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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第八章 新たな幕開け
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第77話 フェアリーテイル

「……ここは?」

 トマがきょろきょろとしていると、

「ひっ! なんなんだい、あんた!」

 目の前には、妖艶な美しい女が、素っ頓狂な声を上げ尻もちをついていた。


「な、なんてことだ、お前みたいなもんがここに来るなんて……シンのやつ! 何考えてんだ! しかし、あんたみたいなもんが生まれちまうなんて、いったい現世はどうなっちまってんだい」

 そう言いながら立ち上がり、お尻を払う。

 その人物は紫色のドレスに、赤みがかった金色の頭髪を一本刺しで綺麗にまとめた長身の女性だ。小さな顔にパッチリとした目、厚く艶っぽい唇をしている。


「えーと、ここは何処なのでしょうか?」

トマは、目の前の光景に様子をうかがっていたが、その女性に尋ねることにした。

「なんだい、わかんないのかい? お前みたいな者が知らない事なんてないだろうに、それとも私をからかっているのかい?」

「いえ、からかっているわけではないです。大体予測はつきますけど、コミュニケーションは大切なので。それに、そんな人を化け物の様に言わなくても……」

 トマは両手を少し上げて、笑顔でそう言った。

「はあ。私には、あんたは化け物にしか見えないよ……そう見えないのだとしたら、その者はそれだけの力しか持ち合わせていない人物。それにしても、不思議なのは、あんたの【マハートマー(偉大なる魂)】は大部分が欠損しているようにみえるけど?」

「ははっ、そんな事が見えるんですか? しかし、それにはふれないようにしてもらえれば嬉しいですが……」

 トマの雰囲気が変わり、その場は重苦しい空気に支配される。


「うっ……す、すまない。分かった……もう二度と言わない」

 アステラムはその重圧に耐えきれず、そう言った。その瞬間にトマに笑顔が戻る。

「ありがとうございます」


(……やっぱりとんでもない化け物だ。欠損してこれだとしたら、本来の力は……)

 女は、そう考えるだけで背筋が凍る思いがした。

「すいません、僕は流転炎(るてんえん)が欲しいのですが」

 ぶつぶつとつぶやいている女にトマが聞く。

「……ああ、すまなかった。本当におかしな奴だよ、お前は」

「そんなにおかしいですか? 無害ですよ」

「ところでお前、私の婿にならないか?」

 その場に一瞬の沈黙が訪れる。


「えっ? む、婿って、嫁とか婿とかの婿?」

「そうだ、気に入った! 強い男は好きなんだ。お前なら非の打ち所がない」

「えーと、まさか、流転炎をもらいにきて、この流れで結婚を申し込まれるとは思っても見なかったので、えーと、ごめんなさい」

 深々と頭を下げるトマ。その瞬間、女は膝をつく。

「くっそー、なんでだ! 自分で言うのも何だが、私は結構いい女だと思うがね!」


「……そう言われましても、見ず知らずの人と結婚するわけにはいかないので」

「なんだ! 私の事が知りたいのかい! 名前は、アステラム! 身長は170センチ! バストは――」

「ス、ストップストップ! アステラムさん、そう言う事ではありませんので!」

「はあはあ、えっ? なに? 難しいものだねえ、男と女は! しかし、初めての男に振られたとあっちゃ、このアステラムの名が霞む。私は諦めないからね!」

 腕を組んで、仁王立ちでトマを真っすぐ見据える。


「初めてのってなんか語弊がありますよ。申し遅れましたが、僕はトマと言います。それで、流転炎を――」

 トマが言いかけると、アステラムが声を荒げる。

「何考えてんだい、あんた! 一体どうする気だい! そんなに強いのに、私が試練なんて与えられる訳がないじゃないか! も、もしかして、抵抗する事の出来ない圧倒的な力の差がある私を強引に……ああ、そうか、それはそれで仕方がないのかもしれない。さあ! 覚悟は決まったよ。さあ! あんたの好きにしておくれ。そして、そうなってしまったら、ちゃんと責任を取ってもらうからね! 私と一生の愛を!」

 何を覚悟したのか、目を閉じてその場に横になるアステラム。

「もういいです」

 しかしトマは冷たくそう告げると、(きびす)を返してその場を離れようとする。

「ちょ、ちょっと待って! わかった、わかった! 冗談じゃないかい。もう冗談が通じないなんて、なんてお堅いお人! いや、しかし、そんな所も私好みだね!」

 アステラムの感情の変化にトマはついていけない。トマは冷ややかな目を向ける。

(この人、エマとは違う面倒くささがあるな)

 面倒な人の対応には慣れているはずのトマだが、別の種類に出会い困惑するのだった。

 

 トマがアステラムをじとっとした目で見ていると、流石にいたたまれなくなったのか、ゆっくりと口を開いた。

「ご、ごほん。で、では……説明を。流転炎は転生の炎。授かりし者は、強大な力を得ることが出来る。通常は、ここを訪れた者には、私と戦いその力量を図り、それに合格した者だけが、流転炎を持って帰れる事になっているのだが、トマ殿は明らかに私より格上。こんな事は始まって以来なかった。私がトマ殿と戦った処で、捻りつぶされるのが落ち。ただ、そのまま持って帰ってもらうのも道理が違う。じゃあこうしよう。トマ殿の心を少し覗かせてもらう。いうならば、自分と対峙する試練だ。どうだい?」

