第80話 ニューフレンド
続きを書くのに少し時間がかかりそうなので、投稿が遅くなりそうです。大変申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。いつもご覧いただきありがとうございます。
ザイル帝国の首都ライザ西方に位置するリシュル。
心地よい風が吹き抜ける草原にエマとアレクサンドラは腰を下ろしていた。
「トマ様、遅いですね~」
大きなハムと野菜を挟んだ小麦色の丸いパンを頬張りながら、アレクサンドラは喋る。
空から降り注ぐ穏やかな太陽の日差し。
「そうねぇ。でもそろそろ帰ってくるんじゃないかしら」
「そうなんですか? 良く分かりますね、エマ様」
爽快に吹き抜ける風に二人の髪がなびく。
「意識を集中してみなさいよ。分かるでしょ?」
「エマ様の教え方は難しいんですよ。早くトマ様に帰ってきて欲しいです。トマ様はやさしいから」
「だめよ! あんたは私の弟子なんだから、他の人を頼るんじゃないの!」
エマは前を向いたまま腕組みしてそう言った。
「エー。いいじゃないですか、他の人の魔法も参考にすれば、私の成長も早いかもしれませんよ」
アレクサンドラは、エマの方を向いたが、エマは前を向いたままだ。
「え、エマ様……? どうしたんですか? もしかして、やきもちとか? えーエマ様、私の事そんなに大切ですか? えー、そうなんですか? えー!」
アレクサンドラがふざけて笑って見せる。
「な、なにいってんのよ! そんなわけないでしょ!」
エマは、そう言ってそっぽを向く。
しかしエマは、アレクサンドラが他の人物に教えてもらっている場面を想像すると、なんだか寂しい気持ちがするのだった。
(……確かに、何かしらこの気持ちは。うん、そう。親心ね、親心)
アレクサンドラは、なんだか真剣に考えているエマを見て愛おしくなる。
「冗談ですよ! エマ様。私は永遠にエマ様のものです」
目を見開いて一生懸命そう告げた。
「あんた、語弊がある言い方するんじゃないわよ。本当にそんなんじゃないから! ほら、さっきのやって見なさい!」
「まだ食べてるんですけど、うーん……分かりましたよ、サンドイッチ後で食べるから、食べないでくださいよ」
昼休憩だったにもかかわらず、厳しいエマの一言で訓練が突然始まるので、アレクサンドラはぶつぶつ言いながら目を閉じる。
(まずは心臓へ。そしておなかの下、そして頭……)
すると、アレクサンドラから虹色のマジカルソウルが出始める。
(よし、集まった。魔力の範囲を広げて、トマ様の魔力を探す。トマ様! どこですか!)
その一瞬で、アレクサンドラのマジカルソウルが弾け、それを中心に突風が吹く。
(うん。上手くコントロール出来始めているわね)
エマは、よしよしと言った感じで、腕組みして頷いている。
しかしアレクサンドラは、急に止めて、頭に手を当てて舌を出す。
「えへへ~、やっぱり駄目でした。トマ様の魔力が私達と同じ所にあります。おかしいです」
そう言った瞬間だった。
目の前に、トマとルーシェアンとアステラムが颯爽と降り立つのだった。
それぞれの服と髪が、風になびく。
「ただいま」
トマは、顔にかかる髪を押えながらそう言った。
「トマ様! おかえりなさい」
アレクサンドラは、最初驚いた顔をしていたが笑顔でそういった。
「なんだ、正解ねアリ。しかし、うーん……どこから指摘すればいいか分かんないけど、大所帯になって帰ってきたわね」
「あははっ、たった二人増えただけじゃない。色々あってね。意外性で言えば、君といい勝負だろ?」
エマはそんなことないのにと思った。
「は、初めまして! わ、私はルーシェアン・リナージュと言う。お前がトマの姉さまか?」
ルーシェアンが恥ずかしそうに、言葉に詰まりながらエマにお辞儀をした。
「そうよ。よろしくルーシェアン。私はエマ、そんでこっちは弟子のアレクサンドラ。そっちの背の高い人もよろしく」
「ああ。私はアステラムと申す。トマ殿とは結婚を約束――」
嫌な予感がしたトマは咄嗟に、エマたちのランチボックスの中にあったサンドイッチを、アステラムの口にくわえさせる。
