第30話 チャレンジジェントルマン
「なんだか、急展開ね。この素敵な老紳士は」
優雅に両手を広げて準備万端の紳士に向かってエマは言う。
「礼節を欠いた行動とは理解しておりますが、これも国王様の為。沈黙のままこの勝負をお受け頂きたいと願います」
エマは腕を組み考える。
「まあ、仕方ないわね……いや、仕方ないのかな? これどうするトマ」
「あら、珍しいね。僕に聞くの?」
いつもなら自分勝手に進めるエマが、珍しくトマに助言を求める。
「多分、チャールズさんは得体も知れない僕たちが、大事な国王と会うことが不安なんじゃないかな。あと、見た目子供な僕たちが本当に役に立つのかってとこじゃない」
トマが言うとエマが胸を張り、
「そっか! そりゃそうよね。安心していいわよ。私は超強いから」
自信満々に宣言する。
「そちらの御仁は頭の切れるご様子。しかし、大変申し訳ないのですが、自分から強いと言われる方が強かった試しがありません。まして、超がついていらっしゃる。どうか、私を失望させないでください。【|マジックゲートオープン《魔法門開放》】」
チャールズが唱えると、その体を中心に風が巻き起こる。
風はどんどんと強くなり、周りの木々がまるで台風でも受けているかの様に派手に揺れ始める。
「あははは。おじちゃんすごーい!」
ルナがトマの頭の上で手を叩いて喜ぶ。
「よしよし、じゃあ僕たちは少し離れていよう」
そう言うとトマはルナを乗せたまま、森の中へ歩いていく。そして、魔法で自分たちを囲み防御する。
「なかなかの【マジカルソウル】ね。じゃあとりあえず、実力を見せればいいのかな。何時でもいいからかかって来なさい」
エマは特に身構えることなくそう言い放つ。
「ちなにみ【マジカルソウル】っていうのは、人それぞれ固有のもので、個人の【マハートマー】から出る魔力の事なんだ。マハートマーは人間の核で、魔法を作り出すところだよ、通常は心臓にある」
妙に詳しく、トマは頭の上にいるルナに説明する。
チャールズは少し苦笑いし考えている。
(くっ、これほどの魔力を前にして無反応か。アレクサンドラ、あなたは見余った選択をしたようですね。それにしてもマジカルソウルとは一体? まあいい)
「あなたに恨みはないですが、国王の暗殺を目論む輩の可能性も十分考えられます。申し訳ありませんが、己の力が至らなかったと、この場は諦めて下さい」
言い終わるか終わらない瞬間に、チャールズが爆発的な一歩を踏み出す、その一蹴りで地面がえぐれ、一瞬にしてエマの目前に迫る。
台風のような闘気をその右の拳一点に集め、前に突き出す。エマの顔面を目掛けて放たれた強烈な一撃。
当たったと同時に隕石が落ちたかのような重く低い大きな音が響き、鼓膜が破壊されるような衝撃波が広がる。
その衝撃は爆発的に広がり、一瞬遅れるように巻き起こった爆風は、その周辺の木々をなぎ倒していく。
凄まじい衝撃は地面をえぐり、砂嵐となり視界をふさぐ。
しばらくすると、あたりの砂埃が落ち着き、だんだんとチャールズの姿が見えてくる。チャールズは、エマの顔面を右の拳で、打ち当てたまま止まっていた。
そしてその全貌が見えてきた時、チャールズはそのままの体勢で静かに崩れ落ちる。
しかし、エマのその姿に、全くの変化はない。
「あれ、何これ。どうなったの?」
やっと視界が確保出来たのでエマが辺りを見回していると、足元に倒れているチャールズを確認する。
「えっと、これどうなったの……」
エマが理解できず慌てると、自分に掛けた結界を解きながらトマが口を開く。
「その人、死んでるんじゃないの。自分の一撃で。ほら、硬い物って殴ったら痛いじゃない」
「あら、そうなの。自分の衝撃波が体をボロボロにしたのね。って、わたしゃ、ファーピラーかよ! ほんっと、プリティガールを捕まえて失礼しちゃうわね。もう、しょうがないわ。【タイムトラベラー】」
