、
「そこ! 何をしているのですか?」
会場の壇上にいた担当教員に見つかってしまう。
その中年の女性の胸にはディズアナシスと名前が書かれている。束ねたロングヘア―を揺らし、リリーに早足で向かってくる。そして、名簿を見ながら、
「あなた方、フィン・リーと、リリー・ウォルシュですね。何をしているのですか? 私語は厳禁、生徒同士の接触も厳禁だと言ったはずですよ!」
「僕が、消しゴム――」
リリーが消しゴムを忘れて困っていた事を告げようとしたとき、
「す、すいません! 僕が悪いんです! 前の人が消しゴムを忘れて困っていたんです!」
フィンは、慌てた手振りを繰り返しながら、大声でそう言った。
その声は、静寂な試験会場に響き渡り、ディズアナシスは呆気にとられる。
しかし、すぐにリリーの回答とフィンの回答を見比べる。
「そうですね。特に不正があったようではないようです。しかし、次からは挙手し担当の教員に相談すること、わかりましたか?」
「はい! すみませんでした!」
リリーとフィンの声が重なり教室に響く。
ディズアナシスはそれを確認すると、スッとローブをひるがえして教壇に向かい歩き出す。リリーはその後姿を見ながら寛大な処置に肩をなでおろすのだった。
『なんとか無事に終わりましたね』
『そうだね』
試験も終わり退室のために出口に向かって歩きながらリリーとソフィアがそんな思念を送りあっていると、後ろから声をかけられた。
「ねえ、君!」
振り向くとそこにはフィン・リーが立っていた。
「あっ! さっきはありがとう!」
リリーがお礼を言う。
「いや! 僕のほうこそ、余計なことしたばっかりに。あんなことになってごめん!」
フィンは頭を下げる。
「そんな、やめてよ! 僕はうれしかったよ!」
リリーがそういうと、フィンは顔を上げた。その顔には笑みがあふれる。
「そうか! 君がそう言ってくれてうれしいよ! 僕はフィン、友達になりたいんだ!」
フィンは勢いよく右手を差し出す。
「あ、ああ……うん! これからよろしく!」
リリーも笑顔でその手を握り、握手をするのであった。




