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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第八章 新たな幕開け
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第73話 インボーン2

 カロの授業が終わると、リリーはそのまま裏庭で次の講師を迎える準備をしていた。 

 すると、ウォルシュ邸の裏庭へ続くテラスから一人の人物が入ってくる。姿勢よく歩いてくるその人物は、裏庭に出るや否や言い放つ。

「さて、リリー様。先ほどのことからよくお分かりとは存じますが、本日は予定を変更し、私が放つ剣を全て受け止めていただきます」

 入って来たのはエリスであった。その左手にはよく磨かれた片手用の剣を握り、右手を刀身部分に添えている。

 エリスは、ダークブロンドの腰まであるストレートヘアーを、後頭部で一本にまとめている。

 その身長は、百七十七センチメートルと高く、それに加え顔も小さく美形で10頭身以上あるのではないのかと思うほどだ。すっとした高い鼻の両端には、コバルトブルーの目がよく目立っていた。

 服装は動きやすそうな軽装で、ピタッとしたトップスとボトムス、皮のコルセットベストとブーツを履いている。


 エリスは剣技に長けており、リリーはウォルシュ家に来て以来エリスの厳しい教育を受けていた。

 

「えっ、エリスさん! まあ、僕も悪いと思うんだけど、それはちょっと自信ないなあ……」

 リリーは自信なさげに小声でぼそぼそとしゃべり恐る恐るエリスを見る。


「リリー様。誠に残念ですが今回ばかりはもう私も許せません。いつもあれほど念押するにもかかわらず何度もお約束を破られ、事もあろうにあのカロ様をお待たせするとは、余程、危機管理のなっていないご様子。この辺りでしっかりとその身に刻んでおいていただかないと、エドワード様、エミリー様、カロ様に私が顔向け出来ません。さあリリー様! 覚悟はよろしいでしょうか!」

 

 そう言うとエリスは勢いよく左手の剣を突き出し、それと同時に右足を大きく踏み出して戦闘の型に入る。

 その流れるような動きのなかで、刀身が空を切る音と右足が大地を踏む音が鳴り、それに追従する形で長く美しいポニーテールが波打った。その洗練された所作にリリーは圧倒されたが、

「ちょ、っとまっって」

よろめきながら慌てて剣を取り、そして構えた。


「いざ、勝負! 天津剣技第一型あまつけんぎだいひとかた 花真風(かしんふう)!」

「えっ! し、勝負って?」


 リリーの不安な声など気にもとめず、エリスは準備万端だ。

 エリスの気迫に押され、リリーは思わず受け身の姿勢に入る。覚悟を決めたリリーも真剣な顔つきになっていた。


 一つ一つ攻撃が正確で早くて重い。リリーは一つ一つを丁寧に受け止める。


 かなりの時間そうしている気がした。

 身体中から汗が落ち、瞳に入るが、全く動じずしっかりと剣筋を見る。

 少しの油断が命取りとなる、その厳しさをエリザベスから教わっている気がした。


 「やめ!」

 

 エリスがそう言い放ち、訓練は終った。


 「はあ、はあ」

 リリーは両手で膝に突っ張りをしてかろうじて立っている。乱れた呼吸に合わせ体が大きく上下する。

「リリー様。よく頑張りました。本日はこれまでとします。ではお風呂場で汗をお流しください。昼食にいたしましょう」

「あり、がとう……ございましたぁ」

 リリーはお辞儀をして、かろうじてそう言うと屋敷に向かって歩き始めるのだった。


 エリスはリリーを少し目で追ってから、その場の片付けを始める。すると背後に忍び寄る人物。


「いやはや、なんとも厳しい講師だな、エリス」


「カ、カロ様! まだいらしたのですか!」

 エリスは驚いて振り向き、少し声が裏返る。


「お前ほどの者が背後に立たれるとは、修業が足らんぞ。それにしても驚きすぎだ。私も、ウォルシュ家の大事な一人息子を見守りたいのだよ」

 カロはとても落ち着いた声で話す。

 エリスはカロだからと言うのもあったが、必要以上に驚いた自分を反省した。

「ありがとうございます。それは……私もできる限りのことがしたい、と思っています……」


「それでどうなんだ、リリー様は」

「はい、それが……」

  エリスは思わず言葉に詰まる。そして、しばらくの間をおいてから、

「根性はあります。それに、剣技の筋も悪くないと思うのですが、しかしながら、あまり成長が見込めない現状です」

 ゆっくりとそう言った。カロは口髭をさする。

「なるほど。私もずっと見ておったがそれは薄々気づいておった」


 エリスは下唇を噛む。

「なぜ……なぜエドワード様はリリー様をお連れになったのでしょうか?」


「ふふ。エリスよ、そう答えを焦るものでもない。子供と言うのはあっという間に成長するものだ。昨日まで青虫だったとしても、一晩で見違えるような姿になる事もあるのだよ」


