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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第9章 リドルボルグ魔法学園
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第84話 ノンセンスコンバーセイション

 ここは反政府組織【森の住人】支部長の家。

 部屋では話声がする。

「そう、それは良かったわ。トマちゃんに感謝しないとね。イナ、ちゃんとお礼は言った?」

 イナに向かってそう言ったその女性はすらっと伸びた手足に、青く巻いたショートヘアーが印象的だった。

「うん。僕ちゃんと言ったよ。とても良い人だった」

「イナよ。お前は男なんだから、もう少しシャキッとしないとだめだろう。心配になるぞ。今回の事も俺が言った通りお前にはまだ早かったんだ」

 タルトが、大きな手をイナの頭にやさしく置いて言った。

「心配かけてごめん」

 

「まあまあ、無事でよかったわ! うん、元気で何より。それに私が、イナが存在を消すことのできる特殊能力があるからって許可したんだから、責任は私にある。本当にごめんなさい」

「ううん、ごめんなさい。僕がやるって無理に言ったからこうなった」

「でも、よかった……」

 ミナがそう言った。


「ウナ支部長。これからどうしましょうか?」

 スズがそう聞いたのは、筋骨隆々のたくましい男だった。

「……」

 ウナは筋肉で盛り上がった腕を組んだまま、四角形の武骨な顔をしかめる。そして、何もしゃべらない。しかし、一度だけゆっくりと頷くのだった。

「うん、この人は、イナが無事でよかった。別の方法を考えようって言ってるわ」


「マナ副支部長……あいかわらずですが、良く分かりますね……」

 スズが苦笑いして言うと、

「あはは、小さいころからずっと一緒なんだからいつの間にか分かるようになっちゃった。この人寡黙だから」

 マナは、たんぽぽの様に笑う。鼻が高くスッと通っており、横に長い魅力的な紡錘形(ぼうすいけい)をした眼が印象的だ。


(寡黙っていうか、しゃべったの見たことないけど……)

