第50話 リアルマジック
レオナルドは考えていた。
(マジックゲートを開く必要がないとは。エマ殿の魔法は一体どうなっているのだ……)
マジックゲートはこの世界の誰もが知る事実。そのゲートを開かないと魔法は使えない。特殊な剣技や武術も魔法に依存するものは、どこかのタイミングでマジックゲートを開く必要があるのだ。
そして、沈黙を保つアルファベットに告げる。
「さあ、もう終わりか。さっきまでの余裕はないようだな」
しかし、アルファベットの三人は、タイミングを待っていたのだ。
レオナルドベアが言葉を発すると同時に、三人は一斉に魔法を唱える。
「第四門陣階位魔法 アブソリュートフリージング」
「第四門陣階位魔法 タイダルウェイブ」
「第四門陣階位魔法 デブリスフロウ」
三人の声が響くと、セブンの頭上にその場を覆いつくすほどの氷と冷気が、そして、エイトの頭上には津波のような水流、ナイン足元からは、凄まじい大きさの岩石と土の塊が現れる。
そして、それらの魔法は全てが混ざり合い、さらに勢いを増してレオナルドベア目掛けて放たれる。
本来のレオナルドなら、間違いなく命を落としただろう。第四門の魔法を三つも受ければまず間違いなく、命を落とす。この世界の常識なのだ。しかも、連携の取れた魔法は、相乗効果でその威力を増している。
その場を覆いつくす程の大きな魔法の塊が、小さなレオナルドベア目掛けて迫っている。
「レオナルド様!」
ミアは思わず叫んでいた。
この魔法が着弾すれば、離れているミアも、確実に巻き添えになり、その命はないだろう。しかし、ミアは自分の事よりもレオナルドの事の方が心配だったのだ。
迫りくる魔法の光を前面に浴びながらレオナルドベアは呟く。
「大丈夫だミア……戦いはもう終わりにしよう。火炎魔法バーン――」
レオナルドベアが魔法を唱えかけたその時だった。
バーンドラゴンプレミアムと言いたかったのだが、バーンだけで魔法が発動してしまったのだ。
それは放った本人が一番信じられない光景だった。
その場は一瞬にして全てが炎に包まれる。
レオナルドベアから放たれた炎は、爆炎を巻き上げ、後ろから離れて見ているミアの視界いっぱいに広がった。
その前方の物質はすべて消え去り、その炎はそのまま上空へと舞い上がっていく。
その威力は凄まじく、アルファベットどころか玄関の大広間までもがすっかり消え去ってしまった。
「な、なんだこれは!」
レオナルドは慌てふためく。
ミアは何が起こったのか理解出来ないが、見通しが良くなり、外光が直接顔に当たっているこの状況に開いた口が塞がらない。
しかしその時、城の上部から、崩れそうな音が鳴り、頭の上からパラパラと破片が落ちてくる。
「ま、まずいぞ。崩れそうだ。ミア、早くこっちへ!」
座り込んで腰が抜けているミアに、レオナルドベアが声を掛けると、ハッとした様子でミアは正気に戻る。
「は、はい。早く外へ。あっいや、皆さんは!」
「大丈夫だ。もう外に出ている気配がする! 早くこっちだ!」
レオナルドに何故そんな事が分かるのか理解出来なかったが手を引かれるままついて行く。
「まずい、もう持たない! ミア、ここに横になれ!」
「えっ! よ、横? こうですか?」
レオナルドベアの差し出した両手に慌てて寝そべるミア。
「よし! 行くぞ、しっかり掴まれ!」
レオナルドベアはそう言うと、ミアをしっかりと抱きかかえ、驚くべきスピードで外に出る。
ミアは、あまりのスピードにしっかりと眼を瞑り、レオナルドベアを必死に掴む事しか出来なかった。
レオナルドベアとミアが外に出たその瞬間、城は崩れ落ちる。
次に目を開けた時は、城の周りの森を抜けた場所にある、草原だった。鮮やかな緑の草に日の光が当たり、心地良い暖かさと匂いでミアは目を開けるのだった。
そこには、全員が集合していた。
「レオナルド様、ミア様、大丈夫ですか?」
ディンガが駆け寄ると、全員が後に続く。
「ミア様―!」
ミナとモナが叫びながら駆け寄ると、ミアは笑顔で涙を浮かべ立ち上がり、二人を抱きしめる。体の温もりを確かめる様にしっかりと抱きしめ合う三人の頬には涙が伝う。
