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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第八章 新たな幕開け
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第72話 インボーン

「準備は良いですな! 放て!」

第一門陣階位魔法だいいちもんじんかいいまほう バーン(燃えろ)!」

 リリーが手を前に突き出しそう唱えると、赤色の魔法陣が現れかざした手に炎が現れる。初めは、勢い良く燃えていた炎だが、リリーの苦悶の表情とともに徐々に衰えていく。

「はあ、はあ……」

 耐えきれず膝をつくリリー。


「リリー様。人には向き不向きがありますから、気を落とさずとも大丈夫です」


 ここはウォルシュ邸の裏庭。

 リリーの横でその様子を見ながら微笑みかけるこの人物は、リリーの家庭教師であるカロ・オッティ。

 ロマンスグレーの髪とふさふさの口髭をしている。ローブを着こんでいるため目立たないがその体は鍛え抜かれている。カロは立派な口髭を動かしこう言った。


「ではリリー様、気分転換に少しおさらいをしますかな」

 とても重厚で低く、その幾重にも重なった声質はそれ相応の年齢を重ねて来た事が分かる。カロはそう言うとリリーの右手を掌に載せる。


「さてリリー様、その指輪はどのようなものでしたかな?」

 カロは、リリー右手に光る金色の指輪について尋ねる。


「はい、カロ様。これは魔法補助装置の【アンティゴ(魔法宝石補助具)】です。形は色々ありますが、その役割は魔法使いの魔力を高めることです」

 リリーの右手中指にある金色の指輪は、緑色の宝石が埋まった曲線が特徴的な装飾が施されていた。


 そこまでいうとカロが口髭をさすりながら口を挟んだ。

「よろしい、そうですな。アンティゴの形状は様々です。本来その形は杖でしたが、指輪や首輪、その他装飾品と現代においては多種多様に及びます。ではその石はなんですか」

 カロは、人差し指をリリーの指輪に向ける。

「はい。これは、魔法宝石です。生成される工程は様々ですが、地球上に存在する天然の魔力を帯びた宝石で、これのおかげで魔力が増幅されます」

「そうですね。我々の身体中を巡る魔力を一点に集中して増幅し、それを放出する為の道具がアンティゴと言う訳です」


「……カロ様、僕には魔法は向いていないのでしょうか? カロ様からご指導いただいて随分立ちますがあまり手応えがないと言いますか……」

 リリーは、綺麗な輝きを放つアンティゴを見つめながら、肩を落とす。

 そしてリリーの脳裏には、養父であるエドワードとの事が浮かんでくる。


 エドワードは、魔法技巧に長けており、アンティゴなどの魔法道具を作成する事が出来る。更に、その腕前はかなりのもので、近郊の国からも依頼がある程だった。

 この指輪は、リリーが魔法学校への入学も近づいて来たので、そのお祝いにエドワードが作成した。

 アンティゴには、簡単に作れる物から、複雑な物まで沢山ある。複雑な物は多くの工程を経て形成されていき、長い時間がかかる。

 リリーの手にしているその指輪は、その魔法宝石も、そしてその金属も特別なものだった。

 緑色のその宝石は、とても硬いサンゴを加工したものだ。

 ライザ帝国の沖合にある、トルバ海域にしかいない希少種である【モンガバンガ】という硬い珊瑚獣の殻を加工する。

 モンガバンガは肉食で獰猛、採取すること自体が命がけであり、仮に殻を採取出来たとしても硬すぎて、加工は困難を極める。

 しかし、それを宝石にした物は、とても素直に使用者の魔力に順応するので、希少だが人気が高い。貴族たちがこぞって大金を積み、欲しがるような物なのだ。

 また、リリーの指輪に使われている金属も希少なもので、隕石を高濃度の魔力で圧縮し形成する技術である、|マジッキングコンプレッ(魔法圧縮形成技術)ションをつかって仕上げた、【マジックメテオライト】と呼ばれる金属であった。

 ここまで長けた技術を駆使した代物は、世界中を探してもエドワードでなければ作れないといっても過言ではない逸品であった。


「父上! このような代物とても自分には似つかわしくないと思います……」


「ははは! 今の君には不釣り合いかもしれない。でも、いずれは君がこの道具に追いつくんだ。その時きっと役に立つ。それと、このアンティゴの事は誰にも言ってはいけないよ。世の中には悪い奴が居るからね。誰かに聞かれたら、そうだねえ、よく似た魔法石で、一番格下の魔法石の名前を言えばいいよ。どうせ、モンガバンガだと言っても信じる人はいないだろうけど」


 エドワードはそう言って笑うが、リリーは、自分が強くなるなんて事は自信もないし、想像もつかないのだった。

 

 リリーが自分のアンティゴを見つめながら物思いにふけっていると、その様子を少し観察した後で、カロは静かに口を開く。

「そうですなぁ。まだ焦って答えを急ぐ必要はないとは思いますが、リリー様の場合その体内にある魔力量が人より少ない気がいたします」


「そうですか……」

 明らかに落胆の色を見せるリリー。

(これでは誰も守ることが出来ない……)

 リリーは何故か分からないが、大切な人を守りたいという願望をいつも抱いていた。そして、そうできない自分の力らに焦燥感を抱いている。

 

 「ですがリリー様はもうすぐ魔法学校に通うことが決まっておりますから、そこでの修練により如何様にも魔力を伸ばす事は可能かもしれません」

 そうは言ったが、カロは感じていた。

(リリー様の場合これから伸びたとしてもたかが知れているかもしれない。体内にある魔力量が余りにも少なすぎる。魔力障害とも違うようだが、私は今までこのような人間を見たことがない)


 カロの授業は本日九時からだったのだが、先の事件のせいでリリーは、十分ほど遅刻した。あれほど、エリスにくぎを刺されたにもかかわらずにだ。

 慌てふためきながら、言い訳をしようとするリリーに、カロは全く気にせず「はっはっは! リリー様の好奇心にはかないませんな!」と笑い飛ばしていた。

 しかし、リリーはその場にいたエリスの目線が怖かった。苦言を呈すこともせず黙ったままだったエリス。いったいどんな顔をしているのか、見ることも出来ず、うつむいていたのだった。

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