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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第一章 誕生
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第6話 ビビットアッシュ

「なんか、良く分かんないわね。この世界。ずいぶん変わっちゃってる」

 エマは広々としたテントの中を見渡す。

地面には、リカオンに蹴られていた先ほどの奴隷の女性が、精気のない抜け殻の瞳を地面に落とし、その汚れた体を小刻みに震わせて座っている。


 不意にエマは歩き出すと、その女性の傍で立ち止まりしゃがみ込む。

「いい? ちょっと、記憶を読み取らせてもらうわね。痛くないから安心して」

 確認するようにそう言い、エマは女性の頭に手をかざす。すると、エマの手から光が漏れ、女性は自然と意識を失うのだった。


 トマはしゃがみこんで、リカオンの体を調べている。

(やはり、このリカオンって人は大した使い手ではないみたいだな。そもそも機能停止魔法を行使する時は、自分の実力が相手よりかなり上回ってないと効かないしな。それにしても魔法の体系がおかしい。複雑というより……)

「どうだった?」

 リカオンの体を調べながら、トマはエマに尋ねる。


「最悪ね。ほんとに寒気がする経験をしてるわ。世の中は大変なことになってるみたい」

 奴隷の女性から手を離し、エマは肩をすくめる。

「エマが最悪って言うんなら、本当に最悪なんだろうね。でもどうする?」


「とりあえず、この人の記憶は書き換えた。あと、体もすべて修復済みよ。起きれば、何事もなかったように生活できると思う。それと、さっきこのキャンプ全体に魔法を仕掛けたから、いつでも発動可能よ」

「ああ、さっきひらひらしてた時ね。まあ、これ以上ここにいても情報は頭打ちだろうね。リカオンってやつもただの悪党で、ほとんど何も知らないみたい。まあ、この時代の魔法のことが少し解った程度だね」


「そっか、じゃあそろそろいいわね。魔法を発動することにするわ」


 エマはそう言うと、両手を胸の前で叩き合わせる。

 一瞬にして空間が研ぎ澄まされるような澄んだ音が響き、エマの周りに沢山の黒い光の玉が浮かび上がる。


「この地に眠る大地の精霊よ。エマ・ブリスティアンの名において命ずる。我が血と大地の地脈は一体なり、この心はこの星と一体なり、ゆえに全ての事象をつかさどるのはこの私。さあ答えよ、古き精霊よ、私は蘇った、そなたも我が魔力に呼応し――」


