第53話 ゴッドアイ
「ふふ。なんだか面白い子みたいね」
「そうだね。でもいいんじゃないかな。だから彼女を選んだんだろう。二の舞にならないために。それにほら、見てごらん彼女の目、【天眼】じゃないかな」
「あら。本当ね。でも天眼ってかなり昔に途絶えたんじゃないかしら」
アークとパステは、アレクサンドラを見ながら話す。
「それも彼女を選んだ理由なのかな? 多分、【マジックギフト】だね。どこかの誰かの贈り物だろう。まだ誰も気が付いてない見たいだけど。それに、あの左目の下のアザのような模様も関係しているようだ」
「そうなのね。ふーん。それなら確かに面白い事になるかも」
「いやー、きっとなるよ。彼女とは違う道を見つけることが出来る」
「なに、二人でこそこそ話してるのさ」
なにやら二人で話しているのを見て、トマが寄ってくる。
「いや、なに、面白そうな子だと思ってね」
「本当にそんな事を話してたの? なんだか難しい顔してたけど」
疑いの目を向けるトマ。
「本当、本当。君たちの成長を微笑ましく見てただけだよ」
アークは両手を前に出し、慌てた様子で答えた。
「なんか、怪しいな」
「はは」
(別に話してあげればいいのに。まあ言わなくても大丈夫だろうけど)
パステは二人のやり取りを見ながらそう考えていた。
すると、アレクサンドラもやっと落ち着いたようで、涙をボロボロと流しながら、アークの前まで来た。エマは向こうの方で、湖面に浮いている魚と何か話している。
「えっっと、ヒック、すす、いません。聞けばエマ様の師匠だと言う事で、赤ちゃんなどと、ヒック、とんだご無礼をお許しください。ヒック」
あまりに泣き過ぎて、子供のように横隔膜が痙攣しているアレクサンドラ。
(なんで泣いてるんだこの子……)
アークは、情緒不安定なアレクサンドラを心配する。
「いや、いや、良いんだよ。確かにこの姿は赤ちゃんだしね。人間で言うと、生後三か月ってとこかな。でもわし、いや僕が師匠だって? どういう説明をしたのか。まあ師匠と言われれば師匠かもな。でもまあ、よろしくね。あと、エマの事よろしく頼むよ。彼女ドジっ子だから」
「剛田さんでドジっ子って、どういう設定なんだよ」
横にいたトマがつぶやく。
すると、アレクサンドラは急に泣き止み、
「はい。私の命に代えてもエマ様はお守りいたします」
まっすぐにアークを見てそう言った。
「そうか。君は恩を感じているのだね。でも、大丈夫だよ。君が居る事で、エマの助けになるんだ。つまり君たちは一心同体だ。お互いを支え合えば良い。しかし、これだけは注意してくれ。君が危険だと、エマはその命に代えても君を救うだろう。だから、君は細心の注意を払って行動しなければならない。エマの事を思うならね」
アレクサンドラは真面目な顔で少し沈黙してから答える。
「はい。わかりました。私が出来る最大限の行動をとります。ありがとうございます」
彼女のガラスのような青紫色の瞳には、涙が溢れ、その涙に反射した湖面の光がキラキラと集まっていた。
ここを満たしているその光は、一体どこから来るのか分からないが、それはこの世界の全てを輝かせる。霧雨の細かな雨粒のように、次々と光の粒が降り注いでくる。
エマとアレクサンドラは裸足で、永遠の木の根源があるこの小島で駆け回っている。
二人はとても楽しそうに笑い、ふざけ合う。湖畔をパシャパシャと走りまわりじゃれて転げるのだった。
湖の輝き、草原の輝き、その世界にある全ての輝きはエマとアレクサンドラの笑顔に集まっているかの様に二人は輝いていた。
そして、その様子を見て、誰もが笑顔になるのだった。
「じゃあね~、じじ、パステー。また来るからねー」
エマは後ろ向きに歩きながら元気に手を振る。
トマとアレクサンドラも同じように手を振っている。そして三人は、そのまま小さくなっていった。
