第4話 クライシスワールド
「じゃあ、キャロライン、あなたはこの森で盗賊どもにつかまったの?」
エマの長いまつげが迫ってくる。
「エマ、それじゃあ事情聴取みたいだよ」
「ごめん、思わず。だって気になるじゃない、なんのために女性一人でこんな森に入るのよ。それも、身なりを見るといいとこのお嬢様みたいだし」
「それは……この森の奥に住んでいる、長寿一族に会う為だったのです」
そう答えるこの女性の名はキャロライン・ブリリアント。
薄く白い体色でシルバーの頭髪。スッと通った鼻筋が印象的な端正な顔立ちをしている。
服装は、紫の動きやすそうなドレスを着ている。この国の王女で、国の端にある森に住むという長寿一族の知恵を借りに来たという事だった。
しかし、このキャンプからほど近い村で休憩している時、盗賊団に捕まってしまったらしい。
「何故あなたのような立場の女性が、一人で危険を冒すような旅をしているのですか?」
トマが尋ねる。
「はい、それは、王都に天魔族が現れたせいです。そのせいで、水は侵され、病が蔓延し、沢山の人が死にました。戦えるものは天魔王の手下どもに立ち向かっています。だから、私が行くしかありませんでした」
キャロラインはそう言うと、うつむいて唇をかむ。
「その、天魔族というのは?」
トマが聞くと、キャロラインはスッと顔を上げて真っすぐにトマを見て答える。
「はい、彼らはいつどこから来たのかわかりません。そして、どこに住んでいるのかも分からないのですが、どこからともなく現れた新たな人種なのです。今までは、特に問題なく貿易を行って来たのですが、この度は違いました。突如として宣戦布告と共に攻撃を……私達は、必死に抵抗したのですが、不意も衝かれたこともあり……あ、兄はまだ町に残り戦っています。村までは、護衛の者と一緒だったのですが、その護衛は、盗賊たちに殺されてしまいました......」
詰まりながら話すキャロラインの大きな瞳から、自然と涙が零れ落ちる。
ボロボロの服装に、傷だらけの手足。
力なく座り、震えながら泣くその様からは、かなりの心労がうかがえた。
「キャロラインさん、さっきはごめんなさい。思わず強く言っちゃって。ところで、その長寿一族に会ってどうしたかったの?」
キャロラインは溢れ出る涙をこらえて答える。
「長寿一族の寿命は千年です。また、長い者では一万年は生きるといわれています。それゆえに知識に長けているらしいのです。病の薬や、天魔族たちとの戦い方など、なにか知恵をお借りできればと……金色の勇神様の復活を待つ事が出来ないので。それに、金色の勇神様についてもお聞きしたかったのですが」
「金色の勇神……ですか?」
トマが口を挟む。
「そうです。我が一族はあの言い伝えを信じています。世界はどんどん悪くなる一方です。金色の勇神様が復活なされるのなら、そろそろではないかと」
「それって、もしかして私のことかしら?」
エマが笑顔でそう言うが、トマは腕組みして顔をしかめる。
「うーん、違うんじゃないかな? ほら、キャロラインさんを見ても全然エマに反応してないし。そういえば、あの時一生懸命に声を吹き込んでた魔法書は何処にしまったのさ?」
「えーと、一番大きな家だったと思うけど。お気に入りの家だったから壊れちゃいけないと思って、頑丈に保護魔法かけたから、あの家は壊れてないはず。他の家は五億年も経っちゃったんなら崩れてるでしょうね」
「それなら、魔法書はまだ誰も発見してない可能性もあるね。キャロラインさん、その話もう少し詳しく教えていただけますか?」
キャロラインは、全く意味が分からないといった風に二人の会話を目線だけで追っていたが、すぐに言い伝えについて教えてくれた。
ひとしきり聞いたあと、キャロラインに向かってエマが言う。
「なるほど、それはきっと神の類ね。でももう安心なさい、そんないつ現れるかわかんないのより、私が来たからには弱い者いじめは絶対に許さないんだから!」
エマは両手を腰に当て、自信満々の顔で胸を張る。
その言葉にキャロラインは、目を見開き唖然とするが、すぐに、怒り出す。
「な、何を言っているのですか! これは子供の喧嘩ではないのですよ! 命をなんだと思っているのですか!」
(まあ、どこの馬の骨かもわかんない、ただの子供に対してなら当たり前の反応だと思う)
その様子を見てトマは、うんうんと頷く。
しかし、エマは手を腰に当てたまま、その姿勢を崩さない。
「大丈夫よ、大船に乗ったつもりでいなさい! 私の火魔法【バーン】でやっつけてあげるから」
エマが、そう言い放った瞬間だった、
「あはははは!」
キャロラインは堰を切ったかのように、本当に楽しそうに笑いだす。
そして子供をあやすように、エマに向かって諭す様に話す。
「そんな、最低位の第一門陣魔法なんて、大人に効かないんですよ。さっきはこの者達が、急に気を失ったから良かったもの。持病でもあったのかしら? もうっ! エマちゃんたら。大人をからかうもんじゃありませんよ」
そして急に真面目な顔になり、
「ほら、冗談はさておき、とにかくあなたたちだけでもこの場から逃げて下さい!」
強い口調でにそう言った。
「だ、か、ら――」
エマが言いかけると、トマはその肩に手を掛けて、【スルーコミュニケーション】を使う。
『エマ、今はやめとこう。僕たちの事を知る人間はきっと一人もいない』
それを聞いてエマは、トマの方を向いて腕組みして何やら考えている。
どうも納得がいかない様子だ。
しかしトマはエマを尻目に、キャロラインに笑顔を向ける。
「分かりました、僕たちはバレないようにここを抜け出そうと思います。キャロラインさんもご無事で」
キャロラインにそう伝えると、彼女は無言で頷くのだった。
テントを出ると同時に、二人の姿は消える。
『トマいいの? キャロライン置いてきちゃって』
『うん、大丈夫だと思う。スリープは強めにかけたから、一日ぐらいは起きないだろうし、ここのテントだけ、見つからないように隠したから』
『あら、そうなの。それより、だいいちもんほ……? なんだっけ?』
『第一門陣魔法だよ。キャロラインさんの心を読みながら会話してたけど、【リードマインド】は万能じゃないからね。うーん多分、一番弱い魔法ってことじゃない?』
『よくわかんないわね。バーンに一番強いも弱いもないと思うんだけど』
エマは首を傾げる。
『何かあって、魔法の体系が変わったのかも。もしかしたら、僕たちの時代の常識は通用しないかもしれない……』
すると、エマが急に振り向き、
『それってもしかしてピンチってこと?』
眼を見開き、トマを見る。
『そうだね、とにかく慎重に行動することにしよう』
手探りでまだよくわからないこの状態下でなぜ楽しそうなのか、トマはエマが心底羨ましくなるのだった