 カロはそう言うとエリザベスの肩に手を置く。おもわずエリスはうつむく。

 そしてそのままその場を立ち去るのだった。

 エリザベスは何かに囚われたかのように、太陽の光を反射しキラキラと光る刀身を見つめ、しばらく考えていたが、脳裏をよぎる不安を拭い去るかのように頭を数回振り、また片付けを始めるのだった。


『うーん、どういう事かしら?』

『私なんかには、皆目見当もつきません』

 その一部始終を、ウォルシュ家の屋根の上で見ていたエマとアレクサンドラ。

 もちろん姿を消し、スルーコミュニケー(思念通信)ションを使っている。

『師匠。私は、スルーコミュニケーションって魔法がある事すら知らなかったんですが?』

『うーん、もう謎だらけね。あの子、全然弱いんだもん。そうは見えないんだけど』

『師匠! スルーコミュニケーションってまほーー』

『あーもううっさいわね。アリ、とりあえずあんたはもう面倒なんで、後で魔法の知識を全部ぶち込むから』

『す、すいません。ぜひとも優しくお願いします……』

 アレクサンドラは、目を瞑り、恐縮しながら小さい声でそう言った。

『まあ確かに今のあの子の魔力はとても小さいわね。でもあの時、復元魔法を使えてたし……』

 エマが首を傾げていると、アレクサンドラが思いついたように口を開く。

『もしかして、魔力障害でしょうか?』

『何それ?』

 エマが聞き返す。

『魔力障害と言うのは、先天的に魔力をうまく使えない事を言います。世界中の人々は、個人差はありますが、魔力を持って生まれてくる事が当たり前ですので、体のどこかに問題があってその魔力が使えない事は、生きていく上でかなりの問題なのです』

『そうかぁ、ふーん。この時代では誰もが魔力を持って生まれて来るのね』

『エマ様の時代は違ったのですが?』

『そうね。私の時代では魔法使い自体珍しかったからね』

『そうなんですか……ということは、師匠の時代に魔法の起源があるのかもしれませんね』

 アレクサンドラがエマの方を向いてそう言うと、エマは少し沈黙してから、

『たしかに、そうね……』

 とだけ思念を送り、遠くを見つめる。

 アレクサンドラにはその横顔が酷く悲しそうに映った。


『エ、エマ様……今度エマ様の時代のお話を聞かせてください……何でも聞きますから、私、私、どんな辛い事でも、聞かせてください。し、知りたいです、師匠の事……それで、それで、どんな事があっても、私、私はずっと師匠のそばにいます……」

 アレクサンドラは俯きながら思わずそう思念を送った。


 すると、エマはアレクサンドラへ目を向けて微笑む。

『ありがとう、アリ。分かったわ。すっごい長い話だけど、覚悟しなさい!』

 アレクサンドラは晴れやかな笑顔で顔を上げると、

『も、もちろんです! どんとこいってやつです!』

 そして、軽く胸を叩いた。それを見たエマは、とても楽しそうに笑っているのだった。


『それにしても、アンティゴなんて指輪初めて聞いたけど、私の時代から進化した技術かもね』

 すると、アレクサンドラはパッチリと目を開けて、

『アンティゴなら知ってますよ! 魔力宝石を埋め込んだ道具で、杖とかアクセサリーとか沢山の種類があります。古い文献を読んだんですが、昔は杖しかなかったらしいですけど』

 人差し指を立てて得意げにそう言った

『あーなるほど、私たちの時代で言う魔法の杖が変形したようなものなのか』

『はい、多分そうだと思います。今でも杖は定番です。そして、一番手軽で簡単に作れるのも杖なのです。えっへん』

『物知りね、とでも言って欲しそうね。でも今ので分かった。あんたがトマに杖を頼んだのは、作るのが簡単だと思ったんでしょ?』

『はい、そうです! 杖は、木材さえあれば加工も簡単で、魔法宝石を埋め込めば終わりです。エマ様の弟子となりましたので、何かお二人との絆が欲しいと思いまして……やはり、魔法宝石は高価ですから、無理なお願いだったのでしょうか?』

 すると、エマは苦笑いを浮かべる。

『トマとあなたの常識の違いが生んだ妙……いや考えてもしょうがない。調べなかったトマが悪いことにしよう。そうだ、そうしよう』

 エマはしっかりと頷き自分だけが納得する。

 アレクサンドラは、その様子を横で見ていたが、意味が分からないようでキョトンとしているのだった。


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