エマがそう唱えると、その掌から、こぶし大の小人が五人現れた。
「あれれ、エマちゃんだ。わー久しぶりぷー!」
「本当だ、エマちゃん、わーっわーっ! ぺーぺー!」
その五人の小人は、それぞれ赤と青と緑と黄色と白のとんがり帽子をかぶっている。
五人は異常に楽しそうで、エマの足元で騒ぎ、ついには踊りを踊だす始末。
「みんな久しぶりね。パッコラ、ピッコラ、プッコラ、ペッコラ、ポッコラ」
「わーい、ひさぷー、ひさぷー。」
「あんたたち、相変わらずしゃべり方が独特ね」
エマは、わちゃわちゃと飛び跳ねる、五人の小人を持て余す。
五人はそれぞれ、真ん丸な目で、つるんとしたまるでお餅のような肌を持っている。その形はぷっくらしたつるつるのキノコの柄ようだ。
「かわいー」
ルナはその一人を、手に乗せて頬を擦り付ける。
「うひゃひゃ、くすぐったいポー」
反応を見てさらに押し付けるルナ。
「うひゃひゃ、ポーポー!」
「えーと、私もあなた方との再会を喜びたい所なんだけど、早急にこの人を過去から連れ帰ってくれないかしら」
エマは、小人たちに合わせ身をかがめて話す。
すると小人たちは、少し背伸びをするように一斉に、
「わかった!」
と返事をした。そしてそのまま倒れているチャールズの頭の辺りまで移動し、小人たちは順番にその頭目掛け、飛び込んでいく。
五人は吸い込まれるようにチャールズに頭の中へ消えて行くのだった。
すると、その場に倒れていたチャールズは忽然と姿を消す。
そして次の瞬間、森の奥から、行進する五人の小人が現れる。
まるで、同時に存在するかのような錯覚を受けるほど連続的な出来事だった。
「あれ、さっきの小人さんが森の中から出てきた」
ルナが不思議に思う。
楽しそうに歌いながら行進する五人の小人。
そしてその行進の最後には、とぼとぼとついてくるチャールズの姿があるのだった。
チャールズは夢うつつといった状態で、朦朧とする意識の中で歩いている。
そして、チャールズが定位置に着いたのを確認して、小人たちは消える。
「な、なんだ。これは?」
チャールズは急に意識を取り戻し、意味が分からないという感じで不安げに辺りを見渡している。
チャールズはエマに気づき、
「あ、あなたは……何故だ、私は先ほどから対峙していたはず。何か意識が……」
そう言って身構えるが、まだ頭が重く、それを拭い去るかのように首を振る。
トマはその一部始終を見て、腕組みをして冷めた目線を送る。
「なんでタイムトラベラーなんて使うんだよ。そりゃこうなるよ」
そう言って目を閉じてため息をつくのだった。
「てへ。久しぶりに小人の皆に会いたくなっちゃって」
エマは右手を頭に当てて、おどけて見せる。
「よ、良く分かりませんが、沈黙のままこの勝負をお受けいただきたい」
チャールズの全身から台風の様な風が巻き起こる。
「やっぱ、また同じになるみたい」
「そりゃそうだよ」
トマは諦めて、面倒くさそうに地面に座る。
それを見てルナも座るのだった。
「仕方ないから、ちょっと本気出すか」
エマはそう言うと思いっきり息を吸い込む。
「ちょっと、ちょっと、だめ――」
トマが慌てて立ち上がり、止めようと言葉を発するがエマは気にも留めていない。
「はーーーーー」
黒いマジカルソウルがエマの体を覆う。
それを見てチャールズは目を見開く。
「な、なんだその黒い靄は!」
チャールズが何か言っているが、エマは特に気にしない。
そして、息を静かに吐き出し、
「やっ!」
掛け声と共に目を見開き、一気に力を開放する。
そこまでだった。
次の瞬間には、チャールズは歯をがたがたと震わせて、白目をむき、そのまま膝をついて崩れ落ちる。
「こ、この世の終わりだぁ……」
チャールズは完全に正気を失っていた。




