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大魔導士エマの世界大革命  作者: AARO
第三章 リトマス連合国 砂漠の町
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第17話 ユニバーサルグラビテーション

「たぶん子供だからよくこんな目に合うんだろうね」

 トマはため息交じりに呟く。どうやら目が覚めたようだ。

「はあ。可愛すぎるのはいつの時代も罪なようね。おまけにルナも天使みたいにかわいいしね。まあ、私には劣るけど」

 エマもうんざりしたように、目を閉じて首を振る。

「あんたたち! 気でも触れちまったのかい、自分たちの置かれている状況がわかっていないようだね。しょうがない、これから起こる素敵な地獄のメニューを教えてあげるわ。私の愛すべきダーリン、デボスよ、出ておいで!」

 斧を持つ女がそう言うと、石造りの牢獄のような薄暗い部屋の片隅で何か大きな物体が動く。

 軟体動物でも跳ねているようなゾワゾワとする不快な音が聞こえ、それとともに大きな物体がこちらに近づいてくるのがわかる。

「ぼぼぼそぼそ。ぼぼぼそ。げへへへへ。ノラ、こいつら食べてもいいかい」

 その音は体のどこから発せられているのだろう。聞き慣れない、抜けたような音を出しながらデボスは喋る。


 近づくにつれ少しずつその全容が見えてきた。

 その体には継ぎはぎされた様な縫い目が至る所にある。人間の皮膚と思える箇所もあるが、緑がかり表面が固そうな箇所や、ゴツゴツしたうろこのような部分まであった。

 顔も体と同じようなもので、(まぶた)がないのか片目だけ大きく見開いていて、口半分も歯茎が露出している。

エマとトマは俯いて無言だ。


「あはははっ。そうだろう、怖いだろうね。私のダーリンはね、この世界で最強の生物なんだよ。あなたたち凡人の価値観では理解できないだろう。ふふふふふ」

 そう言いながら、ノラはデボスの皮膚を撫でまわす。

「しかしね、これからあんたたちは恐怖なんて言葉じゃ生ぬるい世界を味わうことになるんだ。デボスの食べ物は人間だからね。あんたたちには一か月間このデボスの食料になってもらう。一日一日腕や手をちぎって食べるんだよ。へひゃひゃひゃ。おっと、安心するんだね、私の治癒魔法で治してやるからね。その繰り返しさ。ほら、見てごらん」

 薄っすらと見える視界で見渡すと、遠くの方に数人の人間が同じように椅子にくくりつけられている。

 呼吸はしている様だが、ほとんど動かない。

「最初のうちは泣き叫んでいたんだが、今ではほとんど何も言わないよ。お前たちもいずれこうなるんだ。私は、痛みで泣き叫ぶ顔と叫び声がたまらなく好きでね。それを見ながら飯を食うんだ」

 月明かりがノラの顔を照らす。若くきれいな顔だが、その筋肉は醜くゆがみ、その内面を映し出す。

 そして、その脇には電磁ジャーと茶碗と箸が置いてあった。

 

「げへへへ、ぼちゅぼちゅ。まずはこの色白の女の子の腕から食べていいかな。特別に両腕食べたい。いい? ノラ?」

「仕方ないわね。子供の肉は滅多にないからね。今日は特別よ」

 そう言うとノラは、左手に持った斧の斧頭に右手を添えてエマに近づいてくる。


「これは、盛大なお仕置きが必要みたいね」

 エマがつぶやく。

「だね。でも、やりすぎはだめだよ」

 トマがため息交じりに言う。


 一歩一歩ノラが近づいてくる。

 ゆっくりとエマの前まで来ると立ち止まる。

 そして、歪んだ顔つきで口角を上げ、その斧を振りかぶったその時だった。

 

