表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第四章 王女と上下関係の矛盾

直人に縄を外す約束をしてテントを後にした。

自分の隊に戻る途中、直人を隊に入れることに内心小躍りして喜んでいたアリステアだが、ここである問題点に気づく。


「みんなになんて言おう。」


まったくもってその通りである。

真っ先に浮かぶのは鬼のように怒る副隊長の姿だ。

他の隊のメンバーも皆実力派ぞろいなのだがどうにも頭が固い。

そこに見ず知らずの人間を勝手に入れたりしたら。


「はぁ〜」


さきほどの高ぶりは消えうせ、ため息をつき俯いてしまう。

トボトボと考え込みながら歩いていたアリステアは、向こうから来る足音に気づかなかった。


「こんなところで何をしてるんだお前は?」


突然の野太い声にギクッっと足を止める。

いやな予感がしつつも、おそるおそる顔をあげると。


「げぇっ! ガストンなんであんっ痛った〜い!」


頭を抑え涙目になりながら相手を睨む。睨む先には、口ひげをはやしたおっさんが立っていた。

髪は白髪が若干まじっているが、体はがっしりとしていてまったく年を感じさせない。

そして今、その体格と同じくらい渋い顔には、より深い皺が刻まれていた。


「ガストン将軍(・・)だとなんども言っているだろうが。」

「別に頭をたたかなくてもいいじゃない。ガストンはガストンなんだし。」


注意はしつつも、ガストンの言葉の端々からは諦めがにじみ出ている。

膨れっ面のアリスに呆れ顔のガストン、傍から見たら親子の様な構図だ。


「立場というものを少しは考えんか。これでもワシはお前より位は二つも上なんだぞ。」


昔から上下関係には厳しく言われてきているのだが、上下関係が嫌いなアリステアは言い方を変えるつもりはない。しかしだからと言って、どこでもと言うわけにもいかない。

アリステアだって場合によっては変えるつもりなのだが、ガストンは不満らしく話し合いはまったくの平行線であった。


「大方あの捕虜に会いに行っていたんだろうが。お前という奴は、あれほど感情に流されるな言ったはずだろ?聞いていなかったのかまったく。」

「ち、違うわよ。ただこの辺を散歩してみたくなっただけよ。」

「ほぉっ 確かお前の隊は反対のはずだが・・・まぁセシリア当たりにでもほうこっ━━

「だめーーーーっっっ!!! それだけはやめてーーー!!!言うから言うから全部喋るからそれだけはだめっ!!」


もしこんなところにいるのを彼女にばれたりしたら、永遠とクドクドと怒られ続けるに決まってる。昔一度だけ本気で彼女を怒らせてしまったことを思い出しゾッとするアリステア。

必死に止める姿をにんまりと笑って見ているガストンには腹が立つが、逆らえない。


「やはりあの捕虜に会いに行ってたんだな?」

「そ、そうよ。いいじゃない別に、それにナオトはそんなに悪いような奴じゃないわ。知りもしないのに決めつけないでよ!」

「おいおい。けして悪いとはいってなかろう。わしは知らないからこそもっと注意すべきだと言っているんだ。」

「そんなの一緒じゃない!」


感情的な口調になってしまうアリステアに対し悪びれた様子のないガストンは問う。


「ではなぜお前は初めてあった者に対し安全だなどと言えるのだ?」

「えっだっ・・そん・・・。」


痛い所を付かれ答えることができない。

もともとただの好奇心から気になっただけのアリステアに「安全か?」とたずねたところで、答えが返ってくるはずもない。

もちろんそのことを良く知っているからこそガストンは聞いたのだ。


「答えられんのだろ?わしが言っているのはそうゆうことだ。何も決め付ける必要はない。だがまずは疑ってかかることが重要だ。それにお前は隊長だこの意味がわかるな?」


アリステアは素直にうなずく。

隊長は自分の命だけでなく部下の命も背負っている。つまり隊長の安易な判断は、隊の全滅を引き起こしかねない。

何度も見てきたことがあるガストンの言葉は十分に説得力があった。

だがそれは自分だってわかっているつもりだ。つもりなのだが直人から感じるこの不思議な気持ち。言葉では言いあらわせず感じるとだがそう思うのだ。

ガストンもアリステアがうなずいたのを見てそれ以上のことは言わなかった。


「よし話は以上だ。そろそろ自分の隊に戻れ。あらかた相手の残党兵も排除しただろう。本国に帰るぞ。」

「あっ!そうだ。お願いがあるんだけど。」

「なんだ?」

「ナオトの縄をはずして貰いたいんだけどいいかな?」

「だめだ。」

「えぇー!なん━━


抗議するアリスをガストンが続けた言葉で遮る。


「といいたい所だが、お前がそこまで言うのなら考えなくもない。しかし約束はするが外すかどうかはわしが決める。いいな?」

「はーい。」


隊に戻ろうとするアリスは、ふと途中で立ち止まりこちらに声をかけてくる。


「あのねーーー!」

「ん?」

「ガストンのば~か!」


舌をだして笑いながら駈けて行った。

その後ろ姿を眺めながら怒るわけでもなく小さく呟く。


「アリステア王女様(・・・)・・・。」


走り去る後ろ姿は、小さかったころのアリステアの姿と重なり自然と笑みがこぼれる。

その笑みは、子を思う親のようなそんな暖かい笑みだ。こんな姿、他の兵に見られたら過保護だと笑われるだろうと思いつつ、約束を果たすべく向かうのだった。

空では太陽が、二人に微笑むかのように日の光を注いでいた。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