第六章 恐怖を飼い馴らせ!!!
投稿遅れてすいません。
テストやらなにやらで遅れてしまいました。
「・・・・大丈夫?」
「・・だめかも」
期待していただけに、直人には反動が強すぎた。少なからず声のトーンが落ちてしまう。
「そんなに魔法使いになりたかったわけ?」
「いやだって・・・・異世界ときたら定番だろ?」
「そんなものかしら?」
日常で使っているアリステアには、いまいち理解できないのも無理は無い。
もちろん、異世界に行ったことがないのだから、わからないのも当然だ。
「魔法使い以外なら一応ほかにもあるわよ?」
「魔法使えなきゃいみないじゃん」
「えっ!?・・・・もしかして魔法使い以外魔法は使えないって思ってる?」
「だって魔法が使えるから魔法使いって言うんじゃないのか?」
「何言ってんの。魔法使うだけなら別に魔法使いじゃなくても平気よ。魔法使いっていうのは魔法に特化した人のことを言うのよ」
これで問題は、解決!とばかりに胸を張る。
だが、余りに予想外のことを言われ、頭の回転が付いていかない直人。しかたなく、アリステアは諭すように言った。
「だ・か・ら、ナオトは魔法が使いたいんでしょ?だったら別に魔法使いじゃなくても平気だって言ってるのよ」
「詳しく話してくれ!」
「・・・アンタ立ち直り早いわね」
これにはアリステアも呆れるしかない。単にバカなのか、それとも打たれ強いだけなのか。どっちにしろどこかで神経が図太いらしい。
まっ、立ち直ってくれることに越した事は無いんだけどねと内心ホッとしたアリステア。
「ん?だけど魔力自体がないなら話になんなくねーか?」
「ああそれなら━━
続く言葉は、突然の乱入者により遮られた。
ほとんどノックと同時に入ってきた乱入者━━兵士はアリステアを見つけるなり大急ぎで駆け寄ってくる。
「ちょっ!!隊長!!何してるんですか!?」
「何って魔法について説明してるところよ」
鬼気迫ったかのような兵士に対してのこの対応。
どうやらアリステアには危機感と言うものが乏しいらしい。その証拠にあからさまにいやそうな顔をしている。
だが兵士も訴えるその顔は、泣きそうなくらい必死で、見てる直人としては同情してしまう。
「忘れたんですか?隊長が行くって言ったから自分は任せたんですよ」
聞かぬ存ぜぬのアリステアは、むしろ「忘れた」と言われたことに少しムッとしたのか、子供っぽい一面を見せた。
「忘れるわけ無いじゃない。現にこうやって今ナオトに魔法を・・・・」
と勢いこんだまではいいが、だんだんと尻すぼみになっていく。と、同時に顔色は悪くなっていき、かの有名な絵画の様に今にも叫びだしそうだ。
「・・忘れてたんですね」
ボソッと兵士が呟いたのを合図に、アリステアは弾かれたように直人の腕を引いて部屋を出る。
長い廊下を走りぬけるアリステアの後ろを、半ば引きずられるように直人続いた。
「ど、どうしたんだよ急に!ってちょ、おま、速いって」
「いいからきて!話は後でするから!」
急かすアリステアに引きづられて行くように突き進んでいく。いくつかの部屋を通り過ぎ、目当ての大きな部屋の扉を押し開けて走りこんだ。
着くと同時に、ここまでノンストップで走り続けた二人は、膝に手を当てて荒く息継ぎを繰り返す。
「はぁ、はぁ、はぁったくどうなっ・・て・・」
一足先に回復したアリスに続くように顔を上げた直人に、予想外の状況が目に飛び込んでる。
なんと周りは格式の高そうな騎士やら大臣やらで固められ、皆が皆突然入ってきた直人たちに冷めた視線を向けていた。しかも突然の乱入のせいで会話が止まり異様な静けさを保っている。
これが飛んで火に居る夏の虫と言うのだろう。隣のアリステアも居心地の悪そうな顔をしている。
だがそんないやな沈黙が破るように中央の玉座に座る男が口を開いた。
「なぜ遅れた?」
端的な言いかただが、何か言おうと口を開くアリステアに、男はその間々話を続ける。
「と言いたいところだが今はそうも言ってられないのでな。今回の件は水に流そう」
