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312話 それから……(1)

バルカム司祭の訃報から20日が経過した。発見された遺書は偽造されたものであるという可能性が考慮され、自殺と思われていた司祭の捜査は正式に見直されることになった。

 私の家に置かれていた捜査本部もリアン大聖堂の近くにある軍の詰所に移動することになる。警備隊の往来が減ったため、屋敷内が一気に静まり返った。本来の姿に戻ったというのが正しいが、最近の賑やかさに慣れていたため違和感を覚えてしまう。


「クレハ様、ハーブティーをお淹れ致しました。お菓子もありますので皆さんで召し上がって下さい」


「ありがとう、リズ。これは何のハーブかな?」


「うーん……匂いからしてカモミールかな」


「さすがルーイ先生。正解です」


 お菓子という単語が聞こえたのだろう。ルーイ様が私の側に近寄って来た。カモミールは以前もリズが淹れてくれたことのあるハーブティーだ。確か疲れている時に飲むと良いという飲み物だったはず。私たちに対するリズの気遣いが感じられた。


「お菓子はうちの父が作りました。お口に合うと良いのですが……」


「リズちゃんのお父さんが作ったものなら間違い無しだ。俺が保証する」


「……ありがとうございますっ」


 ルーイ様は以前、オーバンさんお手製のカップケーキをベタ褒めしてたんだよな。お菓子に関しては誰よりも舌が肥えていそうな彼からのお墨付き。リズの頬が僅かに赤く染まっている。父親が褒められたので照れているのだ。なんだか私まで嬉しくなってくる。用意して貰ったお菓子はスコーンにシフォンケーキ……そしてクッキー。全部とっても美味しそうだ。ルーイ様の瞳もキラキラと輝いている。


「せっかくだから皆でお茶にしましょう。レナードさんとルイスさんも呼んでくるね。もちろん、リズも一緒にね」


 時刻は15時になろうとしていた。時間的にも小腹が空く頃だしちょうど良い。

 クラヴェル兄弟は部屋の外で待機中である。捜査本部が移された後でも、彼らは私の護衛として屋敷に残ってくれているのだ。時々、セドリックさんやミシェルさんと交代しつつ私の側にいてくれている。










「ところで、あれから捜査の進み具合はどんな感じなのかな。なんか進展はあった? レオンは王宮と捜査本部を行き来しながら忙しそうにしてるみたいだけど」


 ルーイ様とクラヴェル兄弟、そしてリズと私……5人でお茶を飲み交わしながら捜査の進捗状況を確認する。私はリアン大聖堂の調査以降、自宅での待機命令が続いている。基本的には普段通りの生活をしているだけなので、特に不便なことがあるわけではないけど……やっぱり捜査の状況は逐一気になってしまうのだ。そしてそれはルーイ様も同じだ。

 ルーイ様は当面の間、私と一緒にいて欲しいとレオンから頼まれているそうだ。自分が側にいてあげられないから、私が最も信頼しているであろうルーイ様に託したのだという。そんな経緯もあって、ルーイ様もクラヴェル兄弟と共に私の家に滞在中だ。


「残念ながら、特に大きな動きはありませんね。ニコラ・イーストンの行方もいまだ分かっていませんし、予言者の正体に繋がる情報も得られていない状況です」


「そうか。予言者はネルとティナが拘束されたことで、自分の存在がこちら側にバレたと分かっているはずだ。当分は目立たないよう身を潜めて大人しくしているだろう。でも、隙あらばふたりをどうにかしようと狙っていると思う。警備は万全にね」


「強い暗示がかけられているとはいえ、現状予言者の正体を知っているのはあの少女たちだけですからね。分かりました。クレール隊長に伝えておきます」


「リアン大聖堂の巡回も引き続き強化しておいてね。予言者はあの場所に頻繁に出入りしていたようだから、正体に繋がる痕跡が見つかるかもしれないから」


「了解。これは一番隊だね。言っておくよ」


 ルーイ様がクラヴェル兄弟に指示を出している光景もすっかり見慣れたものだ。レオンやセドリックさんがいない時はこのような形になることが多い。いつの間にかすっかり捜査の中枢を担っているんだよな……ルーイ様。


「それにしても、ニコラさんはどこに行ってしまったんでしょうか。姿を消してから何の手掛かりも見つからないなんて……」


 リズが心配そうに呟いた。ニコラさんは私の暗殺をグレッグに依頼したことが明るみになり、ジェムラート家を解雇された。捕まれば死罪は免れないとされている。

 クラヴェル兄弟は既に亡くなっているかもしれないと予想している。私もこれほど失踪後の足取りが掴めないのには理由があるのではと考え始めている。兄弟の予想が当たっているのではないかとも……


「ニコラ・イーストンが失踪直前に同僚に言っていた『会いたい人』だっけ? それってやっぱ予言者のことだったのかな」


「彼女が同僚を誤魔化すために適当な嘘を言ったのでなければそうだろうね。ニコラさんは予言者本人には会ったことないだろうから、正確には予言者の言葉を彼女に伝えていたネルとティナを指す」


 ニコラさんは相当追い詰められていたはずだ。王宮から派遣されたミシェルさんを見て怯えるほどに……。藁をも掴む気持ちで予言者に助けを求めようとしたのかもしれない。

 

「そうなると……ニコラ・イーストンはリアン大聖堂に向かっていたという事になる。その道中に何があったのか……」


「ネルとティナのふたりは本当に何も知らないのかな」


「あのふたりは信徒との会話は最小限に留め、予言者からニコラさんへの言葉は殆ど手紙として渡していたそうだからね。手紙の内容も見ていないらしいよ」


「使えねーなぁ」


「でも、そのおかげで彼女たちの罪はそこまで大きなものにならなくて良かったです。催眠術による影響も考慮されましたし……」


 今後も捜査に協力することを条件に、投獄には処されないそうだ。軍の監視は付くけど、彼女たちの身を守るためでもあるのでそこは受け入れて貰うしかない。

 事件はまだ解決していないが、状況は刻々と変化していた。

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