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第4話 瀬尾妹 6\11(火)


「ただいま・・・」


 自宅の玄関のドアを開けると俺は力の抜けた声でそう言った。しかし、俺の帰宅の声に反応する者はいない。


 時刻は23時を超えると、住民も就寝し始めて住宅街はさらなる闇に包まれていた。瀬尾家も例に漏れず、家の明かりを落として睡眠モードに入ったようだ。


 肩に掛けた重たいショルダーバックを下ろし、汗を吸った部活着が入った小袋を洗濯機のある洗面所の方向に放り投げた。地味に重い制服のブレザーを脱ぎ、近くのハンガーにかける。

 ちなみにこれらを電気もつけずにやっている。親が寝る時間に帰ったときのルーチンが、少しでも体力を使わないように最適化されているのだ。


 風呂に向かいながら、先ほど投げ飛ばした小袋を足で蹴って洗面所のほうに持っていく。小袋の中身を洗濯予定のカゴにぶちこむと、来ている下着とワイシャツも乱雑にそのカゴに放り込む。

 家に帰って欠かせないのは風呂である。風呂は命の洗濯だと言ったのは誰だったか。1日の最後に入る風呂はとても気持ちの良いものだ。

 特に今日は部活の後に風呂に入れていない。バイト先で汗臭いなんて言われてはかなわないので、スースーする汗拭きシートで全身の汗を拭き取ってからバイトに行った。そのため待ちに待った風呂である。


 風呂の電気だけをつけて中に入り、浴槽の蓋をくるくる丸めて隅に立て、浴槽の追い焚きのボタンを押す。

 家族が相当前にお風呂に入っているはずであるため、いつもこの時間になると湯船のお湯はぬるくなっている。そのため追い焚きをしている間にシャワーを浴びる。この時に一緒に歯ブラシも済ませる。


 シャンプーで頭を洗っているとき、先程の光景が脳裏をよぎる。


 俺が東條に向かって言い放った後、彼女は小さな声でなんて言っていたのだろうか。その時は聞こえなくて思わず聞き返してしまった。


 さっきの自分のどの言動が彼女を傷つけたのかは分かっている。女心がわからない俺でも、流石に女子に向かってビッチだの誰にでも色仕掛けするだの暴言を吐いたことは反省している。しかし、彼女の行動はそう思われても仕方のないものだったとも思う。

 確かに女の子に面と向かって言うのはデリカシーがなさすぎるといった反論は受け入れる。しかしあのまま彼女の行動に振り回されてはいけないと己の理性が警鐘を鳴らしていた。

 なので自分が取った行動は間違っていないと思う。


 髪についたシャンプーをシャワーで洗い流すとそのまま湯船に入る。どうせこの後お湯を抜いてしまうのだからと身体も洗わないで湯船に漬かるのが習慣だ。


「・・・ふぅ」


 風呂の心地よい感触に思わず息を漏らす。意味もなく風呂の天井を見上げる。

 浴槽の波が収まると、静寂が訪れた。


 今日は年下の女の子に振り回されっぱなしだった気がする。薄羽には身長をイジられ、東條にはウブさをイジられ。男として情けなくなってくる。






 しかし、本当は認めたくないが、そうされて興奮する自分がいる。






 勿論このことは誰にも言っていない。そして、誰にも知られてはいけない。特に当の二人には絶対にバレてはいけない。

 それが原因で彼女たちの態度が変わってしまうのが耐えられない。


 のぼせそうになる前に風呂から出る。風呂の電気のお陰で風呂の近くは視える。薄暗い洗面所の棚の中から未使用のタオルを引っ張り出して濡れた身体を拭く。

 タオルを使い終わると、既に満杯の洗濯予定のカゴの上に被せる。すでに用意した自分の下着を着ると、玄関に置いたショルダーバックを担いで二階の自分の部屋へと帰る。


「兄さんお帰りー」


 自分の部屋に入ろうとドアノブを掴んだとき、廊下を挟んで反対側のドアから女の声がした。

 声の主はドアから上体だけをひょっこり出すと、下着姿の俺を見て顔をしかめた。


「だから下着姿で家ん中ウロウロしないでって言ったじゃーん!」


 そう言ったのは俺の妹、瀬尾柚葉である。俺の二つ下の妹でバレーボールに青春を捧げる中学3年生。セミロングの黒髪をポニーテールにまとめ、赤縁の可愛らしい眼鏡をかけている。普段はコンタクトをつけているので、眼鏡姿の柚葉は実は家の中でしか見れないレアな光景だったりする。兄の俺からしたら何も嬉しくないが。


「はいはい、悪かった」


 妹の抗議を取り合わずに自分の部屋へと転がり込む。ショルダーバックの中からスマホを取り出すとそのままベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 スマホのロックを解除すると、未読のLINEが20件ほどあった。そのほとんどは友人との下らない会話だった。適当に既読をつけてサラリと読み飛ばした。