以外にアバウトなその男は、次に直人に視線を移して目を細めた。
「とまあ面識上の言葉はさて置き、君が異世界人か?」
「は、はい柏木直人です」
「私の名はフェルナンド・ウル・ラグリーシア。この国の王だ。率直だが、さっきは拘束していてすまなかった。みなの代わりにあやまらせてくれ。」
そういって玉座から立ち上がって頭を下げる男は、年はガストンよりも若く一見線の細い印象を受けるが、その実、服の上からも見てわかるように、しっかりと無駄のない筋肉がついている。髪はアリステアといっしょで燃えるような赤だが、直人を見る目は優しげで、ガストンを剛と言うならこの男は柔だろう。男は顔を上げると、そのままゆっくりとこちらに歩いてきた。
「おい。まさかとは思っていたが、お前って王女なのか?」
素早く隣のアリステアに小声で聞くと、一瞬嫌そうな顔をしたアリステアが答えた。
「そうよ。言ってなかったかしら?」
「一言も聞いてないからな。」
言いたいことはたくさんあったが、残りの文句を飲み込み直人は意識をフェルナンド王に向ける。
「それでなんだが君をこの城でもてなそうと思う。どうだろう?」
一見とても魅力的な案だが、この世界の住人ではない直人にとっては、たいしたことではない。それよりも彼には、聞きたいことがあった。
「あのーうれしいんですが、俺って元の世界に帰れないんすか?」
すると驚いたような顔をしたフェルナンド王は、隣のアリスに視線を移す。
「アリス、まだ彼に伝えてないのか?」
「だってぇ・・・・」
そんなアリステアの姿にフェルナンド王はおろか、あまつさえ部屋にいた全員が盛大にため息をつく。
「ちょ、ちょっとー。みんなして何よ!そんなため息ついて!」
「いやだってお前が悪いんだろ?てかまだ俺になんかあんの?」
顔を真っ赤にしながら抗議するアリスは、直人の言葉に一蹴され言葉に詰まってしまう。
「うぅー、ナオトあんたどっちの味方よ!」
「そりゃー自分の味方なんでな」
直人の言葉に周りから笑いがこぼれる。
しかし、当の本人はさすがというべきか、一回深呼吸すると落ち着いた表情に戻ってしまった。もうちょっと遊びたかった直人としては、残念なところだ。
「わかったわよ。その代わり怒らないって約束してくれる?」
「んー善処する」
「普通そこは怒らないって言うんじゃないかしら?」
「普通じゃつまらないだろ?」
直人の答えに半眼になり何か言いたそうな顔をしたが、特には言わなかった。
「まず結論から言うと帰れないわ、って今から理由を話すから黙って聞いて。さっき戦闘があったのは知ってるでしょ?実はその時に直人が来た魔法陣を|壊しちゃったのよ|<・・・・・・・・>」
アリステアが妙に歯切れの悪い言い方したことに、直人も気づいたが、あえてもう一度確認する。
「なあそれって誰が壊したんだ?」
「えっ?・・・・私よ」
聞いた後の直人の行動は速かった。
「大変不躾ですがフェルナンド王。俺にアリスを殴る権利を!!」
「うむ。許可する」
許可が下りた後は、実行に移すのみ。
「お、怒んないって言ったじゃない!」
後すざるアリステアの肩を直人の左手が、がっちりと押さえる。
「何いってんだよ。ちゃんと顔は怒ってないだろ?」
「目と顔が一致してないくせに何言ってのんよ!」
「いや善処しようとしたんだけど無理だったみたいなんだよな。それに怒らないとは言ってないし」
「じゃあせめてやさしくお願い!」
「却下」
アリステアの懇願も一太刀のもとに切り捨てた直人は、右手をアリスの頭に落とすべく、笑いながら腕を引いた。
「止まりなさい」
凛とした声と同時に、突然風が吹いたかと思うと、一瞬で二人の間に割って入った人物は、そのままの勢いで切っ先を首の皮数ミリというとこで止めていた。
そして直人に剣を突きつけた人物は、その意志の強そうな翡翠色の目で真っ直ぐに睨みつけてくる。
「あのどちらさまで━━
「すぐにアリスから離れなさい」
「すいません」
