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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第四章 リトマス連合国 囚われの王様
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第25話 ストレイディテクティブ

「アレクサンドラは上手くやってるかしらね」

 列車の食堂で、甘い茶色の飲み物を飲みながらエマがつぶやく。


 流星三号の食堂車には、四人掛けの円卓のテーブルが六つほど並んでおり、その全てに美しいレースが装飾された白いテーブルクロスが敷かれている。

 内装のほとんどは木造で作られ、艶々の輝きを放つそれは、職人たちのこだわりと木の生きた年月を表現しているようだった。


 その円卓の一つに三人は座り、くつろいでいた。

 周りのテーブルは、ほとんどが埋め尽くされ、誰もが思い思いの料理や飲み物で語らっていた。


「そうだね。彼女、実力はありそうだったから、大丈夫じゃないかな」

 トマがティーカップを持ちあげながら答えると、ルナが質問する。

「アレクサンドラさんって誰ですか?」

 

「ああ、ルナは寝てたからね。アレクサンドラって女の人に出会ったのよ。今から行く所もその人に頼まれたから行くのよ」

 エマが答えるとルナが笑顔になり、

「そっかー。じゃあアリちゃんに感謝しないといけないね。みんなで列車乗れて楽しい!」

 足を投げ出し、座ったまま少しぴょんと跳ねる。

 するとトマも、

「そうか。アレクサンドラの愛称ってアリとかアレックスとかだね」

 笑顔でルナにそう言う。

「じゃあ私もアリって呼ぼっと」


 三人が笑顔でそんな話をしていると、品格ある態度で食事と飲み物を楽しんでいた厳かな車両を切り裂くように響き渡る声がする。

「きゃあー!」


 誰もが異様なその声に、手が止まる。

「んっ? 今の悲鳴、ここの前の車両じゃないかな?」

 トマが言うと、エマも賛同する。

「うん、確かに女性の悲鳴が聞こえたわ。行ってみましょうよ」

 三人は気になる声の方へ行ってみることにした。


 車両のドアを開けると、その車両の中央部分に人だかりが出来ていた。

「何かしら?」

 エマが呟く。


 流星三号の食堂車は5つの車両を使っていた。

 エマ達が今入ってきた車両もまだ食堂車だった。


 それぞれのテーブルにはオードブルやフルコースのような料理が並んでいるが、テーブルに着いている人はいない。余程の事が起きたのか、乗客は食事することも止め、人だかりを作っているのだった。


「あれ、あの人だけテーブルで食事を続けているね」

 トマの目線を追うと、口ひげを生やした老紳士が一人、慣れた手つきでナイフを動かし、ステーキを切っている。

 騒然とする車内で、完璧な姿勢を保ち流れるような手つきでナイフとフォークを操る所作は、余りにも不自然だった。


「本当ね……でも気になるからちょっと人だかりの中に行ってみましょうよ」

 エマは、どうしてもその人だかりが気になってしょうがない。


 エマは人だかりを押し分けてグイグイと中に入っていく。

 仕方がないので、トマはルナの手を引きその後について行く。


 人だかりの中心は、丸い空間が空いており、その中心には黒い液体が散らばっていた。

 その量はとても多く、その黒い液体で水溜まりが出来ている。

 そして、その黒い水溜りの中に一人の人物が倒れている。

 黒い液体にうつ伏せに力なく倒れている。液体に頭から突っ込み、微動だにしないその様は、精気を感じさない。


 その人物の頭部は白く、頂部にイカのヒレの様な物が付いていた。

(イカみたいな人だな。イカにかかわる人種なのかな? あの液体はあの人のものか……血なのか?)

 トマは思考を巡らせる。

 大量の黒い体液を床に落とし、その中に浸かるように倒れて、未だにピクリとも動かない。


「あの人死んでるのかな?」

 微動だにしないイカの頭部を持った人物を見てエマが呟く。

 トマは少し考えてから、

「かもね。これはもしかしたら、かの有名な列車殺人事件かもしれない」

 グッドサインを顎に当てキリっとして答える。


「すっごーい! こここここれは夢にまで見たシュチュエーションじゃない!」

 エマは目をキラキラして興奮している。

「すっごーい!」

 ルナもエマと一緒に飛び跳ねるが、トマが諭す。

「ルナ。こういう時は、楽しそうにしてはいけないんだ。エマ姉は少し変わってるんだ。真似をしてはだめだよ」

 

「でも、決めつけるのはまだ早いね。彼らの生態が分からない以上――」

 トマが言いかけるが、もうすでにエマ探偵は動き出していた。


「皆さん、現場に近づいてはいけません! 犯人の証拠はまだこの現場に残されているかもしれないのですから。」

 エマは大きな声で手を広げながら、数歩歩き、振り向ざまに左手を右肘に当て、右手を唇に添えて決めポーズをとった。


 周りの人たちは騒然としている。

 その理由は当然、妙な子供が、妙な決めポーズで、妙なことを言い出した為だ。いわばその場はエマのせいで混乱している。


「この大量の血痕。これはこの人が食事をしていた最中に吐き出されたもの。つまり、この人は何者かによって食事に毒を盛られたという事なのですよ」

 エマは、その黒い液体を人差し指で取り、片膝をついてそう言った。


 その様子を見ていたトマは、

(こ、これは、あの伝説の捨て石、麻酔のおっちゃんだ)

 と思った。


 エマ迷探偵はさらに続ける。

「そして、この現場から判断するに犯人は……あなたたちの中にいます!」

 エマはビシッと指をさすが、人々はその現場を囲うように沢山いた為、一周指を指して回っていた。


 当然周りの人たちは騒然とする。それは、気でも触れてしまったのかもしれない子供に同情する憐みの感情からだった。


 そしてその光景を見ていたトマはエマを乗せるような言動をとった事に少し反省する。


「それではまず、食事を検証してみましょう」

 そう言うとエマはその人物が食事をしていたテーブルを目指し歩みを進める。

「あー、きもちわるい……」

 エマが数歩進んだ時、後ろから声が聞こえる。


「はうわっ! す、すすすすすいません。こんなに汚して、しし、しまいましてー!」


 倒れていたイカの様な人物が、ガバっと起き上がりそんなことを叫んでいる。

「えーと……」

 足を止めて振り返り、何とも言えない顔で停止するエマの肩を、トマはポンポンと叩く。


 冷静になったエマはやっと周囲の話し声が聞こえ、大人たちが自分に憐みの目を向けていることに気づく。

 そしてエマは、自分の顔が真っ赤になるのを感じるのだった。

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