第59話 オーバーパワーターン
その人物は確かにアレクサンドラだが、今までと雰囲気が全く異なっていた。
左目は螺旋状に虹色の輝きを放ち、その目の中心には【十字円家紋式】が見える。赤毛だった頭髪は左半分が虹色になっていた。
「貴様ら……」
その声は地面を揺るがすほど強く響く。
「よくもめちゃくちゃにしてくれたなぁ。私の師である最高の女神……いや私の前途有望な未来をよぉ」
アレクサンドラは、小さくつるんとしたかわいい顔から鋭い眼光を覗かせる。その容姿とは、裏腹な荒々しさが違和感を生みさらなる凄みにかわる。
「な、だ、だれだ? てめえは?」
フォーはうっすら見えるようになった目を、ようやっと開きその姿を確認しようとする。
「誰だ……だと? お前は馬鹿なのか。ここにはお前達と私しかいないじゃねーか。貴様らが私のかわいい、素敵な師匠を殺したんだろうがぁあああああ!」
アレクサンドラの怒号が響き、その怒りのままに力を開放した。虹色の【マジカルソウル】が凄まじい勢いで溢れ出し、その場の全てが消し飛んでいく。
アレクサンドラを中心に空間を円形に切り取ったように洞窟も、土も岩も木もその全てが跡形もなく消え去った。その中心でアレクサンドラは浮いている。
「うおおお! ってあ、あれ? なんだこれ……全部消し飛びやがった。やべ、あいつらは?」
アレクサンドラは自分の力がまだ良く分かっていないようで、頭を抱えてきょろきょろと見回すが、二人の姿は見当たらない。
アレクサンドラは今までの消極的な態度とは全く違い、とても野性的で荒々しく力に満ちている。
あたりを見渡しながらそのまま上空に上がっていく。
「あっ! 居た居た……」
アレクサンドラは、何かに気づいた様子で森の中に降りて行く。
「よう。ナンバーフォー」
歯を見せとても楽しそうに口角を上げるアレクサンドラ。
「ぐ、ぐぐ。なんだお前は……」
フォーは木にもたれかかりながらようやく起き上がる。爆風で仮面やマントが所々損壊しその顔が露わになっている。その容姿は鋭い目をした男性だった。
「お前を見ていると、はらわたが煮えくり返る思いだぜ。早くお前のその顔をぼこぼこにしてやりたいなあ。しかし、私はお前のような陰険なカスとは違うからな。正々堂々、一対一の勝負をしてやるよ……さあ、かかってこい」
アレクサンドラは両手を広げてそう言った。
「な、なめんじゃねえ。くそが! トゥエンティ―ファイブのくせに。やってやる、やってやるよ!」
フォーが目を見開き、そう言い放つと隠して開いていた魔法陣が発動する。
「第四門陣階位魔法【アルティメットブレイド】! どんな物も切り裂く刃だ。真っ二つになれ! ぎゃははは!」
アレクサンドラの背後から、鋭い鉄の刃が襲い掛かる。
それは一瞬にしてアレクサンドラに直撃し、その場に凄まじい金属音が鳴り響く。
「くだらねぇな。くだらねえ」
アレクサンドラはフォーから一切目をそらさずに後ろから迫りくるその刃を、細く繊細な腕を後ろに回し、掴んでいた。
「背後からの不意打ちとはどこまでも卑怯な野郎だ。まあ卑劣で下卑た貴様の最後はそんなもんかもな」
そう言ってブレードを握りつぶし、投げ捨てる。
「くそ、なんだその力は、ふざけんな、ふざけんなー!」
フォーが殴りかかる。
(凄いな、魔力の流れ全てが見える……)
アレクサンドラの目にはまるで色づいた煙のように魔力の流れが見えていた。魔力の流れが見えると、次にどんな行動をするのか手に取る様に分かるのだった。更にフォーの動きは、アレクサンドラの目には、虫が止まるほどの遅さに見えた。フォーがその拳を振り回すその隙に瞬にこの星を一周でも出来そうな気持だった。
アレクサンドラは顔色一つ変えずに殴りかかってきたフォーの拳を左手で往なし、流れるように右手で強烈なカウンターを浴びせる。
「どぶっ!」
その一撃は、空間を切り裂き、凄まじいほどの衝撃波を生む。
それでもかなりの手加減をしていた。放物線を描いた卵を割らないようにそっと受け取るような感覚。
フォーは、顔面を思いっきり殴られ、残りの仮面が吹き飛び、同時に妙な声を出しながら吹っ飛んで行こうとする。しかし、
「おっと、どこ行くんだ」
アレクサンドラは、飛び出すフォーを上回る速さでその手を掴み引き寄せた。
「く……くそ!」
フォーは再度殴りかかる、しかし、結果は同じだった。
強烈なカウンターを食らい、飛んでいこうとするフォーの腕を掴む。それはまるで、映像のリプレイを見ている様だった。
「おーっと、どこ行くんだ。はーっはっは」
「く……く、そ……!」
「あ、あべっ!」
アレクサンドラの華奢な体からどうやってその力は生まれているのか分からないほどで、細い腕から繰り出される凄まじいほどの拳は、エマのそれを彷彿とさせた。
