第76話 アドベンチャーモード
ここは、天国の山と言われる、【ノスタビール山岳地帯】。
ルバン大陸の最北端に位置し、凍結の国と言われるロシンにその山岳地帯はある。
「よいしょっと」
切り立った岩山に小さな手がかかる。トマは今標高十万メートルの岩山が連なるこの山岳地帯を登っていた。
「ふう。久しぶりに体一つで登山するって言うのも、なかなか楽しいものだな。引退後の趣味に加える事にしよう」
パンパンと、手で埃を払いながらトマは呟く。吹く風がトマのさらさらな髪を泳がせていた。
「さてと、山頂付近に着いたから、この辺りのはずなんだけど……」
トマはそう言いながら、リズムよく軽々と山々の間を跳躍して行く。辺りは視界が悪く、靄がかかり、すぐ先も見通すことが出来ない。
「おっ! あれかな?」
何かを見つけたトマは、綿毛が舞うかのようにそこに降りる。
「どうも、お初にお目にかかります。【山神族】のお方ですか?」
トマは両手を広げて頭を下げ、何も持っていない、敵意がない事を相手に知らせる。
「んっ?」
目の前に居る白く透き通るような肌を持つ羽の生えた人物は、トマを見て首を傾げてしばらく停止した後、
「ひっ! お、お前、なんだ! ひ、人族か? い、いや、いるはずない! な、なんでこんなところに、うわぁ! おばけ!」
慌てふためいてそう言うと、銀色の髪が生えた頭を抱えて、しゃがみこんでしまった。
その者は、桃色と緑色のラインが入った、丈の長い民族衣装を着ていて、頭には同じようなデザインの装飾品をしている。
銀色の耳にかかるぐらいの頭髪をし、背中には小さな白い羽が生えていた。
「驚かせてしまいました。突然すいません。僕は、トマ・ブリスティアンと申します。ただのしがない魔法使いです」
トマは慌てずに、先ほどの姿勢を一切崩さず、頭を下げたままそう言った。
すると、その羽の生えた人物は、恐る恐る顔を上げる。
「お、お前は、大丈夫な人族……か?」
「そうですね……大丈夫の基準が分かりませんが、争いの意思は一切ありません。むしろ煮るなり焼くなり納得のいくまで調べて頂いて構いません」
「……我々にそのような習慣はない。魂を調べさせてもらう」
そう言うとトマの手を取る。
暖かい橙色の光が灯る。その少女は、目を閉じてじっとしている。しばらくそうして口を開いた。
「うん、お前は大丈夫だ。しかし、珍しいほどに純粋な魂……」
何故かその少女は、長いまつ毛を動かして、頬を赤くし、伏し目がちになる。
「私の名は、ルーシェアン・リナージュ。お前の言う通り山神族だ」
ルーシェアンは、トマとさほど変わらない身長だった。白い肌に頬は桃色をして、大きな目に長いまつげ、小さな鼻と口。背中にある羽も相まって天使がこの世に存在するのなら、きっと彼女の事だろう。
「それで、お前は何の用だ?」
ルーシェアンは、ビシッと指を指してトマにそう言った。
(ふふ。なんだか、エマみたいだな)
「ああ、そうでした。僕は、【流転炎】を授かりに来たのですが……」
トマがそう言うと、ルーシェアンは慌てた様子でいう。
「お、おまえ! 正気で言っているのか?」
「はい。大切な人の為にどうしてもその炎が必要なのです」
「なっ! た、大切な人っ!」
ルーシェアンは顔を真っ赤にして後ずさりする。
「そ、それは、お前の、す、好きな……ごにょごにょ……」
「えっ、なんて言いました?」
俯きながら小声で話すので、聞き取れずにトマが聞き返す。
「い、嫌、な、なんでもない! 流転炎を授かるには厳しい試練が必要だ! その覚悟はあるのか!」
「はい。十分承知しております」
(ぐぬぬっ……そんなにその者が大切なのか……)
「仕方ない! わかった。ではついて来い……」
ルーシェアンは、項垂れながらそう言うと、谷を飛び越え次の山へ飛んでいく。トマはその後を追うのだった。