余りの迫力にすぐに離れた。
彼女は、アリステアのほうに注意を向けつつも未だ視線は直人からはずさない。
これが憧れの眼差しならうれしいが、残念ながら敵意なので痛いのはしょうがないのだろう。
「大丈夫アリス?」
「セ、セシリィ!?ど、どうしたの?」
「どうしたんだセシリア?」
アリステアもフェルナンド王も突然のことに驚く。
すると今度はフェルナンド王の方に注意を向けた。
「なぜあのような者がここにいるのですか?」
「話せば長くなるんだが」
「簡潔にお願いします」
彼女が直人の世界の住人なら、間違いなく生徒会長の座に収まっていただろう。
しかし、流れるような金色の髪は後ろで縛っていて、目つきは少し鋭いがそれを抜いても有り余るほどにきれいな彼女は、アリステアとはタイプは違うがどちらも遜色ないほどに美人だ。
「まず第一に彼は敵ではない。」
フェルナンド王の言葉に一瞬虚を付かれた顔をしたが、すぐに顔を引き締める。
「何を言ってるんですか。現にアリスが襲われそうだったんですよ!」
「それはだなー」
フェルナンド王のあいまいな答えに何を思ったか目つきがより一層険しくなる。
「一体王に何をしたの!?」
なるべく目立たないようにしていたが、まさかの発言に驚いた直人は急いで助けを求める。
「そ、そんなわけないじゃん!なあアリステア?」
「そ、そうよ。だから少し落ち着いてって。はい深呼吸」
険しかった顔も深呼吸をしたことで幾分か戻った。
だが今だ視線は直人を睨んで離さないのは、今だに心は許していないからだろう。
「それでなんだけどセシリィって私達とは別ルートだったはずよね。てことはもしかして今帰ってきたの?」
「えぇ。だからその報告をしにこの大広間にきたの。そしたらアリスが・・・・」
言っているうちにまた怒りがこみ上げたらしく睨む目に力がこもる。
そんな彼女を尻目に「はぁー」とアリステアが疲れたようにため息をつくとそれにあわさるかのように周りからもため息がもれた。
「えぇ!?そんなみんなして・・・」
これにはセシリアも顔を真っ赤にしてしまう。
さっきも同じような場面があったが、今度はセシリアだけがわかってない。そんなセシリアにさっきまでの話をアリステアが伝えたのだった。
* * * * * * * * *
「ごめんなさい」
「もういいって」
この受け答えもう何回目かわからない。
あの後、アリステアが自分の隊に直人をいれることを提案したのだが、そればっかりはすぐに決まらず数日後に行われる模擬戦の結果しだいで決めることが決定した。もちろん直人は断ろうとしたがアリスにゴリ押しされてしまい受けることになってしまったのは言うまでも無い。その後部屋に戻った直人たちは、今に至る。
「マジでどうすんだよ模擬戦。俺一度も戦ったことないんだぜ?」
「大丈夫よ私が教えるんだから。安心しなさい。」
「逆にめちゃくちゃ心配だよ。他にいないのか?」
「私以外っていったらガストンはどうかしら?」
「却下だな。俺あんなマッチョになりたくないし。他は?」
「他はセシリアとかだけど━━
「えーっと・・・
「セシリアでいいわ」
「わかった。セシリア頼む俺に剣術とか、とにかく生き残る手段を教えてくれ」
「けどやっぱりストップ」
「なんでだよ。セシリアって教え方うまいんだろ?」
「だからよ。そんなことしたら私が教えることがないじゃない」
どうやらアリステアは、自分の楽しみを奪わないでほしいらしい。遊び気分で命まで取られては、たまったもんじゃない。今のやりとりでセシリアしかないと再認識した直人はもう一度頼みこむ。
「すまん。どうかさっきの借りを返すつもりだと思って俺に教えてくれないか?」
「わかったわ。なら私に任せといて」
「あ、やっぱほどほどでお願い」
こっちはこっちで教えるのが好きらしく、すでに顔がうれしそうだ。
「じゃあ魔法は教えないわよ」
アリステアは逆に不満そうな顔をあらわにする。
そんな表情をされて、直人が断われるわけがない。やはり男が女に弱いのは、どこでも変わらないようだ。