フォーは、何度も強烈なカウンターをその顔に浴び続けるのだった。
「……あんた、【マジックギフト】贈る相手間違えたんじゃない?」
「うーん、そうかな? 彼女は間違いないと思ったんだけど。いや、私の見立てに間違いはない! きっと大丈夫!」
アレクサンドラとフォーの戦いが繰り広げられている森の上空では、何やらそんな声が聞こえてくる。
そこには、腕を組んで隣を見ながら冷ややかな目を向けるエマと、笑顔のアンナが浮いていた。
「嫌、ぜったい間違ったよ。アリのやつ完全にトランス状態でしょ。なんか性格も全然違ってるし」
「てへへへー」
アンナは、額に手を当てて、舌をペロッと出す。
「あんたも結構適当な性格みたいね」
すると、アンナは頭の後ろで両手を組み、
「でもさー、エマ様のせいなんじゃないの? あのマーク見てよ」
よく見ると、エマが与えた唇の形のマークが変形し、複雑な幾何学模様になっていた。
「あれ? なんか変ね。あんな模様見たことないわ」
エマが首を傾げていると、
「あっ! やばっもう行かなきゃ! じゃあ、じゃあ、もう行くね、どっちにしてもここにはとどまれない存在だから」
「あ、ああ! うん、わかった。ありがとね、あんま慌てないで、気を付けてよね」
「うん。じゃあまたねエマ様。ちゅ」
アンナは投げキッスをしながらそう言うと、フッと消えるのだった。
「ふう……さてと、どうなるかしら」
エマは、上空からアレクサンドラを見下ろす。エマのスカートが風にたなびく、今日は少し強い風が吹いていた。
「なんだ、お前の弱さは。私はこんな奴にやられていたのか。なんだか、馬鹿らしくなってきた。お前をどうこうする気も失せたわ」
そう言うと、力なく項垂れるフォーを掴んでいる手を放す。ドサッと言う音ともにフォーは地面に落ちた。
「えっと、あともう一人いたな」
首だけを右に向けアレクサンドラはそう言うと、その方向へ凄まじい速さで飛び立つ。
アレクサンドラは、一瞬にしてその地に片膝をつき降り立つ。自ら興した爆発で自身の服は、所々破れ、細く、適度に引き締まっている太ももや、腹部、右腕など白く艶のある肌が露わになっていた。
「おい、どうしたんだ……ナンバーファイブ」
アレクサンドラが起こした爆発をまともに食らったファイブは、動けないほどのダメージを負っており、半裸の状態で仮面も吹き飛んでいる。その顔は、若い女だった。
「ぐ、く、くそ……」
どうにか動こうとあがくが、力が入らず這う事も出来ない。
「惨めだな。もう貴様らをどうこうする気も失せたぜ。そのまま生きながらえて、その汚れた魂で生き恥をさらせ」
アレクサンドラはそう言うと、踵を返し歩き始める。
(そうだ、こうしてはいられない。師匠たちの所へ……今の私ならまだ助けることが出来るかもしれない)
アレクサンドラがそう思った矢先、脳裏によみがえる記憶。
「し、しまった! もしかしたら、私がが起こした爆発に巻き込まれ、師匠たちを消し飛ばしたかもしれない! まずい、どこ? どこだ?」
アレクサンドラは両手で頭を抱えて慌て始める。
「ご、ごほん」
するとどこからともなく聞こえる咳払い。アレクサンドラはその方向を見る。
「あんたねぇ。もしかしたらじゃないわよ。あんたの怒りで完全にあの周辺の物質は消失したわよ」
「エ、エマ様? エ、エマ様? エ、エマ様?」
あまりの驚きで、アレクサンドラは抑揚もなく三度繰り返していた。
「アリ。あんた壊れたロボットみたいよ。でもよくやったわね。おめでとう」
そう言うとエマは迎え入れるように両手を広げる。
「エ、エマ様、ベベベマザバ~!」
力が抜けるように泣き出し、駆け出したアレクサンドラは一歩進むごとに元の見た目に戻る。そしてそのままエマに抱きついた。
「よしよし。よく頑張った。えっ! 寝ちゃった?」
アレクサンドラはエマの胸に飛び込むと同時に意識を失い、倒れるように眠り込んだ。かなりの魔力と体力を消費している様子だ。
すると、森の奥から声が聞こえてくる。
「エマ~、お待たせ~。結構時間かかっちゃった。おお、なんか凄いことになってるね」
森の暗闇から、顔を出したのはトマがだった。
「うん、アリが暴れちゃって」
「そう。じゃあ上手くいったんだ。【コンプリートアウェイクニング】だった?」
「いや、まだ、半分? いや、四割? 三割程度だったかしら?」
「ああ、そっか。まあ始めはそんなもんかもね。とりあえずここにはもう用はないから行こうか」
トマがそう言うと、エマはアレクサンドラを抱えて立ち上がる。
そして、アレクサンドラを抱えて二人はそのまま飛んで行くのだった。
「おっと、忘れるとこだった。【メモリーディストラクション】」
トマは上空で停止し、下の森に向けて魔法を放つ。その瞬間、森の中で横たわるファイブとフォーは完全に意識を失うのだった。