「さて、どうだろうね。今度の弟子は」
「教えてあげれば良かったのに」
「いや、これはエマにとっての試練なのだよ。自分の後始末は自分でつける。これは、昔からの道理だ」
「そう? 歩き方が分からない子供にそれを教えるのは親の役目だと思うけど」
パステが横目で見る。
「はは、そうかなぁ? 僕まずいことしたかな。エマが失敗しそうだったら、助けに行くことにしよう。うん」
(なんだか、頼りないわね。まあ、それがアーク様だけど。しょうがないからその時は私も手伝うかな)
アークとパステは、そんな話をして、家の中に入って行くのだった。
湖では、【永遠の木の根源】と呼ばれる細い一本の若木が、ほんの少しだけ成長し、どこからともなく吹いてくる風にその身を委ねるごとく軽やかに葉を揺らすのだった。
「あっ、お帰り、エマ」
ダヴィンチとじゃれているジェイがこちらに気づいて声をかけてきた。
「あら、ずいぶん仲良くなったのね」
「エマ! こいつ、良い奴だな」
ダヴィンチは、とても楽しそうにジェイと跳ね回っている。
「めっちゃ仲いいわね。あんた達に何があったのよ。まあ、仲が良いのは良い事だけど」
エマは不思議だったが、嬉しそうに笑う。
「おお、帰ったか」
アーブが出てくる。
「うん、それでこれがアレクサンドラ。私の弟子よ」
「初めまして、アレクサンドラ・ダークライトと申します。不束者ですが、よろしくお願いします」
「ふぉっふぉ。生物は生まれた時誰もが、手探りである。歩むと決めた時から人生の歩き方を学ぶのじゃよ。お前さんは、今確かに歩き出した。これから、これから。ふぉっふぉ」
アーブは、楽しそうに笑っている。
「ありがとうございます。」
アレクサンドラの瞳には、うっすらとまた涙が浮かぶ。
「それで、アーク様はどうじゃった?」
アーブが聞くと、トマが、
「うん、元気だったよ。まあ、赤ちゃんだったけど」
「ふぉっふぉ。そうじゃろう。我らの生命は繰り返すのみ。若くも年でもない。そもそも年齢なんてないんじゃからの」
アーブが笑っていると、エマが聞く。
「だけど、近いんだから、会いに行けばいいんじゃない?」
「そうじゃのう。たまには会いに行くんじゃが。最後は何時じゃったかの? はて?」
エマが呆れた顔をする。
「こりゃ、だいぶ行ってないわね」
「アーク様の所は、今度弟が帰ってきたら久しぶりに行く事にしよう。久しぶりに師匠の顔でも見にな」
「そうね。行ったら喜ぶわよ。トーアじじはまだ帰らないの?」
「おお。何やら忙しいようでの。とんと帰って来んわい、あやつは」
「そっか、じゃあ帰って来たらよろしくって言っといてね。じゃあ私はそろそろ行くね」
エマが、右手を上げて帰る素振りをすると、ジェイが、
「あっ、エマ。僕は少しここに残るよ」
「えっ、ジェイ残るの?」
「うん、少しここに残って勉強するよ。色々と」
すると、アーブが話す。
「そうか、確かにお主はここに残った方が良いかもしれん。まだ、生まれたばかりのようじゃしな。少しここで成熟するのも良いじゃろう。お主の力は使い方を間違えると、大変な事になりかねんしな。あと、エマとトマよ、分かっておると思うが、あまり介入するんじゃないぞ」
「うん、分かってるよ。でもね……」
トマはエマを横目で見る。
「分かってるって、オールオッケイ、オールオッケイ」
変なポーズをしているエマを見て、誰もが訝しげな表情を浮かべる。
「トマ、何かあったらエマを止めるのじゃ」
「うん、じいちゃん分かったよ」
こうして、ジェイはこの地に残ることになり、エマとトマとアレクサンドラはリトマス連合国へ帰る事になった。
ジェイが残るので、ダヴィンチはとても嬉しそうだった。
しかし、リトマス連合国では、もうすでに闇が動き始めている。
果たして、アルファベット及び、バトラー国王の陰謀を止めることが出来るのだろうか。




