第9話 呼び出し 6\14(金)
久しぶりの更新です。
待っていた方には、お待たせしてすいません。
していただいたコメントには、出来る限り返信する予定です。
「瀬尾先輩、何で昨日部活サボったんですかぁーっ!」
翌日の昼休み。いつも一緒に昼ご飯をとっている松川が生徒会の仕事でいないのでどうしようか迷っていたところ、薄羽から屋上に来て下さいとLINEが来た。呼び出しに応じて屋上に行くと、頬を膨らませた薄羽にポカポカと叩かれた。
「ごめん。わかったから!ごめんって!だから叩くな痛いから」
先輩を叩くという暴挙にでた後輩を謝罪しながらなだめる。俺より高いところから長い腕で叩かれるとこちらとしては防戦一方にならざるを得ないのだ。
「二階堂先生が怒って昨日の練習メニューキツくなったんですからねっ!」
「それマジっ!? それはホントにすまん!」
「嘘ですケド」
「嘘かい!ホントにありそうだからそれ!」
もし本当にそんなことがあったりしたら昨日の時点で大量の恨みのLINEが届くはずだ。最悪今頃俺は部員たちからリンチにされているかもしれない。
「昨日は何してたんですか?こんなに可愛い後輩を放っといて。女ですか?」
依然怒りが治らないのか、薄羽は腕を組んで仁王立ちしながら、目の前にいる俺を見下して聞いてきた。
後輩スイッチオフの薄羽である。俺に自分との身長差を見せつけられているお馴染みの光景だが、今日はいつものジャージ姿ではなく制服姿だ。普段部活でしか接点のないので制服姿の薄羽にイジられるのは久々である。スカートからのぞく彼女の長い脚が眩しい。
「女って言ったらどうする?」
昨日は織野先生に資料の運搬を手伝わされたせいで部活にいけなかったのだから、あながちまちがってはいない。さらに、こう言ったときの薄羽の反応が見たかったのだ。
「へぇーそーですか・・・って女!?先輩今女って言いました!?誰ですか私の先輩に近づく不届き者は!?」
まさか女と言われるとは思っていなかったのだろう。案の定、薄羽は取り乱した。混乱する薄羽が面白かったので、もっといじめたくなった。
「織野先生だよ」
「織野先生!?確かに背が高いから、先輩の好きなタイプ・・・。しかも超絶美人でナイスバディっ・・・!ダメだっ、何一つ勝ってない・・・」
完全敗北を喫して崩れ落ちる薄羽。
ミスコンレベルの美貌の織野先生と比べるのは可哀想だが、薄羽も充分美人である。全体に堀は浅いが、小ぶりな鼻に表現豊かな目元、笑った時に見える八重歯にぷっくりした唇、それらがバランスよく配置されていて、綺麗というより可愛らしいといった印象だ。長身で小顔という理想的なモデル体型なのに童顔というギャップもまたそそるものがある。
一番はなんといっても彼女の長い脚だ。無駄な贅肉を一切つけず、陸上で鍛えたしなやかな筋肉が形を引き締める。その芸術品かと見紛うほどの造形美は、一流のパリコレモデルたも遜色ない。たしかに胸やお尻といった女性らしいふくよかさはないが、それがむしろ彼女のスリムな体型を引き立てている。
「薄羽には薄羽の良さがあるじゃないか」
薄羽をいじめるのは楽しかったが、これ以上は流石に可哀想なのでフォローを入れることにした。
「例えば何ですか?」
「脚」
「先輩、ホント私の脚が好きですね。いつ私の何処が好きですかって聞いても、脚、脚、脚。もしかして脚フェチなんですか?」
何故か不満そうにしている薄羽。確かに彼女の長い脚は俺のイチオシなのだが、それの一体何が不満なのだろう。
「そんなに脚が好きならいくらでもくれてやりますよ。おりゃおりゃおりゃーっ!」
そう言うと薄羽は片足で立つと、あげてる方の長い脚で俺の身体を蹴ってきた。俺のへそより高い位置から繰り出される脚にまたしても防戦一方になる。当の薄羽は怒っている雰囲気ではあるものの、ちゃんと上履きを脱いでるところに優しさを感じる。しかもスカートの中が見えそうだ。けれど痛いものは痛い。
「何だ何だ何だ!何がそんなに気に食わないんだ」
俺は繰り出される脚技を華麗に避けると、彼女のふくらはぎの周囲を両手で抱えこんで動きを止めた。俺の突然の行動に面食らった様子の薄羽が抗議する。
「なっ!?先輩ズルいですよ!?女の子の脚にしがみ付いて恥ずかしくないんですか!?」
薄羽は脚に力を入れて俺の拘束から必死に逃れようとする。流石に鍛えていてるからか抵抗の力は強かった。しかし俺はまたバスケ部、持ったボールを離さないテクニックで脚をガッチリホールドしていた。さらに相手は片足で立っていて、バランスを保つのに精一杯なようだ。
「今更恥ずかしいなんて感情あるかよ。さて、お仕置きタイムだ」