「だぁめぇー!」

 その声とともに、脳天を揺さぶるほどの衝撃が全身をめぐり、まるで地面が裂けるような音が響き渡る。


 それは、エマとトマの真ん中に括りつけられているルナが突然叫んだ事から始まった。

 その声の後、衝撃音とともに特大の地震のような振動が生まれる。


「な、ななんだ、なんだい、この凄まじい振動は! それに、何か上にひっ! 引っ張られる!」

 もうすでに誰もが立っていることが出来ないほどの振動だ。

 ノラは、持っていた斧を放りだし、四つん這いになり必死に耐えようとするが、まったく踏ん張りがきかない。


 ルナは、激しくなる振動に呼応するように、その青い髪がまるで光でも帯びているように透き通っていく。

 更に、どんどんと振動が大きくなり、同時に体が驚く程に軽くなっていく。


「まずいわね」

「うん、まずいね。たぶん……」

 トマとエマは上の方にある小さな窓に目を向ける。

 さっきと比べて明らかに大きくなっている。


「やっぱ、近づいてるね。このままじゃ完全に全てが崩壊する。ルナ、僕たちは平気だから、もういいんだよ」

 トマが隣のルナに首だけ向けて言う。しかし、ルナは無意識なのか目がうつろで、その声は届かない。


 すごい振動と浮遊感だがエマ達は何も動じない。

 ノラとデボスは軽くなった体でその振動を受け止めることが出来ず、色々な方向へくるくると回っている。全く回りが見えていない状態だ。


「しかたない」

 エマはそう言うと腕と足を拘束しているロープをいとも簡単に切り、ルナの前にしゃがみこみ、諭すように話しかける。


「ルナ。私を見て。ほら、もう大丈夫。私は大丈夫だから。悪意を感じ取ってしまったのね。大丈夫だから、ほら」

 エマはそういいながら、ルナの額に手を当てるとオレンジ色の光が生まれる。すると、次第にルナの目に精気が戻っていく。

 それと共に輝き透き通っていたルナの体も正常に戻っていく。

「あったかーい」

 ルナは目を閉じて安心したように微笑む。

 すると、少しずつ振動も弱まっていき、体の浮遊感も無くなっていく。


「ふう、月だわね」

 エマが安心したように額を拭う。

「だね。かなり接近してた。あのまま衝突させることも出来ると思うね。もの凄い力だ」

 ルナは確実に自身の力で月を操っていた。このとてつもない力を目の当たりにしこの子は一体何者なのか二人には見当もつかないのだった。


「はあ、はあ。お、おさまった。いったい何だったんだ」

 ノラがゆっくりと立ち上がる。

「お、お前! ロープはどうしたんだい!」

 ノラがエマの姿を確認し叫ぶ。

「えっ、切った」

「切ったって……私としたことが、魔法式を組み間違えたか……」

 ノラは唖然とし、眉間にしわを寄せる。


「それより聞きたいことがあるんだけど」

 エマが人差し指を緩く突き出しノラに問う。

「なんだ、生意気な子供だね。まあ、ロープが切れた所で、どうせ何も出来やしないだろう。何が聞きたい?」

 ノラは落とした斧を拾う。

「あんたたちはいつからこんなことしてんの?」

「そうだね。もういつからか分からないわね。私は生まれる前から殺し屋稼業だからね。呪われた家系なのさ。デボスに至ってはいつ生まれた生命体かわからないわ。彼は、自分を改造し続けて生き続ける不滅の生命体なのよ。私にとっては最高の生命の形。うふふふふ、はっははは、ひゃああああ」

 そう言いながらノラは身もだえする。


「これは……酷いわね」

 エマは、唖然とする。そして、肩を落としため息をつくのだった。

「はぁ。あんたたちの周りにはすごい数の【マハートマー(偉大なる魂)】が成仏できずに彷徨っているわ」


「ぼひゅー。ノラ、俺こいつ食べるけどいいだろ? ぼひゅー」

 デボスが涎を垂らしながら、漏れる呼吸音と共に一歩一歩近づいてくる。

「しょうがないわね。まあ一人減っても大丈夫でしょう。今日は特別よ」

「ワァオ。ヤッター、いっただっきまーす!」

 不自然に子供のようにはしゃぎながらデボスは近づいてくる。自分を改造し、色々なものと融合できるほどの頭脳があるのだろうが、その幼稚さが不自然で、不気味でしかない。


「ひいぃ!」

 エマは焦りながら身を引く。

「ひゃーはっはっは! 今更恐怖しても無駄だよ。デボスはね子供の頭が大好物なんだ」

「こ、こいつは任せていいかな! トマ!」

「もう、しょうがないな。エマはちゃんとヒーローしなきゃダメじゃない」

 いつの間にか横には、パンパンと服を払うトマが立っていた。


「来る、来るわー! いやだ―。触らないでー!」

 エマはパニックになる。

「まだ全然触られてないじゃない。まあ確かにこいつは不気味だけど。次元魔法【ストップ(停止)】」

 トマが手をかざすと、デボスがピタッと固まって微動だにしなくなった。


「よし、トマでかした。じゃあ覚悟なさい、大魔導士エマ様の出番ね!」

 急に元気になるエマを横目に、トマはいつもの事なので無表情だ。

 そして、ノラは次々と起こる予測不能な事態にどこから処理しようか考えるのだった。

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