「ぐっ、分かったよ。じゃあ剣技や拳技の近接戦闘はセシリアに、魔法とかの中距離戦闘はアリステアでいいか?」
二人して何やら悩んでいたが最終的に承諾してくれた。
今後の方針が決まって落ち着いた直人は、自分がほとんどセシリアのことを知らずに呼んでいたことに気づいた。
「そういえばちゃんと名前聞いて無かったな。俺は柏木直人」
「私はセシリア・エーレイン。よろしく」
そう言って二人は手を握りあう。その手を見るアリステアはつまらなそうな顔をしていたが、二人は気が付いていない。ちなみにアリスのつまらなそうにしていた理由は、神のみぞ知ると言ったところだ。
「そんじゃ早速教えてくれ」
「私ちょっと用事があるからセシリィ先にお願い」
「別にかまわないけど、どうしたのアリス?」
「内緒よ。後で教えてあげるから」
何を思ったか「期待してなさいよ!」とよくわからないセリフを吐きながらアリステアは部屋を出て行ってしまう。さすがにアリステアの破天荒ぶりにも、慣れてしまっている直人達は苦笑する他なかった。
「それじゃあ私達は訓練場に行きましょう。こっちね」
そう言って気を取り直すと、アリステアが曲がったのとは逆方向にある、訓練場に向かった。
訓練場は、城の中央広場に位置していて、今は、戦った後ということもあり広場には誰も居ない。
「まずはちょっとこれを持って構えてみて」
刃先が潰れた剣を渡された直人は、自分の記憶だけを頼りに構えてみる。
「その怪しげな踊りはいったい何?」
「構え?かな」
「体が開いてるけど死にたいの?」
「死にたくわ無いけどそんな急に言われたってさー」
「はい、そうやって文句いわない。じゃあまず、体を斜に構えて剣の一直線上に隠すの。で、剣を持たない左手は腰に添えるのが基本ね。」
「なあそれだと片手でこんな重いもん振り回すのか?」
「あくまで基本だから絶対じゃないわ。それにそれじゃ使えなさそうだもの」
セシリアの視線の先では、すでに腕がプルプル揺れている。
直人もがんばって入るのだが、どうにも片腕だけで支えるのは難しいようだ。
「両手なら結構いけるぜ。」
「はあっ!」っと掛け声とともに、袈裟懸げ、なぎ払い、切り上げと続ける直人。
これにはセシリアも驚きを隠せず思わず聞いてしまう。
「そんなの一体どこで習ったの!?」
「えっ!?そりゃあ漫画で覚えたに決まってんじゃん」
これじゃ只の中二じゃねーか。自分で言ってすぐに後悔したが、こっちの世界には漫画なんてものはなく、直人の心配は杞憂に終わった。
「じゃあ戦うときにもっとも必要なものってなんだか知ってる?」
「そりゃやっぱ力だろ?」
「そうじゃないの。確かに力も必要だけど、一番必要なのは勇気よ!勇気がなくちゃ恐れて力も出せないし、冷静に相手の隙だって見極められないの」
「なるほど。だけど勇気となるとちょっと俺には専門外かな」
思い出すのはここに来て当初のこと。矢が頬をかすった時のことを思い出すだけで、今でも足がすくんでしまう。ところが、
「大丈夫。そのための練習だから。」
一瞬セシリアが言ったことを理解できなかった直人。それでもセシリアは、あくまでにこにこ顔で剣を構える。
「おい・・・まさかとは思うが、こんな剣術を習ってやっと卵から生まれたばかりのひよこのような俺に、本気でやろうってわじゃないよな?ははっまさかな?まさかだよな!」
壊れ掛けた直人。だが時に人はどうしたらここまで残酷になれるのだろう。これはある意味で人の心理なのかもしれない。そしてそれから逃げようとする行動もまた人の心理だ。
「恐怖で死んだことがある人はいないわ」
「いやだけど精神が壊れて植物人間に━━
「その辺はちゃんと考えてあるから。ようは直人が恐怖を飼いならせればいいの」
「飼いならせるか!!!!!!!!!」
その言葉を最後に、彼の思考回路は絶たれたのだった。
次話は魔法特訓編です。魔法が使えない直人は一体どうやって魔法を使うのかお楽しみに(笑)