第23話 アイアンタウン
「時間って結構かかるんだよね?」
エマがルナとじゃれながら言う。
「そうなんだよ。たしか五時間ぐらいかかるらしいよ。一万キロ以上あるんだって」
「へー、遠いわね。それにしてはこのマジックトレインは早いのね」
「そうだね。単純に時速二千キロ以上か。すごい技術だけど、外装があんな感じだったから揺れとか大丈夫かな?」
たしかに、言うなればブリキのおもちゃの様な見た目だった。
あの外観で、そんなに高速移動ができるとは思えなかった。そうこうしていると、車内にアナウンスが流れ始める。
「マジックトレインエクスプレスへようこそ。みなさま、本日は晴天です。そして運転手もご機嫌でノリノリ、そして何より元気です! だからもしかしたら、マッハ五ぐらい出るんじゃないですかね? えっそんなにでない? こりゃまた失礼しました」
「なんなのよ。この車内アナウンスは……」
「綺麗な声だけに、奇抜だね」
エマもトマも妙なノリについていけない。
「へへへへ」
ルナは何か楽しそうに笑っている。そして、さらにアナウンスは続く。
「とまあ、冗談はさておき。このマジックトレイン【流星三号】の本日の運航は終点までおよそ五時間。停車駅はえーと、沢山あるんで、お席にありますモニターでご確認ください。もしかしたら、ノリノリで通り過ぎちゃうかも。それもご愛敬という所でお願いします。ではそろそろ出発です。席はすべて指定席になっており、快適に睡眠も可能です。ごゆっくりと流星三号の甘―い旅をお楽しみください。それではまたお会いしましょう」
「独特だな!」
エマが思わず口に出す。
「ふふっ、エマ姉トマ兄、楽しいでござんすね」
「あんた、前から聞こうと思ってたけど、急に江戸っ子になるの何なの?」
ルナの変なしゃべり方が気になるエマ。
「うーん、わかんない。えへへ」
「なんだ! かわいいわね!」
ルナの可愛さでどうでもよくなるエマ。
「そうそう、余計なことは考えないほうがいいよ。話が長くなるから」
トマは目を閉じて、しっかりと頷きながら言う。
「誰の心配してんのよ。あんたは」
そんなこんなで、列車は進み出そうとしている。
汽笛が一回鳴ると透き通るような白色の蒸気が噴出した。先頭車両から噴出したその蒸気は次第に車体全体を包む。
そして、二回目の汽笛の音。
今度は色とりどりの細い線の様な蒸気が噴出し、白い部分を上から飾り付けていく。そして、出来上がったのはとてつもなく大きい綿あめの様な形状だった。
「ちょっと、トマ見てよ。これ、綿あめ……」
各席に付属しているモニターを触っていたエマが、一つの画面で手を止めてトマに呼びかける。
「あははは! どこまでも独特な発想だね。確かに甘い旅だ」
「おいしそう!」
トマとルナは楽しそうに笑い、エマは苦笑いを浮かべるのだった。
しかし綿あめの形をしてはいるが、その正体は魔力形成技術によるものだった。つまり、巨大な魔力の塊なのだ。
そしてその綿あめは、一瞬で目にも止まらない速さになり、トップスピードの時速二千五百キロに到達する。
しかし、車内には何の影響もない。体感としては停車している時と全く変わらなかった。
小さな振動すらない。大地に立っている時のように自由に歩き回ることも出来る。
エマ達は、いつ出発したかすら分からない程だった。
流星三号は、ほぼ満員だった。しかし、指定席しかなく、席は広くとられているのでとても快適だった。三人は色々なことを話しながら、しばし列車の旅を楽しむのだった。
ちょうどその頃、アレクサンドラは既にリトマス連合国に到着していた。
辺りは薄暗く洞窟のような構造で、地下の通路のようだ。壁にはガラス製のライトが等間隔に取り付けられている。
そこには、二メートル四方程度の大きさで、銀色の輝きを放つ弾丸型の物体が一つある。
すると、その物体の横の部分がグニャンと開いたかと思うと、そこからアレクサンドラが降りてくる。
そして、それに続き別の二人の人物が下りてくる。
顔にはアレクサンドラと同じく、赤色のデザインが入った黒い仮面をしているが、降りるなり、仮面を顔から外す。
すると、カブトムシ程度の大きさがある虫のようなロボットが飛んできて、光を三人に当て始めた。
「ギギ。イジョウナシ、イジョウナシ。ナンバーシックス、トゥエルブ、トゥエンティファイブ。帰還。ギギ。」
アレクサンドラの他の二人は、ライオンの頭部を持つ者と、鳥の様な頭部を持つ者だった。
三人とも、同じ軽量な銀色の鎧を身にまとっている。
「しかし、言い伝えは本当であったとはな」
ライオンの頭部の人物が話す。
「そうね。私の仕掛けた追跡センサーが消滅したからおかしいとは思ったけど、金色の勇神とはね」
鳥の頭部の人物が話す。
アレクサンドラは頷きながら、薄暗い通路を三人と歩いていく。三人は一つの扉の前まで来ると、その中に消えて行くのだった。
産業国家リトマス連合国。この国の中心街は独特の匂いがする。
それは、金属とオイルの匂いだ。
町にある建物のほとんどは金属で作られ、いたるところでロボットが動いている。
中心街の面積はおよそ、一万平方キロメートルであり、その全てが金属で出来ているといっても過言ではない。
しかし、街の南側と北側では事情が全く違う。
南側には最先端の綺麗な建物しかなく、とても都会的であるのに対し、北側はほとんど開発されずに放置され、貧民街も存在する。
そして、貧民街には薄いブリキの張り合わせで出来た簡素な建物も多く見受けられた。
南側と北側はまるで張りぼてのごとく、綺麗な見た目で汚さを隠しているかの様だった。
北側では町のあちこちで水蒸気が噴出され、ピストンの動く音、ハンマーの打音、車輪の音など色々な金属音が入り混じる。
そして、色とりどりのランプが、柱、煙突、壁、屋根の縁などに取り付けられ、それらの明かりは、一日中消えることはなく、夜になると独特の雰囲気を放ち、幻想的な風景にかわる。
しかし、特筆すべきはそれだけではない。
この街には他には見ることの出来ない物がある。
高さ千メートル以上ある黒い柱が無数に立っているのだ。それは色々な所にそびえたち、密集している場所もある。
しかし、そこに住む住人たちはその柱が一体何なのか誰も知らなかった。
もちろん、邪魔になるので除去しようと試みた事もあるが、何をしようとも全くびくともせず、今では誰もその柱を気にすることもなく生活していた。
この街にいるロボットには様々なタイプがいる。
据え置き型、キャタピラ型、人間のように二本足で歩いているロボットもいる。
ロボット達も南側は最先端で綺麗であり、北側は古臭く、継ぎ接ぎだらけでへこみなども多数見える。
そして、北側では働くロボットと供に、汗にまみれて力仕事をこなす多くの人間もいて、彼らはロボットと一緒になって働いていた。
汗と油だらけで必死になって働く。沢山の石を運んだり、一心不乱にハンマーを振るう者もいる。
そしてその者達が紡ぎ出す音は、そのひとつひとつが共鳴し合い、まるで荒っぽい原始的な音楽のようにリズムをとる。
美しく映る都会的なテクノロジーの影には、武骨で野性的な部分がある。
そして、これこそがリトマス連合国であり、国民は激しい貧富の差や差別意識に苦しんでいた。
傷一つない美しい都会的な建造物の裏には、多くの人々の心に沢山の見えない亀裂が入っているのだった。




