第40話 ディスコンフォートアプローチ
「でさー、ひばりがさー、遊びに来いって言うんだけど、夜中の二時に家の来いって言っても、あたしもさー、明日の予定もあるからって話よ。しかも、すぐ来い、飛んで来いって言うのよ。そりゃあ行くんなら飛んでいくけどね。はは、ウっケるよね。あはは!」
「あんた、その話いつまで続くの?」
エマは頬杖をつきながら訪ねる。
「えっまだまだ長いけど? そんでさーまたその会社の上司って言うのがぁ~」
石で出来た台の上で、モモちゃんなるその白く小さな鳥はしゃべり続けている。
差し込む光でその白い羽毛は、動くたびにキラキラと輝いている。
目には小さな眼鏡をかけている。
トマはしばらく観察していたがおもむろに懐から本を取り出し、読み始める。
そして、それを見ていたミナとモナは、飲み物の用意を始めるのだった。
「あのー、エマ殿。これはいつまで続くのかな?」
我慢できずレオナルドベアが聞くと、
「うーん、ちょっと分かんない。でも一晩中ってことはないでしょう」
エマは自分もよくわからないとばかりに肩をすくめる。
各々なんとなく、その場に座りだす。
空間には、その鳥のとめどないおしゃべりが響き続け、仕方がないので皆それぞれが自分なりに案を捻ろうと、頭を悩ませ始めた。
「ちょっと聞いてるエマ! ちゃんと聞いてよ」
「聞いてる、聞いてるって。ほらワンマンな上司なんでしょ」
「そうそう、そのワンマン上司が実はかつらだったのよ。怖いでしょ。それで、そのまた上司って言うのがさー」
エマは寝転がり、右耳で話半分に聞きながら、相槌を打つ。
五時間後。
「そうそう、そうえばさー薄皮饅頭だけど、あれって皮薄い必要ある?」
「あんた。もう朝になっちゃったわよ。みんなほとんど寝てるし」
「えっ、ところでさー、私ってなんで呼ばれたんだっけ?」
白い羽をうまく折りたたみ、顔に当てて首をひねる。
「全然話聞かないから。だから、偵察に行ってもらいたいんだって。ほらここ」
エマが人差し指をモモちゃんの小さな頭に優しく当てる。
「ああ、ここにいけばいいの? 早く言ってよね、しゃべりすぎて声枯れちゃったわ。じゃ行ってくる~」
そう言うとモモちゃんは、朝日が差し込む小さな窓から飛んで行ってしまった。
「やっと行ったわ」
エマはやれやれと言った感じで項垂れながら床に座った。
「行ったのか」
その光景を見ていたレオナルドベアがそう言った。
「それより皆をちゃんと寝かせてあげた方がいいね。ミアさん、どこかにお借りできる寝室はあるでしょうか? 皆さんかなりお疲れの様子なので、寝かせてあげたいのですが」
トマが、ディンガやティアナを見ながらそう言うと、
「はい、丁度良い部屋がありますので、こちらにどうぞ」
ミアは、見るからに疲弊しているディンガとティアナを優先して部屋に案内する。流石に色々あり過ぎたのだろう。
モモちゃんからの報告はしばらくかかるとのことで、一旦各々休むことした。
お城の地下は少し入り組んだ迷路のような構造で、魔法により強固な安全が保たれていた。
案内されて部屋に入り、ディンガはベッドに腰かけて口を開く。
「そういえば、エマ殿とトマ殿は全く疲労を感じていない様だった。エマ殿など、昨日からあれほどの魔法を行使して来たと言うのにどういう事なのだろうか」
すると、ティアナは答える。
「そうね。おかしいわ。というか異常ね、恐怖すら感じるわ。私たちは、とんでもない人と関わっているのかもしれない……」
そして、二人に会話は沈黙のまま幕を閉じるのだった。
その頃、モモちゃんはというと。
「ねえ、あんた、王宮ってこっちでいいかな?」
建物の上にとまっている鳥たちに話しかける。
「ぴーぴっぴぴっぴーぴー」
「えっ、全然違う? ちょっと勘弁してよ。それよりさー、どっかにおいしいコーヒーのお店ないかな?」
これはしばらく時間がかかりそうだった。
所変わってここは、アルファベッドの秘密基地。
そこは重苦しい雰囲気に包まれていた。
「……して、痕跡がないとは?」
「はい、完全に痕跡を消しており、復元も困難かと」
