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289話 懺悔室へ(2)

 私たちが部屋に来てから10分ほど経過した頃にマードック司教様が戻って来た。酷く疲れ切っているご様子。ルーイ様からの無茶振りが堪えているのだろうか。

 現在の時刻は11時。懺悔室の開放は14時からなので、それまでの間だったら中を見ても構わないとの事。司教様直々に案内をしてくれるらしい。


「司教様、聴罪を行っていたのはバルカム司祭だと伺っております。できれば司祭にもお話しを聞かせて頂きたかったのですが……」


 司教様はバルカム司祭の噂は知っていたのだろうか。噂はあくまで子供たちの間だけで囁かれていたもの。そんな局地的な話が司教様の耳にまで届いていたのかは分からない。フェリスさんがこの噂を知ることができたのは、子供たちと個人的に親しくしていたからである。軍人という身分が知られていなかったのも大きいだろう。

 でも、万が一……司教様が噂を知っていた上で放置していたのだとしたら……あまり考えたくはない。


「申し訳ありません、クレハ嬢。バルカム司祭は今リアン大聖堂にはいないのです」


「いない? まさかそっちも行方不明とかじゃないだろうね」


「いいえ、違いますよ。バルカム司祭は所用で『レンツェ』に赴いておりまして……戻ってくるのは3日後となっております」


 ルイスさんがすかさず司教様を問い詰めた。バルカム司祭が留守……。『レンツェ』というと、エストラントから西側にある街だ。そこまで遠方でないとはいえ、まるで私たちの訪問を察知して逃げたみたいなタイミングだ。そんなはずがないと分かりつつも、でき過ぎた偶然に不満が募ってしまう。


「それ俺にも言ってたけど本当か? やましい事があるから匿ってるんじゃないだろうな」


「とんでもない!! ルーイ様、何てこと仰るんですか!!」


 自分の頼みを聞いて貰えなかった腹いせだろうか。ルイスさんの後に続いて、ルーイ様が司教様を追及しだした。

 バルカム司祭が聖堂を離れているのは紛れもない事実であり、その理由もあくまで仕事のため。司祭の留守中は他の神官が聴罪を担当しているらしい。


「クレハ嬢。行方不明になっている公爵家の侍女についてですが……ルーイ様とも少しお話しをさせて頂きました。さぞ、ご心配のことと存じます。早く見つかるとよろしいですね」


「はい、ありがとうございます。司教様」


「我々もできうる限りの協力をしたいと思っております。立場上お教えすることが出来ない事柄もございますが、そこはご理解下さいませ」


 これはルーイ様が交渉したという、ニコラさんの懺悔の内容についてだろうか。改めて釘を刺されてしまった。ルーイ様ならもしかして……という淡い期待はあったが、彼でダメなら私など確認するまでもなく無理だろう。


「承知しております。皆の協力に感謝しています。どうか、これからも引き続きよろしくお願い致します」


 まだ諦めるのは早い。私たちには先ほどテレンスから教えて貰った情報がある。こちら側から探りを入れていけばいいのだ。事件解決のために協力はしてくれると言って下さっただけでも充分だ。無理強いをするのはよそう。それに、司教様のこの反応……彼はバルカム司祭の噂については知らなそうに見えた。

 ルーイ様はまだしかめっ面をしている。機嫌の悪さを隠そうともしない。そんな彼を見て司教様は怯えているが、それでもその硬い信念が揺らぐことはなさそうである。ルーイ様には後でお菓子でも買ってあげれば機嫌は治るだろう。


「それでは、懺悔室へご案内致します。こちらへどうぞ」


 とりあえず今は、目先の出来ることに集中しよう。どこに重要なヒントが隠れているか分からないのだから。








 懺悔室は大広間の祭壇横に設置されていた。今日は出店のある広場にしか行かなかったので、私は大広間を訪れるのは初めてなのだ。高い天井に美しいステンドグラス。そして神々しい女神像。目に入るもの全てに圧倒されて感嘆の声を漏らしてしまう。


「うわぁ……凄い」


「クレハ様……」


 レナードさんに小声で名前を呼ばれた。どうしたのだろうかと不思議に思ったけど、すぐにその理由が分かった。マードック司教様が私の事を胡乱げな目で見つめていたのだ。

 失敗してしまった。お祈りに来た人間が大広間を訪れていないというのはあり得ない。それなのに、いかにも初見であるかのような反応をしてしまったのだ。私がリアン大聖堂に来た本当の目的が調査であると、司教様にバレてしまったかもしれない。


「こ、ここはいつ来ても凄いよなー」


「女神像は相変わらず美しいですし、心が洗われるようですね」


 クラヴェル兄弟が私の失態を誤魔化そうとしているが、それが却って怪しい感じになっている。まずい。どうしよう。狼狽えている私を見て、隣にいたルーイ様がクスクスと笑い出した。


「クレハ。マードックは全部分かっているよ。それを踏まえた上で協力すると言っているんだ。だから変に誤魔化したりしなくていい」


「えっ……!?」


 ルーイ様は司教様とふたりきりで話をした際に、我々の目的が事件の調査で、お祈りは建前であると説明したのだという。司教様にはこちらの事情を理解して貰っていた方が行動しやすいだろうと判断したのだ。


「まだ幼い令嬢がまさかと半信半疑でしたが、どうやら事実のようですね。大胆な行動に柔軟な思考力……さすがあのレオン殿下の婚約者といったところでしょうか」


 これは褒められているのだろうか。悪くは思われていなそうだけど、何となく含みを感じる言い回しである。


「……申し訳ありません、司教様。皆を欺くような真似をして……」


「貴女のお立場を考えれば、決して推奨されない行いだとは思います。ですが、事件を早く解決したいという感情は理解できますし、私も同じ気持ちです」


 司教様は初めて顔を合わせた時と同じように、優しく微笑んだ。ルーイ様が上手く説明をしてくれたおかげなのだろうけど、私の行動を頭ごなしに否定せずに協力してくれると言ってくれたのが嬉しかった。

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