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第二章 ある日の帰り

「あ〜まじかったるかった」


沈みゆく太陽をバックに一人で悪態をつきながら直人は帰路に着いていた。

理由は単純明解。掃除をさせられたからだ。


今日いきなりの全校生徒による大掃除。文面だけなら一見当たり前のようにも思えるが、どうやら彼の学園でちかじか留学生を受け入れるためらしい。たかが留学生のために掃除だなんて言うのもおかしな話だが、こればっかりは直人の力ではどうにもならないのが現実だ。他にも生徒間でいろいろと噂が流れているがどっちにしろ生徒にとっては、いい迷惑だ。


直人が部活に入っていないのにこんなに遅くなっているのも、使われていなかった教室の掃除という貧乏くじを引いたからだ。明日も掃除なら、みんなでストライキでもしようかなどと考えながら歩いていると、向こうからローブを纏いフードを目深に被った集団とすれ違った。集団と言っても五人程度だがこのご時勢あんな姿でうろつく時点で間違っている。


しかしそこは人の性らしくどんなに危険だと思っても好奇心には勝てなかった。

直人はすぐに近くの角を一回曲がってから、再度Uターンをしてから後を追う。

何度か缶を蹴ったりなどして、物音を立てるたびに冷や汗ものだが幸い相手は急用らしくまったく気づいていなかった。


歩くにつれ見慣れた景色が消えていくことに、一抹の不安を感じつつも逆にそれがより一層直人の好奇心を仰でいく。あれこれ考えているといつのまにか目的地に辿り着いたらしく大きな広場のようなところで集団は足をとめた。


近くの石柱に隠れつつ周りを見ると周りは、円を描くように木々が覆っていてさっきつけてきた道以外に道はないらしい。中央に一枚岩のような大きな石が置かれていてそれを囲むように四本の石柱が置かれている。


ここまで材料がそろっていると誰しもがある種の期待をもつと思うが直人もその一人だ。

ところがここに来て一枚岩の辺りで何やら話し込み始め一向に進む気配がない。そろそろ晩飯の時間だから帰らない母さんに怒られるとマザコンじみたことを考えつつも時計を確認する。まあ帰るつもりはないが・・・一応連絡をしようとケータイを開くが県外を表示しておりあえなく断念した。


その後も話し合いは続き、いい加減直人の我慢が限界に達してきたころ、やっと終わったらしく一人が一枚岩に手を置いて何やら呟きだした。


「我異界と現世を繋ぐ者なり。汝我の・・・・


何を言ってるのかさっぱりだがとにかく日本語ではないことは確かだ。最初はなんの変化もなかった地面に、大きな魔法陣が浮かび上がってくる。さっきまでのイライラも吹き飛び完全に見入ってしまった。


だがここである重大なミスを犯したことに直人は気づいた。最初浮かびあがる魔方陣は石柱に囲まれていると思っていた。ところが光に見入っているうちに円は大きくなり、石柱が囲むのではなく魔法陣が石柱を囲っているのである。


「まずっ!!」

「誰だ!?」


とっさのことで声が出てしまい相手にも気づかれてしまう。


「おい まさか━━


魔方陣が完成し光がより一層強くなる。視界がホワイトアウトすると同時に相手の言葉も途切れた。

不思議な浮遊感とともに地面の感触がなくなりぐにゃりと空間が曲がるような感覚を覚え目を瞑った。次に地面に足が着いてから恐る恐ると目を開けると、さっきまでの景色ではなく、見たこともない様な景色でもない、剣の切っ先が目の前にあった。