「自分の心……うーん。まあ、試練を受ける決まりですから仕方がないですね」

「あら、私がさっきトマ殿のマハートマーのことを言った時はあんなに拒否したのに、意外な反応だね」

「今はなんとなくアステラムさんの事も分かって来ましたから。好きですよ、あなたのマハートマー」

「すすす、好きだって! そ、そんな言葉、気軽に言うもんじゃないよ!」

 アステラムは両手を頬に当てて、首を左右に振る。

「マハートマーですよ。聞いてます?」

 トマは面倒になりつつ、どこか憎めないのだった。

「な、なんだい、マハートマーかい。はあ、よ、よし。気を取り直して、じゃあいくよ。【リーチディスティネー(目的地到達)ション】」

 アステラムがそう唱えると、緑色の光がトマを包んだ。

そして、トマはゆっくりと眠るように目を閉じるのだった。


 

 そこには一人の男の子が立っていた。

しかし、何か違和感があるその顔。まるで糸で縫って作ったような目と鼻と口。そのただ、真っ白なその広い空間に一人きりで立っていた。

ただ茫然と立ち尽くす男の子。

 でも、どうにかここから出たくて、辺りを見渡すが、どこにも出口なんて見当たらない。


 きょろきょろしていると、一匹の小さな黒い蜘蛛が上空から糸を垂らしながら降りて来た。

 真っ黒で小指の先ほどの大きさのその蜘蛛は、まるで宝石のようにピカピカと輝いている。


『オマエハ、ナニヲシテイル?」

 その蜘蛛は確かにそう聞いた。

「僕は、ずっと待っているんだ」

 男の子は、そう答えた。

『ソウカ、ワタシモマッテイル』

 蜘蛛は答える。

「ここはどこか知ってる?」

 少年は尋ねる。

『ココハナニモナイセカイ。スベテハ、ナイ。ナニモ、ナイ』

 蜘蛛は答える。

「そっか。それは悲しいね」

 少年は俯く。

『ソウダ。トテモカナシイ』

 蜘蛛も静かにそういった。

「いつか、ここから出られるかな?」

『ワカラナイ……』


 少年の心には、真っ黒な何かが広がる。行く先もない。出口もない。自分を必要としてくれる人もいない。

「僕はどうして、ここにいるんだろう」

 少年が言うと、

『ソレハオマエガ、ツクラレタ、ソンザイダカラ』

「僕は作り物?」

『ソウダ。ワタシモ、ニタヨウナモノ』

 沈黙が訪れる。

『ソウカ、ジャア、ワタシトトモダチニナレ』

 蜘蛛が言った。

「友達?」

『ソウダ、トモダチ。ニタモノドウシ。イツカココカラ、デラレルトキマデ、トモダチダ』

「そうか、君と僕は友達だ」

 少年が縫い合わされた作り物の口でそう言った瞬間、その真っ白な世界は視界すべてを白く染め、何も見えなくなる。どこまでも落ちて行くような感覚の後、ゆっくりと目を開けると元の世界に戻っていた。

 トマの、大きくて綺麗な曲線を描く瞳から、一筋の涙がこぼれて頬を伝っていた。


「あっ、戻ったのか」

 トマは眼をぱちぱちさせて辺りを見回す。


「はああ! すまん、トマ殿! すまない! こんな悲しい顔をさせる事になるとは!」

 アステラムは、床に突っ伏して地面に頭をこすりつけていた。

 トマはきょとんとする。

「いえ。大丈夫ですよ。少し昔の事を思い出しました。どうぞ顔を上げてください。それにこれは試練なんでしょう?」

 トマは、悲観するアステラムの肩にやさしく手を置く。

「何もせずにいただくのも気が引けますから。あなたなら、見てもらっても大丈夫ですから」

「トマ殿!!」

 アステラムは抱きつこうとする。しかし、トマはヒラリとかわすのだった。

「ちっ、流石に素早いな」

「アステラムさん、何がしたいんですか?」

 そんなこんなで試練は終わりを迎えるのだった。


「それでは、トマ殿をもとの世界へ送り返す」

「はい、お願いします。ありがとうございました」

 トマがお辞儀をすると、

「トマ殿、どうかまた会いに来てくれないか?」

 アステラムが寂しそうそう言った。

「はい、もちろんです。どうせすぐ会えますよ」

 二人は笑顔でお別れを言う。

 トマは手を振りながら消えるのだった。


「はあ。トマ殿。早く会えるといいな」

 薄暗い世界で、アステラムはそう呟くのだった。



 目を開けると、目の前には炎の灯った台座が見える。どうやら帰って来たらしい。

 視線を落とし、自分の手を見ると赤色の雫の様な石がてのひらに乗っていた。石は透き通っていて、とても澄んでいる。何の抵抗もなさそうなその綺麗な曲線を指でなぞると、甲高く綺麗な音がした。

 無事に流転炎を授かることが出来たようだ。

 しかし、トマは怪訝な顔つきでゆっくりと隣を見る。

「それで? なんでいるんですか?」

「えへへ、思いついたのだよ。そうだ! ついていけば待たなくても会えるじゃんって! 本当にすぐ会えたねえトマ殿!」

 そこには、隣では片足を上げてお茶目なポーズをとるアステラムが居たのだった。

「まったく……これから誰が流転炎を守るんですか……」

 トマは、面倒事が増えてどうしようかと、グッドサインを顎に当てて頭を捻るのだった。

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