しばらく行くと、開けた場所に出た。その辺りの山々には、洞窟のような入り口が無数に開いている。そしてその入り口には、民族衣装と同じような装飾が施された布が飾られていた。
「ここだ。ついて来い」
ルーシェアンは、一つの洞窟の入り口に降りると、トマの到着を少し待ってからそう言った。
所々に明かりが灯る薄暗い洞窟の中を進んで行くと、予想もしなかっただだっ広い空間に出た。そこは、光で満たされていて、まるで昼間の様だった。
「へぇー凄いですね。ここで生活されているのですか?」
見回しながらトマがそう言うと、奥のほうから声が聞こえてきた。
「そうよ。私達山神族は、古くからこの地の奥深くに寄り添い暮して来た」
一人の女性がそう言いながら現れる。ルーシェアンと同じ民族衣装に身を包んだ、長髪の女性。女性は静かに口を開く。
「私の名前は、ミュシィ・リナージュ。ルーシェアンの母です」
「初めまして。僕は、トマ・ブリスティアンと申します。実は――」
「分かっています。あなたの事はもう既にルーから聞いていますから」
いつ話したのかは分からないが、ミュシィはそう言った。
「さあ、こちらへ。シン王が待っています」
そう言って、視線を落としながら静かに方向を変え、歩き出すその女性にトマは自然とついて行くのだった。
明るい通路を歩いて、トマは先導するルーシェアンとミュシィの二人について行く。
すると、奥の方に大きな門が見える。
「さあ、ここです。私たちはここで待ちますので、あなたは、この先に進みなさい」
「お、お母様、どうしてですか?」
ルーシェアンが聞くと、
「良いのよ、ルー。この全ては決まっていた事。あなたと出会うことも、私達と出会う事も、そしてこの先の事も」
ルーシェアンはキョトンとした顔をしてミュシィをじっと見つめている。
するとゆっくりと門が開く。トマはその中へと足を進めるのだった。
その中は綺麗なドーム状の空間で、桃色と緑色の綺麗な模様が壁に描かれている。その中心にある台座には、一つの炎がフワフワと浮いていた。そして、台座の前で跪き祈りをささげている一人の人物がいた。
その人物は、立ち上がり振り返ると、トマに向かって歩みを進める。
「よく来たなトマよ」
短髪の頭の上には、桃色の羽と緑色の羽が刺さった王冠。細身だが屈強な筋肉をした精悍な顔立ちの男。上半身は斜めにデザインされた服で体が半分見えているが、下半身は綺麗な装飾の腰巻がついた脚衣を纏っている。
「どうして、僕の名を?」
トマが尋ねると、
「君が今日ここへ来ることは、ずいぶん昔から知っていた。出来れば理由は聞かないでくれ」
トマはグッドサインを顎に当て少し考える。
「警戒するのも無理はないが、理由はいずれ分かるだろう」
「もしかして、あなたは――」
トマが言おうとするが、その男は微笑んで人差し指を自分の口の前で立てて、それ以上の言葉は不要だと伝える。
「私の名は、シン・リナージュ。お察しの通り、ミュシィの夫で、ルーの父だ。そして、この山神族の王でもある。トマよ、では流転の炎の前に立ちなさい。もし、流転の問いに答えることが出来るのなら君に力を貸すだろう」
トマは頷き、炎の前に立つ。
「手をかざすのだ」
シンの言葉で、トマは炎に手をかざす。すると、かざした手にその炎が燃え移る。
そして炎は、そのまま体全体を覆うように広がっていった。
トマの体は不思議な炎に覆われ、自分の体を見回す。とても強く燃え上がっているが不思議と熱さは感じない。
『さあ、汝の意思を示せ』
唐突に頭の中に響く声。
トマは自然と目を瞑る。次の目を開けた瞬間、そこは微かな明かりが灯る薄暗い世界だった
あまりにも、人物と名称が多いのでどこかでまとめとこうかと考えています。いつもご覧いただきありがとうございます。




