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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第八章 新たな幕開け
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第70話 ミラクル

「はあ、はあ」

 リリーは、懸命に走っていた。

 何故なら、黒い動物と思われる物はとにかく素早く、見失いそうだからだ。

 かなり引き離されたが、かろうじて何かが移動しているのが見える。

「はあ、はあ、あっ、曲がった!」

 黒い動物は直角に曲がり路地に入っていくのが見えた。リリーも遅れてその後を追う。

 路地へと曲がり、しばらく行くと何やら大きな声が聞こえてきた。


「いよぉっしぃぃ! 捕まえた!」

「やったな!」

「なんだ、こいつ!? こんな動物見たことあるか?」

「いえ、わたくしは存じあげません。あなたは?」


 多数の興奮した声に警戒しながらリリーは身をかがめてゆっくりと近づいていく。

 すると、そこには二人の少年と一人の少女がいる。

 眉間にシワを寄せ勝ち誇ったように嘲笑する金髪の少年の手には、網のようなものが見える。その中には先ほどからリリーが追いかけていた、黒い動物が入っているようだ。

 その動物は、とても苦しそうにもがいているが、そんなことはお構いなしに網を持った少年はとても乱暴振り回す。


「なんだ、これ? おら、何か言えよ!」

 そう言いながらその少年は、思いっきり網の中に手を突っ込み黒い動物の首をつかむ。


 その時だった。


「いてっ!」


 必死の抵抗したその動物の爪が、少年の右手の甲を切り裂いたのだ。

 少年は痛みからあわてて片方の手で押さえるが、その手の隙間から赤い血がゆっくりと静かに流れ、ぽたぽたと地面に落ちた。

「きゃ!」

 隣にいた少女が叫ぶ。少年たちが騒然とする中で、網ごと地面に落ちた黒い動物は怯えきって様子で震えている。

 怪我をした少年の顔が、怒りに歪む。そして、その目が黒い動物に向けられた。

「マジックゲートオ(魔法門開放)ープン! 第二門陣階位魔法だいにもんじんかいいまほうバーニング(燃え盛れ)!」

 金髪の少年がそう叫び手をかざすと、赤色の魔法陣が浮かび上がり、大きな炎の塊が放たれた。

 その炎はまっすぐに黒い動物に向かっていき、黒い動物は凄まじい勢いで燃え上がる。赤黒い炎に包まれたその一瞬で黒い動物は動かなくなってしまった。


「ネラ! まずいぜ!」

 炎を放った金髪の少年に向かって一人が言う。

「そうです! 私達は一般都市部で魔法を使うことは許可されていません!」

「くっそ、思わず……いくぞ!」

 少年たちは全速力でその場から立ち去るのだった。走り去る少年達の後ろ姿を背景に無残にも絶命するその動物が横たわっていた。


 リリーはゆっくりと物陰から出ていき、その動物を慎重に両手で拾い上げる。リリーの手の中に、すっぽりとおさまったそれはとても軽く、まるで質量がない。

 リリーの黒く綺麗な目には、今ではどんな形状を保っていたかも分からない黒焦げの物体が映し出されている。

 

 「なんて無残で残酷で卑劣な行為だろう」


 リリーはそう言うと、涙を浮かべる。その時ふと思い出した、昨日読んでいた本について。

 【生と死を司る古代魔法の研究】

 そして、その本に書いてあった事を。

 ――そもそも生と言うものは、人間の固定観念から生まれた空想に過ぎない。

 魔法という物事の事象を操る力を手にした時、肉体という概念から解き放たれなければいけないのだ。

 古くから魔法を極めし物は人間を超越し、違う視点から物事を捉えるようになる。その時全ての理を理解することが可能となるが、その先がもうないとも言い切れない。

 詰まるところ、その域に達した者達を証明する文献は残っておらず、誰もその答えにはたどり着けない。そもそも人間程度の魔力では無理なのかもしれない。

 私は、この研究を通じて古代魔法では生と死を操ることができたのだと確信している。近代においてそれは幻想に過ぎないと言われている。なぜその伝承は途切れたのか。

 それは過去に禁呪とされ、それ使う人間全てを葬ってきた歴史に答えがあると私は考えている――


 ふと思い出しながら、リリーは願った。僕にその力があればと。

 リリーの涙が目から溢れ頬を伝い、顎の先端から落ちる。

 それと同時に自分の心臓がドクドクと脈打ち、それがだんだんと強くなるのが分かった。

 次第にその鼓動はどんどんと強くなり、息もできないほどに胸が苦しくなる、痛みに耐えきれず右手で自分の胸を掴む。

(く、苦しい!)

 意識が遠のいて行く中、その脈動は体から腕へと移っていく感覚がした。

 目が回り天地もわからない感覚に襲われる。その間リリーの頭には何度も断片的に現れては消える心の声。脈動が体中に響くたびにその声が聞こえては消える。

『肉体という概念から解き放たれーー』

『誰もその域に達したことはないーー』

『近代において幻想に過ぎないーー』

 

 その脈動が掌まできたその時だった、左手に抱えている黒い動物の亡骸が紫の光に包まれ、その輝きはリリーの心臓に共鳴するように明滅する。

 黒い動物を包んだその光はどんどんと輝きを増し、リリーは思わず目をつぶる。

 

 光は最高潮を迎え、辺り一面を照らした後、次第に黒い動物へと収束して行く。

 光が完全に消え去ったとき、リリーは自分の掌に生命の暖かさとその質量を感じ、慌てて右手を添えた。


 リリーの掌にあった黒い動物の亡骸は、さっきまでの無残な姿とは全く異なっていた。


 艶やかで美しい黒い毛並みはそよそよと風に揺れ、横たわる四本の足にはしっかりとした筋肉が見てとれた。

 ピンと立った耳から尻尾にかけては細くしなやかで流れるような体型をしている。全身真っ黒だが、長い髭やふさふさの睫毛(まつげ)はよく目立っていた。お腹が上下していることから呼吸をしているのだと分かる。


 しかし、リリーはその動物がなんという動物かはわからなかった。

 書庫でみた、猫という絶滅した動物にそっくりだが、大きさも小さく、なんだか少し違う気がする。獣らしい鼻はあるが小ぶりであまり高くなく、どことなく人間と似た顔の作りだった。

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