「う、うごうごご……な! ななんあ! 何だこれ滅茶苦茶旨いじゃないかい!」
アステラムは目を見開きそう言った。
「なかなか、面白いのを連れてきたわね。でも、嫌いじゃないわ。それよりトマ、あんたのそんな姿は久しぶりに見たわ。よかったじゃん」
アステラムを見ながら笑っているトマに、エマは笑顔でそう言った。
「良かったのかな~、僕は、きっとこういった星の下に生まれたんだろうな。なんだか面倒な人達に囲まれるという……」
「ト、トマは私の……」
ルーシェアンは、俯いて何やらぶつぶつ言っている。
「ルーシェ。あんたのそれは目立ち過ぎるから、隠した方が良いわ」
エマは、ルーシェアンの背中にある小さな純白の羽の事を言う。
「そうなのか。生えている者はいないのか?」
ルーシェアンが聞くと、アレクサンドが口を開く。
「いますよ。先祖に鳥を持つ種族は、体のどこかに羽を持っていることも少なくありません」
するとエマは、
「うーん。説明が難しいけど、あんたの羽は特別だから」
人差し指を立ててそう言った。
「へぇ~、そうなのか!」
ルーシェアンは、パッチリとしたその目で自分の背中を見ながらクルクル回っている。
軽やかなその仕草は、彼女の容姿をより一層現実離れしたものにする。
「天使みたいな子ですね」
アレクサンドラはその姿に見とれて呟きながら、エマと見比べる。
(姿の美しさはエマ様といい勝負かも……アレ? なんか二人似てる? いや、そんなことないか……?)
首をひねっていたアレクサンドラは隣にいるアステラムに目線を移す。
「アステラムさんはとてもお美しいですね」
アレクサンドラはアステラムに向けてそう言った。すると、アステラムは口を開く。
「あんたも人間にしてはとても魅力的だよ。容姿も魔力も。そうだ、いい考えがある。どうだい、私の嫁に――」
トマは目にもとまらぬ速さで、アステラムの口にサンドイッチを食べさせる。
「ご、ごっほほ、うごご。旨い! ふわふわもちもち! 最高だね!」
「……なんなのよ。個性が凄いわね」
エマとアレクサンドラは、打ち解けることが出来るのか少し不安になるのだった。
「それはそうと、杖は出来たの?」
エマが聞くと、
「うん。まだだけど、あとはもうくっつけるだけ」
トマはそう言いながら、ポケットから、緑色の綺麗な球と、赤い宝石をとりだす。
全員でそれを覗き込む。それらを見ていると、深い輝きに吸い込まれどこまでもゆっくりと落ちて行くように魅了される。
アレクサンドラは、それらのあまりの異質な物質に固唾を吞み、思わずトマに尋ねる。
「こ、これは……?」
「こっちが、リトマスの大森林の精霊からもらった霊核で、こっちが流転炎の結晶だよ。アレクサンドラには特別なものをあげたかったからちょっと頑張ったんだ。あはは」
トマがそう言うと、アレクサンドラはきょとんする。そして、
「精霊の霊核に、流転炎……? ぷっ! あははっ! うふふふふ、もう、トマ様ったら~! ナイスジョーク」
アレクサンドラはおさまりのいい控えめな口を開けて、太陽のように笑う。
しかし、全員の不自然な視線を受けて、すぐに真顔になる。
「も、もしかして、本物……?」
「もちろん、本物だけど?」
トマはアレクサンドラの反応が理解出来ないようで、首を傾げる。すると、アレクサンドラは頭を抱えてふらつきながら、
「そ、そんな、ま、まさか……」
「どうしたの、アリ?」
「どうしたもこうしたも……それは二つ共、神話の話でしか聞いた事のない代物です……」
アレクサンドラは、動揺し、青ざめた顔で話し始める。
「この世界でもっとも有名な言い伝えは、【金色の勇神】でしょう。しかし、他にも神話は幾つかあります。それは、二万年前の大戦よりも前に存在したとされる、伝説の魔導士達の話です」
アレクサンドラは、虚空を見つめて思い出しながら話す。
「その者達は、天をかけ、地を揺るがし、誰も到達することの出来ない領域にいた。それはまるで神のような存在。それぞれが、精霊と契約し、その霊核より授かりしアンティゴを作り出す。また、そのアンティゴの魔法宝石は、この世に二つとない宝石を使っていた……。これらはかなり有名な話です。この話はこの世界の子供達が聞く有名なおとぎ話で、誰もが一度はあこがれます。そして、伝説の魔導士達の数々の話の中で、これも有名な一幕ですが、流転炎のアンティゴを持つ魔導士は、その一振りで一つの戦争を全て焼き尽し、終結させたと。しかし、現実離れしたそのおとぎ話は大人になれば皆わすれていくのです」
