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296話 2回目(2)

「王太子殿下が美しい方というのは我々国民の間でも周知されておりましたが……臣下の方々までこんなにも目見麗しいのですね」


「ワンダさん……こんな美形ばっかり集まってるのは殿下の周りだけですよ。他は至って普通です。『とまり木』が特別なんですからね」


 ワンダさんはルーイ様とクラヴェル兄弟をうっとりと見つめている。正に夢見心地といった様子。そんな彼女を現実に引き戻そうとフェリスさんが奮闘している。

 テレンスが風邪で休んでいるため、ワンダさんに『ネル』と『ティナ』について知らないか聞こうと思ったのだけど……今の彼女にはフェリスさんの言葉が届いていなかった。


「私も同じ道を辿ってきましたからね。ワンダさんの気持ちは分かり過ぎるくらいに分かります。なんなら現在進行形で爆走してます。それでも今は心を強く持って堪えて頂きたいのです」


「ルーイさんは殿下の先生をしていらっしゃるのですね。こんな綺麗な先生……私だったら見惚れてしまって授業に身が入らないわ。ほんとに素敵……」


 フェリスさんの努力虚しく、ワンダさんはルーイ様に夢中だった。クラヴェル兄弟もカッコいいけど、ワンダさんはルーイ様が特にお気に召したようで、彼のことばかり話している。


「おや、それは困りましたね。授業には集中して頂かないと……。容姿を評価されるのも大変光栄でございますが、私は教師です。見た目より語りの方に興味を持って頂きたく存じます」


 ルーイ様はワンダさんの方へ一歩踏み出して距離を縮めた。椅子に座っている彼女に目線を合わせるため、その場に跪く。


「若輩者ゆえ……知見豊富なご婦人を満足させることはできないかもしれませんが、少しばかり私の話を聞いて頂けますか?」


「はっ……!! はい……喜んで」


 ワンダさんの目にはもうルーイ様しか映っていなかった。なんでこんな展開になってるんだろう。でもルーイ様が上手い具合に誘導してくれたおかげで、ようやくワンダさんが静かになった。これで少しは落ち着いてくれるだろう。

 

「実は私、マードック司教とは知己の仲でして……教職に就くまでは神のもとでお仕えしていたのです。今回クレハ嬢に同行しているのも、その経歴がお役に立つのではと思った次第でございます」


「まぁ、司教様の……ルーイさんが美しいだけでなく、神秘的な雰囲気を纏っているのは女神のお側にいらっしゃったからなのですね。ますます素敵です」


「クレハ嬢は行方知れずになっている侍女が早く見つかるようにと、祈りを捧げながら捜索活動も行っておられます。ワンダさんやテレンス君に話を聞いたのもそのためです」


「ええ、存じております。使用人のために自ら行動なさるお姿に感動しました。私もその侍女が早く見つかるように、ご協力したいと思っておりますよ」


「それは心強い。ワンダさん、ありがとうございます」


「いえっ……当然のことです」


 ルーイ様に至近距離で微笑まれ、ワンダさんの顔は真っ赤に染まった。ルイスさんがまた笑いを堪えている。普段のルーイ様を見慣れていると、今の明らかに芝居がかった仕草は違和感があってムズムズしてしまう。しかも絶妙に嘘をついていないのも小賢しいというかなんというか……


「それでは、お言葉に甘えてひとつお尋ねします。テレンス君の友人にネルとティナという女の子がいるそうですが、ワンダさんはこの名前に聞き覚えがありますか?」


「ええ。ネルとティナなら何度も会ったことがありますよ。あの子たちもテレンスと同じ養護施設ですからね」


「ご存知でしたか。調査の過程で彼女たちにもニコラさんと遭遇している可能性が浮上したのです。それで、ふたりにも情報提供をお願いしたいと思っております。ワンダさん……我々が彼女たちに会えるよう、取り計らって頂きたい。ネルとティナの容姿……そして、聖堂内のどこにいる事が多いのか教えて貰えますか?」


 ルーイ様はワンダさんの手を握りながら懇願する。彼女の顔はますます赤くなり湯気が出そうだ。さすがルーイ様。自分の見た目の良さを熟知している。


「そっ、そ……そのくらいでしたらお安い御用です!! 直ぐにお教え致しますね!!」


「本当ですか!! 感謝します、ワンダさん」


 ルーイ様にいいように丸め込まれているワンダさんが少し気の毒になってしまうが、事件解決のため。心を鬼にして見てみぬフリをする。同じ女性としてはかなり複雑な気持ちだ。ワンダさんには心の中で謝罪をした。










「ルーイ様のお調子者!!」


「は? クレハったらなんなの急に……」


 ワンダさんからネルとティナについての新たな情報を入手した。私たちはそれに従い行動を開始する。情報を得られたのはルーイ様のおかげだ。やはり交渉ごとにおいて彼はとても頼りになる。ルーイ様には感謝しているけど、どうしてもひと言物申したかったのだ。


「さっきのワンダさんへの態度ですよ。手まで握って……話を聞きやすい状況を作るためかもしれませんが、やりすぎなんじゃないですか」


「えー……ワンダさん喜んでたし、別に良くない?」


 案の定、ルーイ様は私が怒っている理由が全く分かっていなかった。容姿を武器に女性の心を掻き乱すのはほどほどにして欲しい。


「クレハ様、ワンダさんだって別に本気にしているわけではないですよ。先生は情報をくれるご婦人に少しばかりサービスをしてあげたに過ぎません。互いに理解した上での戯れですから、そう過敏にならなくても大丈夫ですよ」


 なんかレナードさんがルーイ様の味方してる……いつもなら私側についてくれるのに。ちょっとショックだ。


「お前も店で客相手に似たようなことやってるもんな」


「ルイス……余計なこと言わないで」


「でもさ、先生を非難しようとして出た言葉が『お調子者』なんだぜ。姫さんってほんと可愛いよね」


 みんな真面目に捉えてくれない。割と真剣に注意してるのに。レナードさんが言うように私が気にし過ぎなのかな。分からなくなってきた。


「ルーイ様のバカ。誰彼構わずあんな真似して……セドリックさんに嫌われても知りませんからね」


「はぁ? なんでそこでセディの名前が出てくるんだよ」


「恋人が別のひとを口説くようなことしてたら普通に気分悪いと思いますよ。大切にするって皆の前で約束したじゃないですか。セドリックさんを悲しませないで下さい」


 そうだ。ルーイ様にはセドリックさんがいるじゃないか。恋人ができたのであれば、あのような振る舞いはやはり自重すべきだ。

 ルーイ様とクラヴェル兄弟が何も言い返してこないなか、今まで無言だったフェリスさんが弾かれたように声を上げた。


「先生の好きな人ってセドリックさんだったんですか!?」


「あっ……」


 当たり前のように名前を出してしまっていた。そうか、フェリスさんはルーイ様とセドリックさんの関係を知らなかったんだ……

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