第49話 リアルパワー
ミアの口づけによって、レオナルドが赤く光り始める。レオナルドベアは自分の体を見回しながら、
「な、なんだこの光は? こ、声が響いてくる……エ、エマ殿?」
『レオナルド、あなたはまだこの体と、私の魔力に慣れてない。私が導くから、力を抜くのよ』
「エ、エマ殿……わ、分かりました」
レオナルドベアはそう言うと肩と顔を落とす。
『よし、良いわね。じゃあ、行くわよ! 【マジックブレイクダウン】』
その言葉が響くと、レオナルドベアの体からあふれ出るように紫色の光が湧き上がる。
「こ、これは!」
紫色の光は、次第に赤い光に変わっていく。その光はレオナルドベア自身から湧き出てくる。
『これは、【マジカルソウル】よ。あれ、知らないの?』
「まさか、こんな魔力が可視化した様な物は見た事がありません。」
『おかしいわね。魔法使いにはそれぞれ固有のマジカルソウルがあるはずだけど。そう言えばチャールズも、私のマジカルソウル見た時なんか叫んでたわね。まあいいわ。今説明している暇はないのよ。私の思念もそろそろ尽きる、長い間ここにとどまり過ぎたみたい。もう私は行かなきゃいけないけど、後は何とかなるわね。あっ、もう駄目みたい。あと、マジックゲート何チャラなんて唱えなくて良いから。じゃあね~』
その場に取り残されるレオナルドベア。
「……なんだか急だな。緊張感ないし。いや、今はこっちだ。せっかくエマ殿が力を与えてくれたんだ。ミア下がっていろ」
「は、はい」
目の前の光景が良く分からないまま、手に汗握りその様子を見守っていたミアは返事をして後ろの物陰に隠れる。
「よし。これからが本番だ!」
レオナルドベアは、両手両足にぐっと力を入れる。
その瞬間まるでレオナルドベアを中心に爆発が起こったかのような突風と大地を揺るがす音が響く。
それと共にさらに勢いを増し赤いマジカルソウルがその広い空間を満たすほど溢れ出す。ミアは吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がる。
「いたたた!」
ミヤは吹き飛ばされ、変な格好で止まったが無事な様だ。
それと同時に、氷の騎士も吹き飛ばされる。アルファベット達はその爆風を踏ん張り耐える。
「な、なんだ。あいつの変化は? 魔力? 魔力なのか? おいエイトどうなっている」
「いや、分からん。俺の魔法はまだ効いている。魔法は使えないはずだ」
「良く分からないな。それなら、あの変化は一体何なのだ? くそっ、氷の騎士よ、全力で止めを刺せ!」
セブンは、大きな声で騎士に命令する。すると氷の騎士は、レオナルドベアに一直線に向かっていく。
第四門の魔力を帯びたその刃は、大抵の物質を一瞬で切り裂く、レオナルドベアの体は特製で頑丈だが、度重なる攻撃を受け、もう既に穴が開きそうなほどボロボロになっていた。
そして、渾身の力を込めたその鋭く硬い氷の刃がレオナルドベアを襲う。
もう後はなかった。一撃でも食らえば切り裂かれてしまうだろう。
「くっ!」
その刃を前にして、レオナルドはその腕を交差させ力の限り受け身をとる。
今まで何度も受けたその攻撃の威力はわかっている。そして、次の攻撃を受けることは不可能だと言う事も。
しかし、レオナルドベアのふわふわの腕に当たった鋭い氷の刃は、高音の凄まじい音とともに真っ二つに折れたのだった。
そして、刃先は勢い余ってクルクルと回り、地面に突き刺ささる。
「な、何!」
セブンは驚きを隠せない。
「まさか、第四門の氷の騎士の体を壊すことが出来るはずはない! いやしかし、度重なる攻撃で耐久力が落ちていたに違いない。行け、攻撃の手を休めるな!」
セブンは、納得できる答えを探し、さらに氷の騎士に命令を出す。
しかし、信じられないのはレオナルドベアも同じだった。
「す、凄い。なんのダメージも感じないぞ」
その時ふと頭をよぎる昔の記憶。
「ステファン、今こそお前の持論を試させてもらう。【梵我流 格式一の手】」
両手を構えると、マジカルソウルはその手に刃のような形で現れる。
そして息を吐く。
ぬいぐるみなので呼吸はしていないが、心を落ち着かせるのだ。
一呼吸すると、レオナルドベアは動く。その一歩で、体は宙に浮いた様に、まるで、弾丸のように飛んでいく。
まず、刃の折れた氷の騎士の前で止まり、その可愛い丸い手を騎士の胸目掛けて薙ぎ払う。
それはまるで、泡でも切るかの様に軽い動作だった。そのひと振りで氷の騎士は真っ二つに寸断される。それは上からの一線。
そして、切り返して下、左、右、斜め、上下左右に薙ぎ払うと、一体の騎士はもはや見る影もなくバラバラになる。
次のステップで、後ろに構えているもう一体の騎士の前に進む。その動きは早すぎて誰も目で追えない。その時間は瞬きを一度する程度のもの、まさに瞬く間である。
そして、今度は更に両手で八回薙ぎ払い、レオナルドベアは攻撃の手を止めた。
時間が止まったように空中から氷の騎士の残骸が床に落ち、甲高い音を立てるのだった。
レオナルドベアは、押されきれない感情が込み上げていた。
「なんだ、なんだ! 冗談なのかぁ! 遅い遅いぞ! ははは、はーっはっは。なんだこの力はー! 湧き上がってくる!」
その高揚した声とともに、赤いマジカルソウルはさらに勢いを増す。その狂気の様と、余りに強い魔力にさらされ、ビクッとするアルファベットの三人。
「レオナルド様。それでは、悪役のようですが……」
城内に響くレオナルドベアの笑い声を聞きながら、苦笑いのミヤは呟くのだった。
「次はどいつだ! ミアを傷つけた罪、ミナモナの体を引き裂いた罪は重いぞ!」
レオナルドベアは、下から覗き込むようにアルファベットを睨む。ガラス製のつぶらな瞳が可愛いが、その立ち姿からは怒りの魔力を醸し出す。
しかし、アルファベットはもはやその足を止め、迂闊に動けない。蛇ににらまれた蛙である。レオナルドベアの圧倒的な魔力の圧力で前に進めないのだ。
「ば、馬鹿な。どうしたというのだ、その意味不明な力は。全く動きが見えない。しかもあのクマ、詠唱もしていない……エイト! お前の魔法封じも全然効いていないぞ! どうなっているんだ!」
「お、俺に言ってもわかるはずがない。俺の魔法は確かに発動しているのだ!」
「全員でかかるぞ。全力だ」
セブンの言葉にエイトもナインも同意する。
レオナルドベアに悟られぬように、三人とも囁くようにマジックゲートを開く。
三人は問答無用に一斉に魔法を仕掛け全てを消し去るつもりだった。




