第71話 ミラクル2
大変ゆっくりではありますが、できるときにアップしていこうと思います。
見守っていただければ幸いです。
一応完結まであらすじは考えておりますが、構想が長編でどこまでお付き合いいただけるかわかりませんが、これからも見ていただけたら嬉しいです。
黒いその動物は、つんと出た鼻だけをスンスンと動かし、周りの状況を探り始める。そして、一頻りそれを繰り返すとゆっくりと目を開けた。そして、首だけ動かし力なくリリーの顔を見る。
その瞳は大きくて丸いが切れ長で、宝石のように複雑な何種類もの緑色をいていた。
見つめると吸い込まれそうになるくらい奥深く、その中には無数の光の筋が見えた。小さい瞳だが大きくて未知の世界が広がっている、リリーはそんな気がした。
「よ、良かった……なぜ君が生き返ったのかわからないけど……とにかく良かった」
リリーは一切の力が抜け、動物の安全を気遣い両手を固めたまま、膝から崩れるように座り込んだ。その時、
『貴方様ですか? わたくしめを蘇らせて下さいましたのは?』
うなだれているリリーの頭上から不思議な声が聞こえた。
リリーは驚いて顔を上げる。
「い、今、君が喋ったの?」
『いえ、貴方さま。これは【スルーコミュニケーション】と言いまして、魔力による意志伝達方法でございます。つまり貴方様の頭の中に直接語りかけております』
(えっ! そっか、じゃあ口に出さなくてもいいのかな……?)
『そうでございます』
リリーが頭の中で思ったことがそのまま伝わった。
『あっ、君は僕が思ったことが全部読み取れるの?』
リリーは思わず心に浮かべた事が相手に伝わったので驚いた。
『いえ、通常はこの様な事はございません! これは大変おかしな事態であります。通常スルーコミュニケーションではお互いに送る意思を込めて話します。つまりお互いの扉は開いておかないといけない。意志の疎通は一方通行では駄目なのです。しかし、貴方様とわたくしではその関係もなく、思ったことが全て筒抜けになる様であります』
リリーが首を捻り考えていると、
『これは、推測でありますが……』と黒い動物はリリーの手からスルリと降りる。そして、前足を綺麗に揃え座るとリリーの顔を見上げながら、
『貴方様の施された、復活の魔法に原因があるやもしれません』
『えっ! 復活の魔法!? 僕はそんな魔法を使えないよ。嫌、でもそうか、君が生き返ったわけだし……』
すると黒い動物は右手を自分の頭頂部に乗せてから、顔を傾げた。何やら考えを巡らせているようだ。
『それは難しい問題だと思われます。使えないはずの魔法が使えるなんてそんなことは本来あり得ないのですから。もう少し深く考える必要があるようです』
その時大きな鐘の音が鳴り響いた。
幾重にも重なった重厚な音が国中に響く。
リリーはハッとする。
「うわうわっ! 九時だ! エリスさんに怒られる!」
リリーは急いで走り出すが、その瞬間頭の上に幾分かの重さを感じリリーはびっくりして首をすくめる。
『それは大変です。さあ、お急ぎ下さい、貴方様!』
先ほどの黒い動物はリリーの頭にとても上手く納まり、そのつぶらな瞳はしっかりと確実に前だけを見据えていた。
この状況にリリーは少し焦りながらそれでも走る事は、止めなかった
『あのー、ついてくるの?』
リリーが目線を上にずらす。
『当たり前です、貴方様。命の恩人にこのまま何も返さないのは一世一代の恥。さあ! お急ぎください、エリスさんがお待ちです!』
『う、うん!』
リリーはあまり事態が飲み込めていなかったが、何故か心が弾んでいた。
(なんでだろう、不思議な気持ち。なんだか嬉しい気分がする)
『わたくしも同感です!』
『そうだった! 全部伝わるんだった。君とは隠し事ができないね』
リリーは少し不便に感じたが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
お互いにとってこの出会いが、これからの運命を大きく変えて行く事になろうとは、今はまだ本人達には全く予測もつかないのだった。
そして、不意の出会いに心躍る二人は、上空から覗く気配など知る由もないのだった。
「なんか、不思議な場面に出くわしてしまいましたね」
「うん。あの子、復元させたわね」
アレクサンドラとエマは、上空でそんな話をする。
「すいません師匠。わたし少し疲れました……ちょっと、降りていいですか?」
「ああ、じゃあ、あの路地に降りましょう」
「はあ! 限界です!」
なれない魔法で疲れたのか、アレクサンドラは降りると同時にへたり込む。