俺はそういって抱えるのを薄羽のふくらはぎから足首にかえると、彼女の足裏をくすぐり始めた。
「くらえ!先輩を足蹴にした罰だ!」
「くすぐりっ!?あん、やめっ!?あははっ!あはははははっ!あははははははっ!!」
彼女にくすぐり攻撃は効果テキメンだった。彼女は片足のまま、身をよじらせて抵抗する。しかし足首を俺がガッチリホールドしているため、逃げるに逃げれないようだ。
くすぐりには相当弱いのか、悶えまくってスカートの下のパンツが見えてしまっている。うーむ、水色かぁ。ちょっと子供っぽいな。だがそれがいい。
そろそろ充分かなと思い、薄羽を足首を離してやると、地面に倒れ込んで息を荒げていた。
「先輩最低ーっ!普通後輩の女の子にこんなことしますぅーっ!?」
ご立腹の薄羽は俺を見上げて罵った。おっしゃる通りであるが、先輩としての威厳も見せなければならなかったため、必要な措置だった。
「お前が蹴ってくるからだろうが」
「私が悪いっていうんですかぁーっ!?」
突然立ち上がってプンスカしながら俺を見下してきた。
「じゃあさっき何で怒ったのか教えてくれ」
「・・・先輩は私の脚しか好きじゃないんですか?私の魅力は脚だけなんですか?もっと可愛いとか優しいとか、性格的なとこも褒めて欲しいです・・・」
薄羽はしおらしくなって訊いてきた。
なるほど。彼女を脚を崇めるばかり、他の長所を褒めていなかった。勿論、彼女の良さは脚だけではない。しかし、それも口で言わなければ薄羽には伝わらないのだ。
この可愛い後輩を慰めるべく、俺も人肌脱ぐとしよう。
俺は一息つくと、薄羽を真っ直ぐに見つめてこう言った。
「・・・お前の正直なところが好きだ。図々しいほどに無邪気で、感情豊かなお前が好きだ」
薄羽は嘘をつかない。思ったことはハッキリと伝えるし、顔にも感情がすぐに出る。故に感情豊かで彼女の表情は見ていて飽きない。
「お前の一生懸命なところが好きだ。自分の過去と向き合って、克服しようと頑張る姿が好きだ」
自分の過去と向き合うことは簡単なことではない。なかなか向き合うことができないからこそトラウマなのである。それを彼女は克服しようと2ヶ月間踏ん張って来た。そのひたむきな彼女だからこそ、俺は最後まで支えると決めた。
「お前の優しいところが好きだ。図々しい癖に、他人の気持ちに敏感ですぐ感情移入してしまう繊細なお前が好きだ」
自分が誹謗中傷されてきたからだろうか、薄羽は自分から他人を傷つけるようなことはしない。痛みを知っているからこそ、その痛みを他人に押し付けようとはしない。
周りの人の感情に敏感で、傷ついている人を見ると彼女もその痛みに共感して一緒になって悲しむ。
「お前の可愛いところが好きだ。寂しがり屋で俺が部活に一日出ないだけで絡んでくるのも可愛い。素直過ぎて騙されやすいところも、他の人と自分を比べて勝手に落ち込んじゃうのも、ウブなところも全部可愛いとおも・・・」
「せ、先輩っ!ストップですっ!わかりましたから・・・。先輩の気持ちは、充分伝わりましたから・・・」
俺の言葉を薄羽が遮った。
こんなに褒められるとは思っていなかったのだろうか、薄羽は顔を真っ赤にして狼狽えている。今言ったことはあくまで俺の本心なので、彼女を困らせるつもりはなかったのだが。
「どんだけ私のことが好きなんですか、先輩・・・」
薄羽は呆れた、と言った表情で言った。
だが俺が先程言ったように薄羽は感情が表に出やすい。そのため、口元が僅かに上がっていて内心喜んでいるのがわかった。
「先輩の気持ちも聞けたことですし、昨日部活をサボったことは許してあげましょう」
「許すって何だ・・・」
「それじゃ私、まだ昼ごはん食べてないのでこれで失礼します。それじゃまた部活で」
「あぁ。また後でな」
「今日はサボらないでくださいね?先輩!」
そう言うと薄羽は脱いでた上履き心なしか嬉しそうにしながら屋上を出て行った。
まるで嵐のようなやつだった。薄羽に振り回されるのは疲れるが嫌いじゃない。俺はいかにも疲れた、と言うように首を回す。
そのとき、聞き覚えのない声が聞こえた。
「ねーねー君ー?イマのコと付き合ってんのー?」
「!?誰っ!?」
唐突に話しかけられて驚いた俺は、周囲を見渡してその声の出所を探すが直ぐには見当たらなかった。屋上は開けた空間になっており、隠れられるスペースはないに等しい。そのため、その声が何処から聞こえたのか一瞬わからなかったのだ。
冷静になると、さっきの声は上から聞こえたような気がする。上をみると、屋上の入り口の上に一人の女子生徒が立っていた。