第41話 ランチタイム
その部屋には小さなベッドが一つ置かれていた。小さな窓からは日の光が差し込み、綺麗に磨かれた緑色の石が敷き詰められた床に、綺麗な四角形を落とす。
しかしその光源は、小さなもので部屋全体を明るく照らすには不十分だった。
薄暗いその部屋の小さなベッドには、エマとモモちゃんの姿があった。
「それで、どうだったのよ」
エマが聞くと、
「うーんとね。コーヒーの味はまあまあだった。割といい街ね」
モモちゃんは毛づくろいをしながら答える。
エマは呆れた顔だ。
「もう、それじゃ全然意味ないじゃない。観光してきたの?」
「いやぁ、ごめん。なんだか楽しくなっちゃって、我慢できなかったの」
「はぁ。まあいいわ。んで、この街の様子はどうだった?」
ため息をつきエマが聞くと、
「あははっ……でもなんだか、きな臭い街ね」
その声は急に真面目なトーンになり、薄暗いその部屋で鋭い眼光を放つ。
「この辺り一帯の生命反応が薄いわ」
「それは機械が多いから――」
エマが言いかけると、
「いや、そうじゃない。大地自体のエネルギーが少ないのよ」
「ああ、そういうこと。確かにそう言われればそうかも。でも、なんでかな?」
「うーん、分かんない。でも地下にはかなり大規模な洞窟が張り巡らされているわ。常識では考えられないほどの数ね。いったい何のために沢山の洞窟を掘ったのかしら、そこになにか秘密があるのかも」
エマは首を傾げる。
「そうなんだ。もしかしたら、アルファベットの基地もそこにあるのかな?」
「ああ、あんたの言ってた秘密組織ね。どうなんだろうね。入り口を見つけようと思ったんだけど、良く分からなかったのよ。教えてもらった、王宮へも行ってみたんだけど、そこに基地はなかったわ」
「なんだちゃんと仕事してんじゃん。まあ、そうだろうと思ってたけど。」
エマがモモちゃんを撫でる。
「そのぐらい朝飯前よ。ちなみに、王宮には王も妃もいなかったわよ」
モモちゃんが胸を張り答える。
「そうなんだ。ますます謎ね。じゃあとりあえず後はこっちでなんとかするから、モモちゃんは休んでていいよ」
そういうと、エマはモモちゃんに手を伸ばす。
「また何かあったら呼べばいいわ、じゃあね」
モモちゃんはその手に乗り、そのまま腕を伝いエマの懐に消えてしまった。
その後エマは、ディンガ達にアルファベットの基地の事を聞いてみたが、地下から魔法陣で瞬間移動するため、どこにあるのかは不明だということだった。
地下に入る入り口は郊外の森の中にあり、そこにある魔法陣から移動するらしい。結局、迂闊にその魔法陣に近づくのは危険過ぎるという事になった。
「しかし、どうしたものか」
レオナルドベアは頭を抱える。
現在皆が起きていて、一つの部屋に再度集まっている。
「そうですね。このままではここから進むことが出来ませんね」
チャールズも肩を落としている。
エマが辺りを見回すと、誰もが暗い顔で項垂れている。なんとなく面倒になって、
「じゃあ、私が様子を見てくる」
するとトマが眉をひそめて口を開く。
「エマ、それはあんまり感心しないけど」
「うーん。でもしょうがないじゃない、ちょっとだけだって」
エマは両手を胸の位置まで上げ、それをトマの方へ押しつけ、何度も
浅くうなずきながら、トマをかわそうとする。
しかし、トマは納得がいかないようだ。
「しかし、エマ殿。行くと言っても誰も基地の本当の場所を知らないのですが……」
ディンガが尋ねると、
「えーとね、多分強い魔力が集まっている所があるから、そこじゃないかな」
腕組みしながら、一方の人差し指を顎に添え首を傾げる。
「なんと、そんな事が分かるのですか。しかし、アルファベットの基地はかなり強力な魔法防壁に囲まれていたので、外界との認識は完全に断絶されていました。つまり、外からも中からも、その魔力を探すことは不可能だったのですが」
ふさふさの黒い羽を揺らしながら、ティアナはそう言うと、エマが首を傾げたまま言う。
「それなら大したことない魔法防壁だったんじゃないかな?」
「いえ、そんな事はないと思います……その魔法防壁の魔法式は、二万年前の大戦時に作られ、解読することも困難なレベルだと聞いたことがあります、だからこそアルファベットの秘密を誰も探ることは出来ないと」
「へぇーそうなんだ。でもまあ、とりあえず行ってみるよ」
エマが言うと、
「エマ。くれぐれも偵察だけだからね。何もせずに戻ってくるんだ」
トマが釘を刺す。
「わかった、わかったから。じゃ!」
エマはさっと右手を上げ、決め顔をして、フッと消えてしまった。ミアは驚いて呟く。
「き、消えた……?」
トマはため息をつきながら、
「ミアさん、すいませんが、ルナを少し預かってもらえますか? 僕も少し気になることがあるので、調べて見ようと思います。そう時間はかからないと思うのですが」
ルナの肩に触れながらそう言うと、
「わ、分かりました。お任せください。じゃあ、ルナちゃん、お昼ご飯食べよっか!」
「わーい、食べる食べる」
そうしてミアはルナの手を取り、トマに微笑みながらうなずいた。
それを見たトマも微笑み返すのだった。
「よし、じゃあ僕も行くか」
そう言うとトマもふっと消える。
「ま、また…...」
ミアが呟くと、ティアナが口を開く。
「私も初めて見た時は驚きました。転移魔法陣もなく、思ったところに移動している様子です」
「そんな事が出来るの? 私たちの常識ってなんだったのかしら」
ミアは、目を見開きながら感心する。
「しかし、あの人達はどうなっているのか……」
ディンゴは今だに驚きを隠せず、開いた口が塞がらない。
すると、レオナルドベアが口を開く。
「そうだな。まあ、世界は広いという事だ。上には上がいる。今は、深く考えずに俺達の味方をしてくれるのを喜べば良いんじゃないか?」
「上には上がいるって言うのは分かるけど、次元が違うような……」
モナに抱き抱えられながら、部屋を出ていくレオナルドベア。
(……しかし、もし彼らが敵だったとした……嫌、やめよう)
一瞬頭をよぎる嫌な想像を振り払うように頭を振る。
(よもや、自分がこんな姿になっているのだ。彼らの力は計り知れない。そして、俺を救ってくれたんだ。エマ殿もトマ殿も味方に違いないだろう)
そして、悪を正す正義の味方であることを信じる事にするのだった。
次々と起こる非常識な事態にそこにいる誰もが、自分達の知識では答えなど出るはずもない事を理解していた。
無駄な事を考えるのはやめて、今は昼食を食べようとティアナは思うのだった。




