第31話 ボーンアゲイン
「もう、何してんだよ。あんなの見せたら精神崩壊しちゃうよ」
「え~だって、実力が知りたいって言うから……」
トマはため息をつく。
「本当に君が何かすると、めちゃくちゃになるんだから。治療魔法【リカバリー】」
トマはチャールズに魔法をかける。
するとチャールズは突如としてパッと目を見開き、
「はぁああ! はっ! な、なになに、なにここどこ? ねぇ?」
なぜか内股になり、あたりを信じられない速度で見回す。
「ほら、全くキャラじゃないセリフと格好だよ。エマのせいだから。謝って」
「あの……チャールズさん。ごめんなさ――」
「ひぃいいいいいい! あ、悪魔、悪魔だー! いや、天使、か、神か、いや絶対違う! 分かった! 死神だ!」
チャールズは、慌てふためき座ったまま後ろに這う様に下がっていく。
「ちょっと、これじゃあ、謝りようがないじゃない」
「僕は知らないよ。エマが力を開放するからだろ。そうじゃなくて、いい加減に手加減すれば良かっただけじゃない」
トマはそっぽを向き見放す。
そんなトマにエマは眉間にしわを寄せる。
そして、すぐにチャールズに向き直り、呪文をかける。
「ちょっと、落ち着きなさいよ! スリープ!」
その直後にチャールズは倒れこむのだった。
困り果てているエマをどうも放っておけないのか、トマが助言を出す。
「じゃあさ、もう一回ちゃんと相手してあげれば、相手に会わせて手加減して」
トマが言うと、エマは人差し指を立て、
「うん、そうね、それがいい。じゃあもう一度小人たちカモンっ! たっのも~」
そして、再び小人たちが現れて、先ほどまでの繰り返しが行われる。
小人たちは、全く変わらず楽しそうだ。そして同じ流れから、再度チャールズが現れ、同じようにエマと対峙する。
「では、覚悟なさってください、行きます!」
元通り元気なチャールズがすごい勢いで向かってくる。
「何度見てもまったく同じなんだな」
トマはルナの頭を撫でる。
当たり前のようにチャールズの右の拳は、すさまじい勢いでエマの顔面に迫ってくる。
そしてエマは、それを左手の手の裏で往なした。チャールズの全ての力を、余すことなく完全に別の方向へ向ける。
それはまるで、水がその形を自由に変え、そこに有るべき石の、その存在を壊さぬごとき動き。
そして同時に、風が長き年月をかけ森を育み、この世界を生み出すかのごとき動き。
自然界と完璧に調和したその動きは、破壊ではなく創造さえする。
エマの周りにある草木は急激な成長を見せるのだった。
完璧に受け流されたチャールズのその拳は、ただ力を失っただけではない。力を違う方向へ流され、体勢を立て直すことが出来ず、その結果長い時間の隙を作ってしまう。
「えっと、こんなもんかな」
エマは、先ほどのチャールズの拳を左手で往なした動作から、流れるような動きの中で右の拳に力を込める。そして、その拳をそのまま前に突き出すのだった。
「どっ! ぶべぺぺでっ!」
すさまじい衝撃がチャールズの頬を襲う。チャールズは為す術もなく、妙な言葉を発し、吹き飛び、そして地面にめり込んだ.。
あまりの衝撃で、その周辺はクレーターの様にへこんでしまうのだった。
「あれ! 私また間違えた?」
両手を頬に当て、エマが戸惑っていると、
「はがー!」
穴の中から、土砂を吹き飛ばし、チャールズが起き上がる。ほっと肩をなでおろすエマ。
「えーと、どう、わかった? 私の実力」
そう言いながら、エマがチャールズに近づいていく。チャールズは、ボロボロの恰好で俯き、そして何かぶつぶつと呟いている。
「ちょっと、大丈夫?」
エマがチャールズの前に立ち、顔を覗き込む。
「し、心水流風林綬活拳!」
目を見開きそう叫ぶと、チャールズは凄い勢いでエマの肩を抱き、涙を流す。
「ひっ!」