「おつかれ~。もう体力なさすぎ。帰ったら特訓ね」
「エ~!」
アレクサンドラはとても困った顔をする。
「そ、そう言えばエマ様、復元ってなんですか?」
うなだれていたアレクサンドラは、顔を起こしエマに聞く。
「えっ、復元よ。知らないの?」
「はい、聞いた事もありません」
エマは腕組みして考える。
「うーん、そっか。復元魔法がない……? そっか、それで今まで色々おかしい反応だったのか」
エマは、今までの出来事を思い返し、納得する。
「えーとね。復元って、文字通り元に戻すのよ。物体をもとある状態に戻す」
エマが言うと、アレクサンドラは口を開けたまま少し考えてから、
「えっ! それはどういう意味ですか、もしかしたらですが、時間をさかのぼって戻すんですか、ってそんな訳ないですよね~」
エマは、またまたーと言わんばかりに笑顔で掌を上下させる。
するとエマは平然と、
「そうよ」
と答えるのだった。
「いやいや、そんな事……それじゃあエマ様は時間を操る事が出来るって言ってるのと同じですよ!」
「そうか、この世界の人間はできないのか……」
エマが、少しうつむきながら言う。
変な間が開き、アレクサンドラは恐る恐る聞く。
「……出来るんですか?」
「うん、出来るよ」
「そんな事……まさか……」
アレクサンドラは想像すると少し怖くなる。
「まあ、あんたもこれからはそうなるんだから覚悟しといた方が良いわね」
その言葉を聞き、アレクサンドラは急に真顔になる。
アレクサンドラは、自分の覚悟が浅すぎたのかもしれない事を反省した。しかし同時に自らに問てみる、自分の覚悟はその程度だったのかと。
(私は命を救われた時から何があってもついて行くと決めたんだ。私はエマ様と一心同体。驚くべき事じゃない。それよりもその強大な魔力を手にして、私がどうするのかが大切なんだ)
「頑張ります!」
アレクサンドラは、しっかりとエマの顔を見てそう言うのだった。
「うん、その意気、その意気」
エマはアレクサンドラの頭を撫でながらそう言った。
アレクサンドラはなんだか目頭が熱くなり、顔を伏せる。
色々と思い出したのかもしれないと、エマは思った。
「さてと、それは良いとして、あの動物、自分から魔法を使ってたわ。マジックゲートを開かずに」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。スルーコミュニケーションを使ってた。マジックゲートを開かなかったと言う事は、私と同じ古代の魔法を知る者かもしれないわね。しかも、この世界で復元魔法とか、次元を操る魔法がないのなら、あの男の子が使った魔法もおかしい、あの子も怪しいわね」
「うーん。そもそも、小動物に意思疎通が出来ること自体おかしくないですか?」
「確かにそうね。間違いなく何か特別な生き物……パステや、ダヴィンチのようにね」
エマが難しい顔をしていると、アレクサンドラも首を傾げる。
すると、エマが悪戯っぽい笑顔を浮かべて言う。
「ちょっと、気になるからついて行って見ようか?」
「え~、いいんですかねぇ。でも今日は私とのデートですよ……こんな日にかぎって」
アレクサンドラが俯いて呟く。
「確実にトマなら止めるでしょうね。でもいないものはしょうがない。まあ、いいじゃんアリ、これから時間はいくらでもあるんだし、デートなんていくらでもしてあげるわ」
「なんか、軽いです。なんか、い、嫌です……」
アレクサンドラは俯いたままだ。
「もうっ、面倒くさいわね! 軽んじてないわ。あなたの事が大切だから言ってるの!」
「ベマザバ~」
「ちょ、泣くんじゃないわよ!」
抱き着こうとするアレクサンドラを両手でおして阻止するエマ。
「……時間がいくらでもあるっていいました?」
さきほどの発言に違和感を感じ恐る恐る尋ねるアレクサンドラ。
「うん、言った」
「えーと、つまりそれは……?」
「なーに言ってんのよぉ。あんたを復活させて私の弟子になってからあんたは時間なんてちっぽけな概念は消えたわよ」
「えっ!?」
冗談めかして何言ってのと言わんばかりにアレクサンドラを軽くたたき、屈託なく笑うエマ。呆然とし、開いた口が塞がらないアレクサンドラ。
(ああ、本当にとんでもない運命だ。いやぁ~それにしてもかわいい笑顔、まあいっか。何がってもこの人と一緒に)
アレクサンドラは、エマの笑顔を見ると、自分の常識なんて別に小さな事の様な気がする。
もう二度と迷わないように、置いて行かれないように、一生懸命ついて行こうと誓うアレクサンドラだった。