「レオナルド様、何が一体……事態はどうなったのですか?」
ティアナが聞くと、
「ああ。アルファベットの連中は倒した」
「え、ああ、そうですか、倒したのですね……えっ! な、なんと、倒したのですか? まさか、ミア様とレオナルド様のお二人で倒したのですか?」
ティアナが素っ頓狂な声を上げると、ミアが喋る。
「いえ、私は何もしていません。ナンバーナインの魔法を封じる能力で一つも魔法が使えませんでしたから」
ミナとモナは重要なことは告げずに上手く全員を連れ出しようだった。何故なら本当のことを告げれば誰もが助けに行くと言いかねない状況だったからだ。
「状況が少し、分からないのですが。魔法を封じられてどうやって倒すのでしょうか? しかし、騙して連れ出すなんて……」
ティアナはそう言ってミナとモナを見る。
「すいません。レオナルド様とミア様から、皆様の無事を頼まれましたので、最優先にさせていただきました」
ミナが頭を下げる。
「だって……ティアナ、助けに行く……でしょ?」
モナがそう言うと、ティアナは俯くのだった。
「ティアナ、許してやってくれ。お前たちの事だ。どうせ、加勢に来るに決まっている。ミナとモナも同じ気持ちだったはずだ。だが、その気持ちを押し殺しお前たちを逃がす事を優先したのだ。私が頼んだ事を二人は忠実に守っただけなんだよ」
「そ、そうですね……すみません。取り乱しました。二人ともごめんなさい」
「気にしないでください」
「……大丈夫、まったく……気にしてない」
ティアナは、少し感情的になった事を反省する。そして三人は笑顔で握手をするのだった。
「しかし、三人ものアルファベットをよく倒すことが出来ましたな」
ディンガは、ホッと一息をついてそう言った。
「それはもう、凄かったわよ」
ミアは見たこともないほど瞳を輝かせ、自分が体験した事を興奮して話す。
「そうですか。それは興味深いですね」
チャールズが髭を擦りながら、考え深そうにつぶやく。
(……しかし、それは解せない話ですね。我が師匠エマ様の魔力を授かるのは私でなくてはならない。公認の弟子ではありませんが、私ほどあの方を崇拝している者はいない。次こそは私にその燃えるような熱い魔力を注いでいただかなくては。ふ、ふふふふふぅふぅ)
「おい、チャールズ。お前何が可笑しいのだ? 少し怖いぞ」
レオナルドベアが半歩下がりながらそう言うと、チャールズを見た周りの女性陣も引き気味だ。
耐えきれずティアナが口を開く。
「しかし凄いですね。エマさんの魔法は。あのお方はいったい何者なのでしょうか?」
「さて、分かりません。我々の常識をはるかに上回る存在。これを神と呼ばずして何と言いましょう。いいえ、そう! 女神っ!」
チャールズは両手を高々と掲げ天を仰ぐ。
「そうっ! 我が心の女神様ぁ! はっ!」
心の声が溢れ出る感情に押し出され、思わず漏れていた事に気付く。
すると即座に立ち上がり、これでもかという程に背筋を伸ばし、いつも通りの紳士に戻るチャールズ。
「いえ。もう遅いわよ、チャールズ。まあ、あなたがエマさんを崇める気持ち分からないでもないけど。確かに彼女は神がかっている」
ミアが首を振りながら、チャールズに白い目を向け話す。
「長らくお前に仕えて貰っているが、新たな一面が見れて俺は嬉しいよ。しかし、エマ殿からもらったこの体は、マジックゲートを開かずとも心で念ずるだけで良いのだが、最後バーンドラゴンプレミアムを唱えようと思っていたのだが、最初のバーンと唱えただけで発動してしまったんだ」
「では第一門の【バーン】だったという訳でしょうか? しかし、あの威力は明らかに第四門、嫌、間違いなくそれ以上のものでした……」
ミアがそう言うと、理解しがたい事態に全員が首を傾げるのだった。
「しかし、このままここに留まる訳にはいきませんな」
このままでは埒が明きそうにないのでディンガが口を開く。
「それなら、いい所がある。ついて来てくれ」
レオナルドベアがそう言うので、全員はひっそりと移動を始めるのだった。
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