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298話 変装(1)

「フェリスさん、懇親会ってどんな感じなんでしょうか。参加資格は特に無いと聞きましたが、調査じゃなかったら私も参加できるものですか?」


「はい。メインは子供たちですが大人が参加したっていいのですよ」


 お菓子を食べながら歓談する小規模なものから、劇や楽器の演奏をしたりと様々な催しがあるのだという。養護施設の子供たちはこれらの会に積極的に参加しており、何ヶ月も前から準備をして発表に備えているのだそうだ。


「楽しそうですね。いつか私も参加してみたいな」


 人見知りを克服する良い機会になるかもしれない。でも、市井の子供たちの中に私のような貴族の娘が混じったら周りに気を使わせてしまうだろうか。せっかくみんなが楽しんでいるのに変な空気にしてしまったら申し訳ない。


「懇親会には貴族の子供もいますよ。身分に関係なく皆で楽しく過ごして交流を深めるのが目的ですから」


 私の心配ごとをフェリスさんは察してくれたようだ。貴族の子女たちも参加しているので、気遅れする必要はないと後押しをしてくれた。


「クレハが参加するならレオンもついていきそうだな。身分を隠す必要はないが……心配ならふたり共今のクレハみたいに変装をして行くといい」


「そりゃいいや。ボスそういうの好きそう」

 

「結構イタズラ好きだもんね。変装も喜んでやりそうだね」


 クラヴェル兄弟も楽しそう。私たちはいいけど、周りを騙すことになるのはちょっと抵抗がある。でも王太子殿下が来たらさすがにみんなと同じような扱いをしろというのは難しいだろう。周囲を欺くのはどうかと思いながらも、レオンと一緒にお忍び行動というシチュエーションにわくわくしてしまうのだった。

 事件が解決したらか……そういえば、『とまり木』のお店でイベントをするという計画も上がってたっけ。暗い話題ばかりで落ち込まないようにと、皆が気を使ってくれたのだ。イベント内容をどんなものにするかは私に一任されている。ルーイ様やリズと一緒にアイデアを出して決めるつもりだ。


「楽しみな予定がどんどん出来ていくね。こりゃ頑張って事件にケリをつけないとだな」


「はい」


「よし。それじゃあ、行こうか。ラリーちゃん」


 ラリーとは変装している私に付けられた偽名。ルーイ様が考えてくれた。レオンが店のオーナーとして使っているもうひとつの名前である『ローレンス』の愛称なのだそうだ。これから私はクレハ・ジェムラートではなく、ルーイ様の付き人『ラリー』として行動する。


「ルーイ先生、クレハ様をよろしくお願い致します。我々も近くで待機しておりますので、何か問題が発生したらすぐに合図を送って下さい」  


「こんな感じで左手を軽く上げてね。これが合図だよ。この合図が見えた瞬間、俺たちは姫さんと先生を助けに飛び出すからね」


 ネルとティナへの聞き込みは私とルーイ様で行う。今回はクレハ・ジェムラートの存在を隠しているので、警備隊の人間は一緒にいない方がいいということになった。それでも護衛を完全に離すわけにはいかない。子供とはいえ、事件に深く関わっているかもしれない相手なのだ。クラヴェル兄弟とフェリスさんは、私たちの姿が確認できる距離から見守ってくれるらしい。いざという時に助けを呼ぶサインも確認した。これなら安心だ。


「了解。ラリーも大丈夫だね?」


「はい」


「おふたり共、本当に気を付けて下さいね。決して無理をなさらないように……」


 心配そうなフェリスさんを落ち着かせるため、笑顔で手を振った。私ひとりなら不安だけど、ルーイ様が一緒なのだ。彼の表情は余裕そうで自身に満ちている。私も緊張はしているけど恐怖心はなかった。ルーイ様がいれば大丈夫なんだと思わせてくれる。本人にそれを伝えたら『俺をそんなに過信するな』って困らせてしまいそうだけど……


「ラリー……いや、クレハ……」


「はい、なんでしょうか」


 ルーイ様が小声で話しかけてきた。フェリスさんたちからはもうある程度の距離を取っていたので、聞こえているのは私だけだろう。私も彼に倣って互いにしか聞き取れないくらいの音量で返事を返した。


「レオンたちはバルカム司祭がニコラさんを誑かした……つまり、司祭がグレッグの情報を彼女に与えたのだという予想をしている。もちろんその可能性もある。でもだ、俺たちがもしやと考えている人物が関わっている場合……司祭は全ての罪をなすり付けるための身代わりとして利用されているのかもしれない」


「身代わり……」


 私とルーイ様がもしやと考えている人物とは……10年後の未来で18歳の私を手にかけた者。時を遡っても尚、私に殺意を抱き続け、襲撃事件を裏で操っているのはこの者ではないかという予想をするに至ったのだ。


「そいつが時間の逆行に気付いていてかつ、記憶まで完全に保持していたとするよ。だったらそれくらいやってもおかしくはない。聖堂に王宮の警備隊が常駐していることから、捜査の手がニコラさんにまで及んでいるのは分かっているはずだ」


「万が一の場合は司祭を身代わりにできるよう、予め仕組んでいると……? 自分の存在が明るみになるのを防ぐために」


「ああ。そもそも子供に嫌疑がかかる可能性自体が低いしな。ネルとティナがこの事件においてどのような立ち位置にいるかはこれから調べる事だが……もし、俺たちの考えが全て当たっていたとしたら……」


「ネルとティナも司祭同様、そいつに利用されているかもしれない。そしてその場合……私たちがふたりに接触しようとしていることが分かれば……」


「クレハ。これから何が起こるかをしっかり見届けていろ。ネルとティナの言動に真犯人を暴くヒントが隠されているかもしれないからね」


 先ほどまでの余裕そうな表情は消えていた。ルーイ様は真剣な声で私に告げる。そんな彼の言葉に私は無言で頷いた。

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