300話 変装(3)
「突然現れて無理を言ってしまってごめんね。協力感謝するよ。えーと、君たちの名前は?」
「私はネルです。こっちの子はティナ」
「ネルとティナだね。改めてありがとう」
「マードック司教様のお友達のお願いを無視するわけにはいきませんから……」
本人の口から名前を言わせることに成功する。ふたりの少女がネルとティナであると確定した。
ルーイ様が司教様の友人だと名乗ったのが功を奏したようで、ネルとティナは戸惑いながらも私たちの要望に応えてくれた。今のところ計画通りに進んでいる。ルーイ様のコミュニケーション能力の高さにも助けられていた。
ネルは14歳ということもあってか、受け答えがしっかりとしている。ティナの方はネルの服の裾を握り、彼女の背後に隠れながら私とルーイ様を交互に見ていた。こちらはまだ私たちへの警戒が解けていないみたい。性格もネルより内気というか……大人しそうな印象を受けた。
「さて、それじゃ早速始めようか。忙しいなか時間を作ってくれたんだからね」
私たちは広場の各所に設置されている長椅子に座った。ここなら会話をしながら周囲を見渡せるし、子供たちの輪からそれほど離れてもいない。ネルとティナも安心だろう。
「ルーイ……さんは、リアン大聖堂について調べているんでしたよね。それで聖堂にいる人たちに話を聞いて回っているのだと……」
「正確には俺たちはある事件の調査をするために聖堂を訪れたんだよ。さっきは他の子供たちもいたから曖昧な言い方をしたけどね」
「事件……? 調査?」
ネルとティナを連れ出すことに成功したので、ルーイ様の演技も終了だ。彼はこれからふたりに対して取調べを行う。
「これだけ聖堂のあちこちに警備隊の人間がうろついているんだ。君たちだっておかしいと思っていたんじゃないのか?」
事件と聞いた時のネルとティナの反応はあまりにもさっぱりとしていた。とぼけているのか、本当によく分かっていないのか判断に迷う。互いに顔を見合わせて困惑している姿は演技に見えないが、果たして……
「えっと……警備隊がいることはもちろん分かってましたけど、私たちには関係ないだろうって……ねぇ、ティナ」
ネルの言葉にティナは相槌を打つ。関係ないか……このふたりは懺悔室内でニコラさんと会話をしているはずだけど、彼女がその後どうなったのかは知らないのか。警備隊の話を持ち出しても反応が薄い上、自分たちには関係ないなどと口にする。あまりにも他人事だ。事件の首謀者に利用されているという予想もしていたけど、当てが外れたのか……
「どんな事件か知らないですけど、私もティナもお話しできることなんて無いですよ」
ルーイ様は自身の口元に指を這わせる。これは彼が考え事をしている時によくする仕草だ。ネルとティナのこの状態をルーイ様はどのように受け止めたのだろうか。
「ニコラ・イーストン……この名前に聞き覚えは?」
「えっ……」
「俺たち……そして警備隊の連中は、この女性の行方を追っている。彼女は姿を消す前にリアン大聖堂に頻繁に出入りをしていた事が判明しているんだ。どうだ? この名前を聞いても自分たちは関係ないと断言できるか」
はっきりとニコラさんの名前を出した。ルーイ様はふたりの反応を窺っている。彼女たちの言葉や動作のひとつひとつ……何が重要なヒントになるか分からない。私も周囲の様子に気を配りながら、ふたりがどのような返しをするかに注目した。
「……ニコラ・イーストンって、預言者様のご指示にあった人じゃ……」
「ティナ!!」
「預言者……?」
ルーイ様と直接会話をするのはネルばかりで、ティナはネルの後ろに隠れて頷いたり、首を横に振るばかりだった。しかし、ニコラさんに関する質問に真っ先に答えたのは、ネルではなくティナの方であった。雰囲気的に答えたというよりは、ついうっかり言ってしまったという感じであったけど……私とルーイ様は彼女の言葉を聞き逃さなかった。
『預言者様』……この明らかに怪しい第三者を示す単語が出た瞬間、ルーイ様の口角が上がった。
「どうやら、ニコラさんの事は知っているみたいだね。ああ、良かった。ある程度確信はしていても断言は出来なかったから安心したよ」
「……あなた、司教様の友達じゃないですね? 私たちをどうするつもりなんですか。さっきも言いましたけど、私とティナは事件なんて知りません。関係ありません」
「その主張を受け入れるのは難しいかな。関係ないかどうかはこちらが決めることだよ。あっ! それと、マードックと知り合いというのは嘘じゃないからね。先生やってるのも本当だから誤解しないように」
やはりネルとティナはニコラさんの事を知っていた。懺悔室内で彼女と何らかのやり取りをしていたとみて間違いなさそうだ。しかも、ふたりに指示を出していたらしき人物の存在まで匂わされる。
もう少し踏み込んで詳細を聞きたいけど、動揺している彼女たちを落ち着かせてからの方が良さそうだ。特にティナは自分のした発言のせいでマズい状況になったと感じているのか、ブルブルと震えていた。
「ルーイ先生が言っていたように、私たちはいなくなったニコラさんを探しています。どんな些細なことでもいいのです。彼女について知っていることがあるなら教えて頂けないでしょうか?」
今のところ、私たちはふたりを責めたり、捕まえたりするつもりはない。事件の真相を明らかにすること……これが一番の目的なのだから――――
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