スズは支部長と副支部長のやり取りはいつ見ても慣れない。


「よし、とりあえずあなたたちはもう寝なさい。疲れたでしょうから、今日はここで寝るといいわ。それでまた明日考えましょう」

「はい、分かりました」

 ウナとマナの二人を残して他の全員は部屋から出て行く。

「うーん、しかし、どうしようかしらねぇ。本部に報告してからの方が良いかな? あなたどう思う?」

「……」

 ウナは沈黙を保ったままだったが、急に目を見開き何か思いついたようにマナの方を向いて頷く。

「あーなるほど! それはいい考えだわ。たしか、アグラザリアとも関係があったって言ってたし、その方向で進みましょう!」

 マナはパンと手を叩き嬉しそうにそう言った。ウナとマナは顔を見合わせて頷くのだった。



 次の日の朝、ここは、ザイル帝国のリシュル市にあるパン工房【四季の香り】の工場。

 外では色々な種類の鳥が鳴き、美しい音色が朝露が滴る森の庭に響き渡っていた。


「で、なんでこうなんのよ?」

 エマは大きい木製の丸いボタンが一つついた、紫色のかわいいローブを羽織っている。

「うーん。エマちゃん、完璧! 超かわいいわよ!」

 そこには手を叩いて喜ぶマナがいた。

「ちょうどいいみたいです」

 トマは両手を広げて自分の体を見回す。半袖半ズボンの紫色のスーツだ。全体的に少し膨れた様に丸みを帯びていている。

「うん、良い良い! ミナとモナが子供の頃を思い出すわ~。後、このベレー帽で制服の完成だから。男女の違いはないのよ」


 話を進めるマナにエマは苛立つ。

「だ・か・ら――」

 エマが言いかけると、

「うらやましいですね!」

 ミナが両手を胸の前に組んで、目を輝かせてそう言うと、

「うん……私も、もう一度行きたい」

 モナも賛同する。誰もエマの話を聞こうとしない。


「はいエマちゃん」

 マナはそう言って帽子を頭にのせる。

「きゃー最高にかわいい!」

 エマはあきらめたのか、呆れたように首を振る。

「もう、いいわ……」

 ため息まじりのエマにトマが話す。

「まあ、いいじゃんエマ楽しそうだし」

「あんたはおもしろがって。興味本位に魔法のこと知りたいだけでしょ?」

「まあ、そうだけど。好奇心は僕を突き動かす原動力だから」

 エマは眉間にしわを寄せるが、人差し指を顎に当てて、少し考える。

「はあ、そうね。面倒だけど、まあしょうがないか」

 そして、仕方なく頷くのだった。


「ただいま戻りました~。師匠、朝の訓練終わりました~。すっごいお腹ぺっこぺこ」

 すると、アレクサンドラが朝の日課である、魔法の訓練をこなし帰ってくる。

「ぎゃー! え、え、え、エマ様ぁ~! な、なんですかそのちょちょちょ超絶キュートなお姿は!」

 そう言うと、エマに駆け寄り跪いて腰に抱きつく。

「ちょ、ちょちょ! あんた何してんのっ!」

「こ、神々しい……」

 アレクサンドラはエマを見上げて目を細めて涙を浮かべる。エマは若干引き気味に硬直するのだった。


「おお、トマ様。よく似合っておるな! 惚れ直したよ」

「あ、ありがとう、アステラム。あれ、どうしたの、ルー?」

 ルーシェアンはアステラムの陰に隠れてもじもじしている。

「ほら、自分で言いいな」

 アステラムはルーシェアンの肩を押す。

 ルーシェアンは俯いてしばらく沈黙していたが、

「わ、私も行きたい……」

 呟くようにそう言った。


「そっか、うん、分かった」

 トマは、手をたたきそう言った。

「マナさん、ルーも一緒に入学していいでしょうか? こう見えて彼女もかなりの使い手ですのでお役に立てると思います」

 トマが言うと、ルーシェアンは赤くなる。

「うん、いいよ。三人ぐらい問題ないわ。【アグラの勇士】の勲章があれば大丈夫。手続きが出来次第、制服を持ってくるわね」

 マナがルーシェアンに向かってウインクする。それを見て、ルーシェアンは笑顔になる。

「ルーシェよ、よかったな」

「うん! ありがとうアステラム」

 ルーシェアンは嬉しそうに飛び跳ねるのだった。


「さて、本題だけど……」

 マナが真剣な顔で話し始める。

「ミナ、モナ、廊下に出て外を見張っておいて」

「分かったわ、母さん」

 ミナがそう言うとモナも頷き、扉を閉めて出て行く。

 部屋には、エマ、トマ、アレクサンドラ、ルーシェアン、アステラム、マナが残った。皆それぞれ思い思いに腰を下ろす。

「さて、まずトマちゃん。イナを助けてくれてありがとう」

 マナは、頭を下げる。

「いえ。お礼を言われるほどの事はしていません。たまたま行った先で鉢合わせただけです」

「いえ、それでも感謝しかない。あの子はもともと人間と【ラビルス】のハーフで、迫害を受けて育った――」

(なるほど、ラビルスって言うのはきっと先祖にウサギを持っている種族だな)

 トマは、話を聞きながら、イカを祖先に持つと言う【スクイーディ】であるピタの事を思い出した。

「彼は魔力障害のせいで上手く魔力が使えず、それでも存在を消す事の出来る特殊能力を持っていた為、こんかいの作戦に踏み切ったの。しかし、それが甘かった……一歩間違えば大切な仲間を無くすところだった」

 誰もが静かに聞き入る。マナの話は続いた。

「あなたたちの強さは聞いている。でも、さすがに魔法学園に太刀打ちできるとは思えない。そこで今回の作戦を思いついたの」

 トマが口を開く。

「それで、僕らが魔法学園に入学し内部捜査して欲しいと」

 マナは、くるんと巻いたショートヘアーを揺らして頷く。

「そうなの。前に話した時、勲章をアグラザリアで貰ったって言ってたでしょ。ザイル帝国はアグラザリアと友好関係にあったから、その勲章【アグラの勇士】がかなり役に立つの。あと、有力な政治家の知り合いが居るから、そこの系譜を持つ家系と言う事で書類は偽造した。問題はないはず」

「そうか。確かに、この場合潜入捜査はかなり有効な手段ですね」

 トマは腕と組み頷く。


「エマちゃん、【森の住人】の事は聞いたでしょ?」

「うん、あれね。昨日おおよそ聞いたわ。本部は首都ライザにあって、リシュル支店の部長と支部長が旦那さんのウナとあなたなんでしょ? 秘密裏に反政府活動をしているって」

「うんそうなの。夫のウナが部長、私が副支部長、娘のミナとモナも実は一員なの。娘たちには、ミアさんの所に修行もかねて行かせて、リトマス連合国の事を調べてもらっていた。ミナとモナは中立国に行かせたことにした。まあそれでも最近では帝国の調査も厳しくなり、隠し通せない状況に追い込まれていたから、二人が帰ってきてくれたのはタイミングが良かったわ」

「そういうことでしたか」

 トマが頷く。

「幸い入学は一週間後の四月。裏から手を回せば入学式にも間に合うわ」


「なんか色々忙しいわね」

「ほんと、あなた達にこんな大変な事を任せるなんて、とても無理なお願いなのは十分承知してる。リトマス連合国奪還の件もあるし、こんな事をしている場合ではないことも分かってる。本当にごめんなさい」

 マナはそう言うとスッと立ちあがり、そのまま地面に這いつくばり頭を下げた。

「そんな、頭を上げてください。考えようによっては僕たちの目的と利害は一致していると思います。ザイル帝国を食い止めないと、どちらにしてもリトマス連合国との戦争になる可能性は高い。戦争を食い止める事が出来ればリトマス連合国奪還に一歩近づくはずです。そうなればお互いの目的は一つ!」

 トマは拳を握ってスッと立ち上がる。

「協力して悪をぶっ潰しましょう!」

 その握りこぶしを高々と突き上げて掲げるのだった。

(こいつ面白がってるわ)

 エマのひややかな視線とは裏腹にマナの顔には、驚きと同時に笑顔が戻る。

「うふふ。なんとも頼もしい子供たちかしら……」

 マナの瞳には、零れ落ちそうな程の涙が溜まってキラキラと輝いているのだった。

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