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288話 懺悔室へ(1)

「……レナードさん。約束通り……テレンスには謝礼をあげて下さい。それと……しばらくの間彼の身の回りの警備を強化するようお願いします」


「はい。承知致しました、クレハ様」


 本日の捜査は終了。我々は屋敷に戻ることにした。お祈りに来ているという設定なので、初日から大っぴらに活動するべきではない。聖堂内や出店周辺で『クレハ・ジェムラート』の存在を適度に印象付けるという目的も達成出来たので充分だった。

 別行動をしていたルーイ様とは合流しないままの帰宅になってしまった。マードック司教様との話が盛り上がっているのかもしれないな。司教様はルーイ様の正体をご存知なのだ。忘れていたとか素気無い言葉を司教様へ浴びせていたけど、身分を偽る必要がない相手との会話は、肩の力を抜いて気楽にできるので楽しいのだろう。


「姫さんのその様子だと、さっきのテレンスとかいうガキから実のある話が聞けたみたいじゃん」


「はい。彼にとって答え難い内容だったでしょうに……きっちりと約束を果たしてくれました」


 テレンスからは無事に話を聞く事が出来た。ルーイ様が不在である状態での聞き込みはかなり不安だったけど、まさかこんなに早く事件の真相に迫れるような情報を得らるなんて……

 クラヴェル兄弟とフェリスさんが上手くフォローしてくれたおかげでもある。3人には後でちゃんとお礼を言うことにしよう。


「テレンスから得た情報はレオンたちにも共有します。その上で、今後の『お祈り』はどのように行うかを相談したいと思います」


「そうですね。でも、クレハ様……殿下はクレハ様の御身を一番に心配しておられます。捜査報告も大切ですが、まずは何事もなく元気にお戻りになられたことをお知らせしてあげて下さい」


「姫さんが心配で自分の仕事が手についてないかもしれないからね。ボスにとって重要なのは姫さんが無事かどうか……むしろそれしかないんだからさ」


「はい……」


 捜査が順調に進んで浮かれていた頭に冷や水をかけられた気分だった。

 私が自分自身を囮にして犯人の尻尾を掴もうとしていることをレオンは知らない。言っていないのだ。レオンがいかに自分を大切にしてくれているか……それを考えると、彼に対する罪悪感と後めたさが込み上げてくる。それでも今更引けないし、引くつもりもなかった。胸の辺りを締め付ける痛みには気付かないふりをした。







 出店のある広場から移動すると、私たちはマードック司教様の部屋を再び訪れた。ルーイ様がいまだに司教様と話し込んでいて、こちらから出てきていないからだ。会話が弾んでいるのは結構だけれど、もう帰宅するのでお開きにしてもらわなければならない。

 私は部屋の扉をノックしようと手を伸ばした。その時だった。ほぼ同時に扉が内側から開き、中からルーイ様が出てきたのだった。


「あれ? クレハ。それにみんなも……ひょっとして俺があまりに遅いから迎えに来てくれたのかな」


「ルーイ様……!! 司教様とずいぶん話し込んでいらっしゃいましたね」


 開かれた扉の隙間から室内を覗き込んでみる。ルーイ様の体越しに中の様子を少しだけ垣間見ることができたが、彼と一緒にいたはずの司教様の姿がなかった。


「マードックはちょっと席を外してる。すぐに戻ってくるよ」


 私が疑問を口にするよりも先に、ルーイ様が答えを教えてくれた。司教様はこんな大きな教会の責任者だ。忙しいのだろう。

 ルーイ様に本日の捜査は終了したことを伝える。特に問題がなければ、このまま帰宅するつもりなのだとも……


「そうか。そっちは順調に進んだようでなによりだ。後で俺にも詳しく教えてくれな」


「もちろんです。屋敷に帰ったらみんなにきちんと報告します。ルーイ様の方はいかがでしたでしょうか」


 司教様とこんなに長い時間どんな話をしていたのだろう。プライベートな内容であるなら踏み込まない方がいいのかもしれない。でも気になる。


「ああ、それはな……大きな声では言えないけど、俺のコネが使えないかとマードックを脅し……いや、説得してたんだ」


「コネ?」


「ニコラさんが懺悔室で交わした会話の内容を俺だけでもこっそり教えて貰えないかなと……。バルカム司祭だったっけ? そいつと話をさせて欲しいと打診してみた。ダメだったけどね」


「えーっ……先生でもダメだったか。ちょっと期待してたのになぁ」


「マードックの奴……いくら俺の頼みでも応じられないって頑なでね。かなり粘ったんだけど無理だった。ごめんね」


「そこはまあ……予想の範疇ですね。この件について神官たちから協力を得るのは無理でしょう。気になさらないで下さい、先生」


 行方不明になっているニコラさんを見つけるには、やはりあの懺悔室で何があったのかを突き止めるのが一番の近道だ。ルーイ様もそう考えていたので、司教様をなんとか説得しようとしたのだ。それでもやはり教会の規則は絶対で、ルーイ様でも覆すことは出来なかったのか。


「でもね。俺だってせっかくここまで来たんだし、手ぶらで帰るのは嫌だったからさ。せめて懺悔室の中を調べさせてくれないかって頼んだんだよ。それくらいならいいだろって」


 懺悔室の中……きっと警備隊の人たちも調べているだろうけど、私も実際に自分の目で見てみたい場所である。


「今マードックが準備してくれてるんだ。終わり次第呼びに来てくれるんだけど……クレハも行くか?」


「はいっ!! 是非、ご一緒させてください」



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