「あのー、もう出て来てるんじゃが」


 そこには、今までいなかったはずのニットキャップを被ったファンキーな老人が立っていた。


「もう! 少しは空気読んでよ! 今からいいとこだったのに!」

 エマは腕を組んで大変ご立腹のご様子。

 その老人は呆れ気味に喋る。

「エマよ、そもそもそんな文言は必要ないじゃろ? よばれりゃあ、くるよ、わし。あと別にわしは大地の精霊ってわけじゃ……」

「いつも、ごめんね。アーブじいちゃん」

 トマが割って入る。エマの言動にがっくりと肩を落とし本当に申し訳なさそうに謝る。


「いいんじゃよ、トマ。わしはとうに引退した身。お主達二人はわしの孫のようなものじゃ。呼んでくれればうれしい限り。ふぉっふぉ」

 アーブはまるで、迷いし魂が天国への道を見つけたかの様な溶けそうな笑顔を浮かべる。目に入れても痛くないといった様子だ。

青い三本ラインのジャージを履き、上衣はタンクトップとかなりラフな出で立ちだ。

 首には大きなヘッドホンが掛かっている。


「それにしても、ずいぶんと久方ぶりよな。一体どうしたのじゃ?」

「かくかくしかじか」

 トマが手短に説明した。


「なるほど、わしも久しぶりに出てきたので世界の様子はよくわからんな。で、とりあえずこのキャンプを救おうということじゃな」

「そうなのよ。【ビビットアッシュ(鮮やかな灰)】を使おうと思って」

 エマがいうと、アーブは俯きがちで言う。


「……それ、別にわしはいらんですがな」


 アーブは、がっくりと肩を落とす。

「ほんとごめんね。じいちゃん」トマもがっくりとそう言った。


 その様子を見て流石に居たたまれなくなるエマ。


「ま、まあ、いいじゃない! 私がただ、じじに会いたかっただけなのよ!」

 慌てた様子でそう言うと、アーブの表情が一瞬にしてパッと明るくなった。

(年寄りの孫気違いかな……)と、トマは思った。


「そうじゃな。【マハートマー(偉大なる魂)】とはすなわち、魂の核。魂の核が汚れると、汚れた人核(じんかく)はさらなる悲劇の輪廻を産む。浄化するのじゃな」

 アーブが、目を細めて言う。

「そうなの、マハートマーが可哀そうでしょこのままじゃ。よしっ、じゃあ気を取り直して! 行くわよ、ビビットアッシュ(鮮やかな灰)!」


 エマがそう唱えると、エマの周りに黒い光が浮かび上がり、エマを包み込む。

 そして、そこを中心にして渦の様な風が起こり始める。

 エマのしっとりとした上品なスカートと、ふわふわの髪が風にあおられてなびく。


 エマを中心としていた光はどんどんとその勢いを増し、やがてキャンプの敷地全体がその光で黒く染まる。


 それとともに地面が揺れ始め、外では人々の驚嘆の声が聞こえる。

 その振動は、まるで生命の鼓動のように打ち震え、星の脈動かの様にうねる。

 まさに星の命とエマの魂の鼓動が調和し一体となるようだった。


 そして、キャンプ全体を覆っていた黒い光は、揺れがおさまると共に地面に吸収され、同時にキャンプを飲み込むほどの凄まじい大きさの魔法陣が現れるのだった。


「さてと、大地に生まれしマハートマー(偉大なる魂)よ、この星の元に帰る時が来たわよ。生命の根源に寄り添い現世での最後を迎えなさい!」


 エマがそう言うと、盗賊達の体のあちこちから木の芽が生えてくる。

 その異様な光景に、奴隷たちは驚倒した。


 木のきしむ、鈍い音が盗賊たちの悲鳴と共にキャンプのそこら中から聞こえて来る。

 盗賊たちは、慌てふためき、恐怖に顔を歪め涙し、永遠の闇に落ちて行く。

すさまじい速さでその芽は成長し、やがて一人一人が一本の木となるのだった。

 しかし、その木はどれも葉っぱ一つない枯れ木だ。


「さあ、咲き誇りなさい! この世での最後に色鮮やかなフィナーレを!」


 エマが手を上げてそう言うと、空から灰色の粉が、まるで雪の様に舞い落ちてくる。

 ふわふわとささやかな風に揺れながら落ちてくる様はとても幻想的だ。

 エマは舞い踊っている。まるで、その降り注ぐ灰の舞いと呼応するように、エマはその場でくるくると踊るのだった。


 そして、その灰が枯れ木に触れると、瞬く間に色とりどりの花を咲かす。

 それは、幾重にも重なった大振りな花で、その一枚一枚に色々な色がついていた。


「枯れ木に花を咲かせましょう!」


 エマの声がまるで、死者を弔う送る言葉のように響き渡る。


 木々には今も沢山の花が咲き続けている。

 世界中の色があるといっても信じられるその風景は、一見すると自然とは相反するような気がしたが、不自然なほど調和がとれているようにも見えた。

 

「ちょっと、あんまり跳ねると下着が見えるよ」

 トマが言うがエマはお構いなしだ。


「あははは。あははは。この子私に下さいな!」

 満面の笑みで狂ったように舞い踊るエマ。


「おい、トマ。エマは何を言っておるのじゃ?」

「えーと、じいちゃん、ごめん。とりあえず見守ってやってよ」

「あははは、あははは……」

 エマはとても楽しそうにふわふわと弾むのだった。


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