「うっ━━

「喋るな。」


殺気を押し殺したような声と同時に口を押さえられた。

フードで顔は見えないが、声からして若い男だということはかろうじで分かる。


「あそこで何をしていた?」

「うんぐっうぐぶはぁーげほげほ・・・えっと学校帰り?じゃなくてその・・・帰ってる途中で道に迷っちゃって・・・すいませんでしたっ!!」


焦って余計に舌が回らず相手の反感をかってしまう。


「はぁ!お前の家はあんな森の中だってのか!?」

「いやその・・・・違います。」


曖昧な答えに、痺れを切らした男は質問を変えてきた。


「ちっ! じゃあなぜついてこれた?」

「えっ? ど、どういうことですか?」

「ねぇ この子人間なんじゃない?魔力もない見たいだしよく見たら学生服着てるわ」


話がかみ合わない直人に、横からフードを取った桃色の髪の女が助け舟をだす。


「それだと俺らについて来られるわけがねーだろ。あそこには人間避けの魔法がかかってるはずだ。」

「そーねだけど魔法だって万能じゃないわ。それよりいい加減フードを取ったらどう? その子も怖がってるわよ。」


男は舌打ちとともに、乱暴にフードを脱ぐ。

女のおかげで喉元にあった剣から開放され、今だ切っ先はこちらを向いたままだが安堵感からその場にへたり込んでしまった。

代わりに女のほうが話しかけてくる。


「大丈夫君?」

「は、はい!」


差し出された手を掴みながら反射的に答えてしまい、笑われてしまう。

立ち上がった足はまだ震えているがこれ以上ははずかしかったのですぐに言葉を続ける。


「あ、あのここはどこなんですか?」

「ごめんなさい。今は説明する時間はないの。それに君には私たちに付いてきてもらうわ。」

「えっとなんでですか?」

「まだ君の疑いが晴れたわけじゃないからよ。」


状況を整理すると、スパイかなにかだと勘違いされてるらしい。もともとスパイ紛い

の行動をしていた自分悪いのだが本人はもうすっかり忘れていた。


「い、いや俺べつに何もしてないじゃないですか!?」

「何かしてからじゃ遅いに決まってるだろうが。」

「それは・・・そうですけどでも━━

「でもくそもへったくれもねー。命があるだけでも感謝してほしいくらいだぜ。」


さっきの男が荒い鼻息を付きながら見下すに言った。


「あんたもそれぐらいにしときなさい。今は戦闘中なんだからここもそろそろ動かないと奴らに━━


呆れたように話す彼女の言葉を怒声とたくさんの足音が遮る。


「いたぞ!!!敵の援軍だ!!!!」

「まずいぞ!敵に居場所がばれた!!」


仲間の一人が焦ったように言う。


「いわんこっちゃない。こうなったら少し早いけど、迎え撃つわ!君は私から離れないで!わかった?」

「無理です。絶対無理!!一般の高校生の許容範囲超えてますって!」

「大丈夫よ。ちょっと本格的な課外授業(戦闘)だとでも思えば平気、平気!」

急に性格がハイになったの対しこちらは焦る気持ちを抑えるだけでも精一杯だ。

「いつの時代のスパルタですか!?それになんですかあいつら!?」


直人の頭の中では、けたたましくアラームが鳴っている。


「ウルティス兵よ。死にたくなけれって避けて!!!」


ヒュッ

彼女の目の前で直人の顔スレスレを矢が通り抜けた。

咄嗟のことで固まるナオトの頬を生暖かいものが流れ落ちた。


「君大丈夫!?しっかりして!」


放心状態になった直人はゆっくりと頬に手で触れた。


「・・・血?」


直人の中で何かが壊れた。


「死、死にたくない・・・逃げなゃ早くここから」

「ねぇ落ち着━━

「うるさい!!放せ!!うわわわわわっっ!!!!」


落ち着かせようと伸ばした手を振り払い逃げ出す。

とにかくここから離れることしか彼の頭の中にはなかった。

近くの林に突っ込みなおも走り続ける。


「ちょっそっちじゃ━━

「そんな奴いい加減ほっとけ! それよりこっちに集中しろ!!」


慌てて追おうとする彼女を男が制止した。


「・・・わかってる」


彼女は直人が走りさったほうを見てなおも迷う素振りを見せたがあきらめたのだった。



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