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第一章 始まり

 テントの中はガランとしていた。上から下がる頼りなげなランプの光が、殺風景な部屋の中に座る学制服を着た男を照らしだす。

 中は湿気臭いのだが、後ろ手に縛られた彼━━柏木直人には、この臭いを防ぐことができない。さすがに彼もうんざりしていたが、それも入った初めだけであり、今ではすっかり鼻が馴染んでしまっていた。

 そんな現状で何度目かになるであろうため息をついていると、テントに誰かが入ってきた。


「うわっ、くっさー。何よここ、ちゃんと掃除してないわけ?」


突然入って来た彼女はしかめっ面をしつつも、直人を見つけるなり驚きの言葉を口にする。


「いたいた。ねぇ、あんた私の隊に入らない?」

「はぁ?」

「だから私の隊に入らないかって聞いてんの」


いきなりの誘いに、直人が彼女を疑ってしまうのも無理はない。仮に彼が兵士ならまだしも一般人。しかも囚われの身となると、余程のことでもないかぎり誘ったりはしないだろう。だが残念なことに、自分にその余程のことがないことくらい直人はわかっている。つまり、ある意味疑うのは必然だった。


「一応理由を聞いてみてもいいか?」

「何言ってんの。面白いからに決まってるじゃない」


もちろんその問いに直人は即答した。


「やだ」

「なんでよ!」

「それは俺のセリフだ。……他にはないのか?」

「ないわよ。当たり前じゃない」

「…そうか」


返す言葉を無くす直人に対し、彼女の口は止まることを知らない。

ついには考えることを放棄し、ただぼーっとする事だけに撤し初めるが、そのことに気付かない彼女は、どんどんヒートアップしていく。


しかし、それら全てを聞き流してはいても、今もなお喋り続ける彼女に少なからず興味も抱いていた彼はそっと見上げた。


腰の辺りまである真紅の髪に意志の強そうな瞳。すっとした目鼻立ちは優美だがそれと同時に幼さも感じさせる。一言で言うなら美人だ。


身に着けているのは、白を基調として赤いラインの入った鎧のような服を着ている。直人を拘束してここまで連れてきた兵士の鉄板鎧みたいなのとはあきらかに格が違っていた。

しかし直人が驚いたのは、鎧のような服に対してではない。これを着ているのが、自分と年も変わらない女の子だということだ。


「ん〜人は見かけによらないってのはまさにこのことだな。」


外見と内面とのギャップには納得したものの、今だわからないことが多すぎる。


「何?」

「えっあぁ…俺とそんなに変わらなそうなのにすげーなと思って。隊に来ないかって誘ったってことは、隊長なんだろ?」

「あらよくわかったわね」


なぜか急にうれしそうに言う彼女に、直人は素直な感想を答えた。


「だって鎧とか外にいる見張りなんかより全然高そうじゃん」

「あっそう・・・」


彼女の、どうでもよさそうな顔に、今さらながら地雷を踏んでしまったことに気付いた。

しかし、正直に言っただけの直人に、原因がわかるはずもなく焦ってしまう。


「ど、どうした?俺なんか変なこと言ったか?」

「別に・・・ただ私からすごいオーラを感じたからだとか言ってくれるかと思っただけよ」

「い、いやたぶん俺みたいな普通の奴には、そのオーラがわかんないんだよ」

「バカにしてない?」

「してないしてない、そんなわけないじゃんか!」


カチャと腰の剣に手かけたのに、気づき必死で否定する。


「うん・・・まぁそうよね。分かる人にしかわからないわよね」


気付けるのはたぶん彼女だけだが、彼は自体が丸く治まったことに安堵した。しかし、安堵した拍子に食い込んできた縄の痛みが、今だ彼が囚われの身であることを示していた。ならばと、少しでもこの状況を打破すべく彼は口開いた。


「それよりそろそろ縄をはずしてくれよ」

「それ無理」

「なんでだ?お前隊長権限かなんかで、縄をはずすことぐらい簡単だろ?」

「ん〜まあそーなんだけどね。それすると上に怒られるのよね。あんた一応捕虜だし。しかも最悪私もあんたも反逆者扱いされてこうよ。それでもいいんならはずすけど?」


自分の喉の前で親指を横に引くマネをする。彼女の眼はマジだ。たぶん本当に飛ぶのだろう。そんな想像が簡単に浮かぶ自分に減なりしてしまう直人。


「や、やっぱはずさなくていいや。ってこっちくんな!はずさなくていいってマジで!!」


いつの間にか近づいてた彼女は、面白半分で直人の縄をはずそうとする。そんな悪魔の様な所業から必死で逃げる直人。

完全に遊ばれてる自分に直人は悲しくなった。


「なんかあんたと話してると楽しいわ」

「全然楽しくねーよ」

「ごめんごめんそんなに睨まないでよ。だけど・・・頼むくらいなら出来るかもしれないわ」

「まじで!?頼む!」

「じゃあ〜」


一瞬の思考の後、なにやらいいことを思いついたらしく条件を提示してきた。


「じゃあまず、どこから来たのか教えてくれたら考えてもいいわよ」


うれしそうに話す彼女に、確認のため質問の許可をとるべく手を上げたかったのだが、縛られているので口で聞いてみる。


「質問があるんだが?」

「何?」

「それと頼むのって関係あんのか?」

「ないわよ」

「じゃあなんでだ?」

「面白そうだからに決まってるじゃない。」


質問の答えはだいたい想像がついていたが、どうしてもため息がこぼれしまう。


「いいからいいから早く早く!」


どうやら彼に拒否権はないらしい。

直人に出来ることと言ったら、再度ため息をつくぐらいのものだ。


「どこから話せばいい?」

「全部よ」


遠慮の欠けらもない物言いからして、彼女は間違いなく聞き入れないだろう。

そんなことはとっくにわかっていたことだ。


「俺はべ━━」

「ちょっと待って」

「な、なんだよ?」


急に手で静止してきたのに驚く。

彼も出鼻から挫かれるとは思ってもいなかったからだ


「名前聞くの忘れてたわ。名前は?」

「あー、まずは自己紹介ってことな。俺は直人。柏木直人だ」

「私はアリステア・アウル・ラグリーシア。アリステアでいいわ。よろしくナオト」

「ああよろしく。んじゃそろそろ始めていいか?」

「いいわよ」


軽く咳払いを入れる。

思えば、直人自身これで話すのは二度目になる。と言っても、最初の相手にはまったく聞き入れてもらえず、彼は半ば諦めていた。が、自分に興味を示してくれるアリステアなら聞き入れてもらえるかもしれないと期待することにする。

アリステアに出会えた偶然。そしてそこに至るまでの偶然。連鎖する偶然の始まりを直人はゆっくりと語り始めた。





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