驚いて目を見開くエマ。
「こ、これはぁ! ま、幻の失われた武術ではないですかぁ! その真骨頂を私は今目の当たりにした! どこで……どこで、この体術を習得なされたのですかぁ!」
老紳士が半狂乱で号泣している。
「ちょっと、どうしよ。私の体術ってそんな名前だったっけ?」
迫りくるチャールズを制止しながら、首だけをトマの方へ向け、そう尋ねるが、トマは両手を広げ肩をすくめる。
「ちょっと、落ち着いてよ。そのしんすいなんちゃらってなんなの?」
エマがチャールズの胸を両手で押し、自分から引き離す。
「えっ、ご存じない? お、おかしいですね。その流れるような動きと自然界と共鳴する命の鼓動。不動の石のごとき精神で、流れる水のごとき形を変え、自然をはぐくむ風のごとし受け流しそれを活かす。まさに失われたとされる、伝説の武術そのものなのですが」
チャールズがあふれる涙をこらえ、残念そうに肩を落とす。
「ま、まあ、私の体術がそのなんちゃら拳ってのか、分かんないけどあんたにも教えてあげるから、そんなに落ち込まなくても……」
エマがなんとか元気づけようとそう言うと、チャールズはエマの手を握り、それはそれは嬉しそうに何度もお礼を言うのだった。
「それよりあんた、キャラ崩壊しちゃってるけど、大丈夫?」
チャールズはハッとして、咄嗟に乱れた服を直し、崩れた髪型を直す。
「失礼いたしました。あなた様の実力は大変良くわかりました。ぜひ私どもの力となって頂きたい」
背筋をすっと伸ばし、きりっとした紳士で大人な余裕を見せで、右手を差し出す。
「いや、もう遅いから」
エマが冷たい目でチャールズを見る。
(はっ、なんて冷たい目線だ。しかし、なんだ? この感覚は。この心の奥底から湧き上がってくるゾクゾクとする背徳感は。私はこのような幼女に心を奪われるようなアブノーマルな趣味はないはず。し、しかし、どうしてもこの方を師匠と呼びたい、呼んでみたい……)
「し、師匠……」
「誰が、師匠よ! 今の話の流れでなんて言ってくるのかと思ってたら、予想外過ぎてびっくりよ」
「すいません。私としたことが、思わず口を衝いて出てしまいました」
チャールズは、キリっとして渋い低い声で答える。
「だから、もう遅いって。なんとなく本性分かったから」
それでもチャールズは、その紳士な姿勢を崩さない。
「それはそうと、アレクサンドラは現国王である、バトラー・ノバチェクの所に居ます。その為、自由に身動きが取れないので、わたくしがお迎えに上がったという訳です」
(ああ、美しい絹の様な髪、まるで人形の様なぱっちりとしたお目々。ああ、なんと神々しいのだ。そして、そのそっけない態度……ああ、いけずぅ。ああ、どうしてもわたくしの師匠にしたい)
「あんた、気付いてないでしょうけど、変な事考えてるとき、右の口角が上がってるわよ。今もほら、なんか良からぬ事を考えてるでしょ?」
エマは眉間にしわを寄せ、疑いの目を向ける。
「エマが何度も過去から連れ帰って来たから、人格に狂いが生じたんじゃないの?」
エマのせいだと言わんばかりに、トマはそう言った。しかしエマは、そうかしら、と首を傾げる。
「おじちゃん。すごいね、エマ姉に吹っ飛ばされても平気だったね」
ルナはチャールズに駆け寄って行き、まとわりつく。
肩車をせがまれ、ルナを肩に乗せチャールズは思った。
(なんだ、私は幼子が好きだという訳ではないらしい。その証拠に、ルナちゃんに対しては、子供に対する親心のような感覚しか持てない。ただ、エマ様をみると……)
自分の方をずっと見てくるチャールズに対し、嫌な予感がするエマ。
行く末を案じて、ため息をついて肩を落とのだった。
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