第32話 エクスポーズ
「すごーい! 綺麗だね!」
ルナが飛び跳ねて、感嘆の声を上げる。
目の前には、白い石を積み上げたて作られた、雄大で優美なお城が立っている。かなり古い建物なのか、いたるところ蔦が絡んでいるが磨かれた外壁は光を放っていた。
それは、かなり広い敷地に立っており、奥の方に見える建物はとても遠くにあるのか、霞がかって見える。
三人はチャールズに案内されてここにいる。
「こんな森の中に急にお城があるんですね」
トマが言うと、
「この森は、古くから産業に特化してきたこの国に残された、大変有意義なものなのです。城の城主はこの森と対話することを望み、森の奥深くにこの城を建てました。ただ、今やこの森にも開発の手が伸び、必死に守っている状態ではあるのですが……さあ、皆様こちらの通路にお入りください」
その手が指し示す場所には、石で出来た小さな入り口があった。
「狭くて暗いわね」
エマが言うと、
「すみません。国王様の所へは通常の方法では、たどり着けないようになっておりまして」
その入り口から入り、何度も分かれ道を通った先は、少し開けた行き止まりになっていた。
「何? 行き止まりじゃない」
「エマ様、ほかの皆様方。こちらにお立ち下さい」
チャールズは全員を奥に集めると、その懐からナイフを取り出し、慣れた手つきで自分の腕を切りつける。
「ちょ、あんった、それっ! 切り過ぎじゃない!」
チャールズの腕から大量の血が流れ落ちると、それを浴びた足元の魔法陣が輝き始める。
「はっはっは。大丈夫です。これで全く問題ありません。この量が重要なのです。さあ、移動が始まります。ここの移動魔法陣は私を含め、数人の血にしか反応しない様になっておりますので」
(し、しまった、これは確実に切り過ぎだ! エマ様の前でいいところを見せようと張り切り過ぎた!)
「本当かな~? 絶対強がってるでしょ?」
移動が始まる瞬間、エマは冷ややか視線をチャールズに向ける。
出血がひどく、みるみるうちに青ざめていくチャールズの顔色。
チャールズは薄れゆく意識の中、その強靭な精神力を発揮し満面の笑顔を保つ。
移動が終わると一つの部屋についていた。すごく狭い部屋でこの人数でもようやく入れるような空間だ。
「さあ、この扉の向こうで国王様がお待ちです」
美しい姿勢のチャールズが銀色のドアを開ける。手から出ていた血は既に止まっていた。
(転移後に傷を治す魔法もかかっていたのね。あれは絶対切り過ぎだっだと思うけど)
エマからの疑は、決して晴れることはなかった。
扉の先には、二人の女性がいて、その二人はこちらに目線を向けている。
前髪を眉毛の上で切りそろえ、後頭部から側頭部にかけても乱れなく直線的に切りそろえられた髪型。長身でスマートな体形をしており、艶やかな桃色の髪色で、二人とも同じ顔で同じ髪型である。
エマがきょろきょろと辺りを見回し、
「あれ、国王はどこにいるの?」
その二人の女性以外に誰も姿が見えない。
「エマ様。国王様はあちらにおられます」
チャールズの掌が指し示す方向を見ると、沢山のパイプやコードが無数に張り巡らされている。しかし、そこに人影はない。
「えーと、どこ?」
今だに理解出来ないエマの肩をトマが叩く。
「エマ。きっとこの事だと思うよ」
トマの目線の先を見ると、そのパイプやコードが集約した部屋の隅に、透明な球体がある。そして、その中には一つの脳みそが、満たされた液体に浮かび、ゆらゆらと揺れていた。
「えっ、これ?」
想像した国王とはかけ離れたものだったため、エマは困惑している。
「国王陛下。只今戻りました。アレクサンドラの伝達通り、エマ様ご一行をここにお連れしました」
チャールズはその球体の前で、片膝をつき頭を垂れる。
すると、どこからともなく空間に響き渡る声。
「おお、よく戻った。それでそちらがエマ殿とトマ殿とルナ殿であるか」
「はい、左様でございます」
球体の脳を見ながらチャールズは喋る。
「えーと、これ、見えてんの?」
エマが言うと、チャールズが答える。
「もちろんでございます。国王様は全て見えておりますのでご安心ください」
「ああ、そう。アレクサンドラから病気でもう長くないとは聞いてたんだけど、すでに脳のみなんですけど」
「それはですね――」
チャールズが言いかけると、国王が割って入る。
「チャールズよい。それは私の口からお伝えしましょう」
(すでに口ないよ)と、エマは思った。
「私の名前は、レオナルド・ノバチェクと申します。もともとはリトマス連合国の国王をしていた者です。現在は訳あって、このような状態になっております」
「訳あってって、そうとう端折ったわね。まあいいわ。私はエマ・ブリスティアン。隣にいるのがトマで私の双子の弟。でその肩に乗っかってんのがルナよ。病気ってなんの病気なの?」
エマが聞くと、
「はい……細胞が少しずつ消滅していく病気です。脳以外はすべて消滅してしまいました。現在は、この魔法液の中でのみ存在出来ている状態です。この病は、一種の呪いのようで、治療魔法などは一切効果がなく、私の命はもはや風前の灯火。こうやってそこに居る、ミナとモナに守られただ生きながらえている状態です。最後に残った脳をこの魔法液に浸かる事で保存を試みていますが、やはり少しずつ病は進行しているようで、いつ記憶や人格がなくなるか分からない状態です」
続いてトマが話す。
「それは、厄介ですね。愚姉が何かと無礼で失礼いたしました。決して悪気があるわけではないので自然災害だとお考えいただき受け流していただければ幸いです。しかし、その呪いとやらは、誰かに行使されたのですか?」
「全く気にしておりませんのでお気になさらずとも結構です。この呪いは、我が息子、バトラー・ノバチェクによるものです。いつからか部屋にこもり、危険な呪術の研究などをしていたようで、気づいた時にはもう手遅れでした。この呪いは現代の魔法とは全く異なる形態で、世界中で解除方法を探ってみたのですが、手掛かりさえありませんでした。バトラーはまさか、私がまだ生きながらえているとは、想像もしていないと思います。そして、今ある問題は、バトラーがある種の兵器を現代に復活させようと企てているらしく、もし、そんな事になれば、世界戦争になりかねない危険な状態です」
「そうですか、ならばバトラーなら解き方を知っている可能性はありますね。しかし、ある種の兵器ですか?」
トマが聞くと、レオナルド国王は答える。
「はい。二万年前の大戦に使われた古代兵器らしいのですが、それ以上のことは情報がありません。しかし、二万年前の大戦といえば、ほとんどの生命が死滅するほどの規模でした。そのことから考えると……」
「世界を滅ぼすほどの兵器であるかもしれない、という訳ですね」
言葉に詰まった国王の代わりにトマが続きを喋る。
すると、チャールズが隣で頷くのだった。




