第39話 シークレットシークレット
草木も眠る丑三つ時。
丸い月が湖面に浮かんでいる。風も全くない夜で、さざ波一つも立つ気配がない。
その白く、古い城壁は月明かりを反射し、城の全貌を艶めかしく浮かび上がらせる。
その城の秘密の地下室。
そこで、秘密の会議は行われていた。
「えーと、エマさん。この奇妙な生き物はいったい?」
ティアナは唖然とし、驚きを隠せない。
「失礼な口を聞くではない。このお方はレオナルド国王陛下であるぞ」
チャールズが怒る。
「へっ? これがレオナ……またまた、ご冗談を」
「確かに、悪ふざけが過ぎるな。このようなふにゃふにゃの物体、あの豪傑レオ様の面影も感じることが出来ない」
ティアナもディンガも全く信じる気配がない。
すると、レオナルドベアが口を開く。
「おお、久しぶりだなディンガよ。たくましく成長したものだな。見違えたぞ」
愛らしい、クマのぬいぐるみから、野太い声がする。
「れ、レオ様の声だ。その声を俺が忘れるわけがない。ま、まさか本当に」
レオナルド国王は、現役の時にディンガを戦士として育てた、いわば育ての親のような存在だった。
しかし、レオナルド国王が消息を絶った後から、現在は十年の月日が経っていた。
厳しい訓練に耐えていた若き青年だったディンガも今や立派な戦士になっていたのだった。
ディンガとティアナはミアとも面識があるようで、来る前にミアの城にレオナルド国王がいると話したら二人は驚いていた。
「そうよ。脳みそだったから、私が移したの。かわいいでしょ、エッヘン」
唖然とするディンゴとティアナの前でエマが胸を張る。
「えへへへへ~」
すると、ルナがレオナルドベアを持ち上げて頬をすりすりする。
ディンガはそれを見て開いた口がふさがらない。
あの何人にも後れを取ることのない、英俊豪傑を体現していたような、厳格あるレオナルドがくまのぬいぐるみになり、幼子に抱きかかえられ頬ずりされている。
それを思考の中でどうしても結びつけることが出来ないのだった。
「えーと、とりあえず、話が前に進みそうにないので、僕がご説明します」
トマは、それぞれの状況を鑑みるにこのままではらちがあかない気がしたので、最善の方法をとる。
一通りトマがいきさつを説明すると、ディンゴがようやく要領を得たようで、すっきりとした顔で口を開く。
「そうか、そう言う事であったのか。知らぬ所で、そのような事になっていたとは……しかし良かった。エマ殿についてきたこの選択は間違いではなかったらしい」
ディンガはティアナの顔を見る。
するとティアナも同じ意見のようで頷くのだった。
ディンゴとティアナの二人に色々と話を聞いていると、エマが現れなくても、ディンガとティアナはアレクサンドラを連れて、この夜に国を出るつもりだったらしい。
「それで、アレクサンドラは無事なのか?」
レオナルドベアが聞くと、エマが答える。
「まあ、今は完全に無事だけど、彼女、自殺したわよ」
「な、なんと……」
レオナルドはがっくりと肩を落とす。自分の無力さを感じているのだろう。
「よほど辛かったみたいよ。でも今は体も完全に復元したから大丈夫。誰かが彼女に触れた痕跡すら跡形もなく消したから、まっさらな状態で、今私の右ぽっけで寝てるわ」
「な、なんと……」
レオナルドベアはがっくりとしていた体を起こし、先ほどと同じ言葉で驚いたが、少し安心したようで嬉しそうだった。
(なんて人だ。さすがエマ様。ああ、なぜか私はあなたに酷い言葉をかけてもらいたい……)
エマは、なんとなく嫌な視線を感じてチャールズを見ると、難しい顔をして、微動だにせずエマの方へ視線を向けていた。想像に容易いその思考を考えると、エマは少し怖くなる。
そこからは、本題の話し合いとなった。
リトマス連合国は、アレクサンドラの体から【マジッククリスタル】を精製していた事実から、やはりかなりの軍事物資を集めていると推測される。
リトマス連合国の芳しくない経済状況から考えても、かなり緊迫した状況であることは確かだ。
しかし、問題は古代兵器の存在だった。
「噂でしかないですが、古代兵器はもうすでにバトラー国王の手中にあるらしいです」
チャールズが言うと、トマが聞く。
「チャールズさん、その古代兵器はどんなものか分かっているのですか?」
「残念ながら、詳細は分かりません。なにぶん二万年前の大戦の詳細な情報を入手する事は困難ですので」
「ああ、そう言えば、特定の一族にしかその情報は伝わっていないんでしたね。しかし逆に、その一族の事が分かれば、バトラーが手中に収めている兵器やその情報の出どころは分かりそうじゃないですか?」
「確かにそうですが、もし仮にその一族から情報が漏れていたとしても、一族は口を割らないと思います。」
(確かにそうか。そこまでして隠してきた情報を誰かが流しているとなったら問題だもんな)
トマとチャールズは二人して眉間にしわを寄せ考えている。
「しかし、この少人数では向こうの出方がわからない以上、迂闊に動くことが出来ないな」
レオナルドベアも頭をひねる。
「そういえば、ディンガ達は何か情報はないの? 一様一番近くにいたんだし」
エマが聞くと、
「いや、俺達などにはそのような重要な情報は伝わらない。【シークレットクラウン】の五人はもしかしたら知っていたかもしれないが」
「たしかに上層部は知っている可能性はあるわね。それに、私とディンガはもともと組織に馴染んでいなかった。特にディンガは組織のやり方にたびたび反発してたから、目をつけられてたしね。実力があるディンガが上に行けなかったのは、完全にそのせいだと思うわ」
ティアナが、切れ長で美しい形に吊り上がった目を細めてそう話した。
「そっか。じゃあしょうがないわね。それならとりあえず王宮の方へ、モモちゃんにでも偵察に行ってもらう?」
「も、モモちゃん?」
レオナルドベアが聞く。
「そうこれ」
そういうとエマは懐から白い小さな鳥を出す。
「手品師かな?」
トマが呟いた。