「私の前でよくもそんな事が言えたな。ナンバーフォーよ」
ナンバーフォーは、体を硬直させ、歯をかみしめて額に冷や汗を浮かべる。
「ナンバーワン様、それは私も確認しております。あそこまで完璧に消せるとなると、かなり手ごわい相手かもしれません」
ナンバースリーがフォローに入る。しかし、
「だぁっまっれえー!」
その場にいる全員が異常な重力を感じて立ち上がれず、どんどんと這いつくばる。
「う、ぐぐぐ」
ナンバーフォーは冷たい床に顔を自然に押し付けられ、身動きも取れない。
「三人もの消息不明を出し、我が組織始まって以来の失態だ。貴様らまだこの事態がどういった事かまだ分かっていないようだな!」
ナンバーワンは立ち上がり、激昂している。
仮面を装着しているので、表情は読み取れないが、その声と態度はかなりの感情の高ぶりを見せていた。
「あらら、かなりお怒りの様ですわね。ナンバーワンよ」
急に聞こえてきた声とともにその部屋の扉は開かれる。
「こ、これは、メディス様! わ、わざわざこのような所にこられずとも、私の方からお伺いしましたのに」
ナンバーワンはその姿を見るなり、跪いて話す。
「いえいえ、わざわざご足労願う訳にはまいりません。これは極めて私の勝手な私用でありますからねぇ」
メディスと呼ばれた女性は、長いスカートの裾を引きずり、大きな煌びやかな扇子で顔を隠しながら入ってくる。
煌びやかなドレスには金色の装飾がこれでもかというほどに施され、あまりにも目に余るその様はその人物の人柄を表す様だった。
メディスが入って来た事で、その場の重力異常はおさまり、全員は自由に動けるようになっていた。
「それではワンよ。私の願いをお聞き願い下さいますかぁ」
その抑揚はなんとも歯切れが悪く、心地悪さを感じさせる。
扇子で口元を隠してはいるが、目つきからそのいやらしい感情が滲み出ていた。
「おもちゃ人間が一体欲しいのですがのぉ。私のもとに運んでいただきたいのです。あーあ、それと、ザビの国は無事に完了しましたか?」
「はい。それが、救世主なるものに阻止され、ノラとデボスはすでに消滅しておりました。メディス様のご用命でしたので、なんとか手に入れたいと考えておりましたが、大変申し訳ありません……」
ナンバーワンがそこまで言うと、何の前触れもなく、ワンの右腕が床にドスンと落ちる。
少し遅れて腕が落ちた肩からは、おびただしい量の血がその場に飛び散る。
しかし、ワンは、
「大変申し訳ありません……」
落ち着き払いそう言った。異常な事態だというのに、一切その姿勢を崩さない。
するとメディスは、しゃがみこんでワンの耳元でささやく。
「あなたは私の奴隷でしょう。失敗なんてしたら、もう飼ってあげませんよ」
とても、暗く、まるで深海の底から伸びてくる手のような声だ。
「大変申し訳ありません……」
「まあ、いいですわぁ。次はないものと思いなさい。あなたは我慢強い子だから、あまり面白くないわぁ」
メディス妃はそういうと、かかとを翻す。
そして、そのまま部屋から出ていくのだった。
「ワン様!」
メディス妃が出て行った後、そういって駆け寄ったのはナンバーツーだった。
切り落ちた腕をすぐに広い、
「すぐに治療を」
その手から青色の光がはなたれ、一瞬でその腕は固定され、再生する。
「もう、いい」
「しかし、血が流れすぎて――」
ワンは自分の手を握るナンバーツーを振りほどくようにし、そのままその部屋を後にする。
(……助かったぜ。メディスが来なけりゃ、やばかったかもな。それにしても何時見ても気味がわりぃーなメディスの魔術は。まったく何をしやがったのか分からなかったぜ)
ナンバーフォーは、ワンの怒りが収まった事に肩を撫で下す。
「さあ、早急に捜索を開始するのです。今回の一連の出来事から、まだ近くに潜伏している可能性は十分考えられます。いいですか?」
退室したナンバーワンの代わりに、ナンバーツーが立ち上がりそう告げた。
「はい。わかりました」
それだけ言うと、ナンバースリーとナンバーフォーは立ち上がりその部屋を後にするのだった。