「ふむふむ」
トマが興味深そうに聞いている。アレクサンドラは続ける。
「あくまで迷信だと言われていますが、その流転炎は、この世界の果ての地、誰も到達する事の出来ない場所にあるとされ、そこにたどり着いたとしても厳しい試練が待っているそうです。そして、その炎を守る試練を司るのは、伝説の炎を彷彿とさせる、赤く金色に光る頭髪を持つ、妖艶な女神だと言われています。そもそも、人間がたどり着くことすら出来ない場所で女神の試練を受けるなんて夢物語……」
アレクサンドラが懸命に話していると、エマがパッとアステラムを見る。するとアレクサンドラも恐る恐るその視線に追従する。その顔色は徐々に青ざめていく。
「あ、赤く金色に光る頭髪のめ、め、め、め、女神……あわあわ」
「ぷっ、あはは! 面白い反応しないでよアリ」
尻もちを付くアレクサンドラを見て、エマはお腹を抱えて楽しそうに笑う。
「そうだ、私が流転炎を守る者だぞ」
アステラムは腕を腰に当てて自慢げにそういった。
放心しながらも、アレクサンドラは分かってはいた。師匠やトマと一緒にいると、こんな理解し難い出来事に遭遇するんだということを。でも、性格上不意に驚いてしまう自分が情けなかった。
(慣れるかな……)
肩を落とすアレクサンドラの頭をエマが撫でる。
アレクサンドラは、自分の気持ちを察してくれたエマに、恥ずかしさと嬉しさで、頬を染めるのだった。
「まあ、いいじゃん。じゃあさ作ってよ!」
エマが元気にそう言った。
「よーし、じゃあ行くよ」
トマは、二つを掲げて、呪文を唱える。
「【フュージョンソウル】」
黒い光が両手を包み二つの物体は、ゆっくりと浮き上がり重なっていきやがて融合する。その瞬間輝きが弾け飛び、空中には一つの杖が浮いていた。
緑色の宝石の様な柄の杖で、流転炎が最上部にあしらわれたシンプルなデザインだった。
トマはふわふわと浮いている杖を手に取り、アレクサンドラへ差し出す。
「はいっ。アレクサンドラ。どうぞ」
トマはにっこりと笑って差し出す。
しかし、
「は、はわわわわ! こ、こんなもの受け取れません」
アレクサンドラは草原に這いつくばって懇願するのだった。
エマとトマは顔を見合わせる。
「アリ。いいのよ。あなたも言ったじゃない。これは私たちの絆。トマとあなたの絆だから。私たちは大切な家族なのよ」
エマは、腰を落としアレクサンドラの肩に手を置きそう言った。
「そうだよ、アレクサンドラ。君の為に作ったんだ、是非受け取ってくれ」
「わ、わたわたし、まさか、トマ様がこんな大変なものを作ってくださるとは思いもよらず、本当に何も知らずに軽はずみな言葉を!」
顔を上げずに草原に突っ伏すアレクサンドラに代わってエマが話す。
「さっきの話にもあったように、どうもこの世界で杖は、アンティゴって言う総称になってて、色んな形があるみたいなのよ。そのアンティゴ中でも杖状の物は加工が簡単だから作りやすいんだって」
「へぇーなるほどね。そう言う事か。じゃあ、杖って木材を切り出して加工するだけって感じなのかな。確かにそれは簡単だけど、木を切って木材にしても杖に宿る魔力量は微々たるものだね。まあしかし、たとえそれを知っていたとしても、僕はこの杖を作ったよ。エマの大切な弟子に相応しい杖をね」
トマはアレクサンドラに手を差し伸べると、アレクサンドラは、その手を掴み立ち上がる。
「ほら、もらってくれ。そして、これからもよろしく。エマの事を頼むよ」
アレクサンドラは決意したように顔を上げる。
「は、はい! 頑張ります!」
アレクサンドラは、差し出された杖を胸に抱き、泣きながら笑った。
「なんで師匠の私がアリによろしくされなきゃいけないのよ」
エマは、不満そうに口を尖らせているがどこか嬉しそうだった。
今日はとても心地よい風が吹く、気持ちのいい陽気だった。五人は草原に座って、色々な話をするのだった。