 さてメインはこっからである。俺は薄羽と東條の所為で今日一日を非常にムラムラして過ごした。そろそろこのリビドーを発散させなければならない。そう、オナニーの準備だ。

 妹に構ってる暇はないし、友人たちのふざけたLINEを眺めている場合でもない。


 ベッドから起き上がると自分の部屋のパソコンを起動する。時代はデータ社会。オカズは全てパソコンの中に入っている。もし目当てのものがなくてもネットから引っ張り出せばいいだけなのだ。


 俺は血眼になって今日のオカズを探す。パソコンの画面を食いつくように眺める。

 そして、ようやく今日のオカズが決定した。

 早速俺は自分のパンツを下ろして、自分の息子を解放しようとした。


「オナニー中に失礼しまーす」


 今にもマスをかこうとした次の瞬間、俺の部屋のドアを開けて柚葉が入ってきた。

 とっさに下ろしたパンツをあげて驚愕しながら妹の方を見やる。この世のどこに兄のオナニー中に部屋に入ってくる妹がいるのか。


「分かってんなら入ってくんな!」


 鍵をかけなかった自分にも責任はあるが、まさか妹が入ってくるとは予想だにしなかった。常人ならノックして入っていいかどうか部屋の主に訊いた後に部屋に入るはずだ。柚葉にはそういった常識がないのだろうか。


「オカズ、探してるんでしょ?」


 柚葉は小悪魔のような笑みを浮かべてそう言った。






「兄さん。久しぶりに背比べ、しよっか」






 妹のその言葉にドキッとした。

 一見、会話が乖離しているようにも聞こえるかもしれない。


 俺は年下の女の子にイジられると興奮するという誰にも言えない特殊な性癖がある。

 さらに、柚葉は何故か俺がそういった嗜好の持ち主であることを知っている。


 この二つの情報を出すとどうだろう。


 今妹は実の兄に向かって、私をオカズにしないかと言っているのだ。


「どう?こう見えて私、結構スタイルいいんだよ?」


 柚葉の言葉に思わず息を飲む。

 確かに柚葉は中学生になってバレーボールを始めたからだろうか、体付きがしっかりしてきて身長もグングン伸び始めた。俺の身長などとうの昔に追い越している。さらにはここ最近になって第二次性徴も著しく、肉付きも女性らしくなってきている。


「どうして・・・?」


 どうして自分の性癖を知っているのか、そして何故自分の性癖に付き合ってくれるのか。今の質問にはその二つの疑問が含まれている。

 柚葉はその意図を汲み取ったのかどうかは定かではないが、俺のいるベッドに腰掛けると俺の方を向いて中学生とは思えない妖艶な表情を浮かべた。






「それは、私も兄さんと"同類"だからかな」






 そう。俺は年下の女の子に責められて快感を感じる変態だが、柚葉も年上の男を責めて快感を感じる変態であった。


「昔っから兄さんの周りにはいつも大きい女の子がいた。小学校でも中学校でもそうだった。そして今でも周りには兄さんよりも背の高い年下の女の子がいる。部活にもバイト先にも」


 柚葉には部活のことを話すことはあるので、薄羽のことを知っているのはわかるが、まさかバイト先の東條のことを知っているとは思わなかった。俺が柚葉に向かってバイト先の女の子の話をしたことはないはずだ。


「・・・誰から聞いたんだ?」


「兄さんと同じとこでバイトしてる友達に訊いたの。真理愛さんっていったっけ?いかにもギャルって感じのコらしいね」


 柚葉は持ち前のコミュニケーション能力から友達の輪が広いようだ。


「ギャルって兄さんの趣味じゃなさそうだけど、自分より大きい女の子だったらどうでもよかったんだね」


 ぐうの音も出ない。俺の性癖の確信をつく指摘である。


「じゃあ実の妹でも、兄さんより大きければ反応してくれるのかな?」


 柚葉は突然立ち上がると、ベッドの上であぐらを掻いている俺の脇の下に手を入れた。そして女子中学生と思えないほどの強い力で俺を引き上げた。


「うおっ!」


 柚葉の予想外のパワーに驚かされた。俺は抵抗すら許されず、あぐらを掻いたまま宙に持ち上げられてしまった。

 バレーボールで腕の力は相当鍛えているようだ。俺も陸上部で運動しているとは言え、バキバキに鍛えているわけではない。柚葉の手にかかれば俺の軽い体重でも易々と持ち上げてしまう。

 すぐさまあぐらを解いて足を伸ばす。しかし足を伸ばしてもベッドに足はつかなかった。実の妹に持ち上げられながら、足をバタバタさせる俺に向かって柚葉は言った。


「ごめんね。けど兄さんはこのくらい乱暴な方が好きでしょ?」


 グッときた。我が妹ながら今の発言はかなり俺の性癖に刺さる。


 妹は俺をベッドの上に下ろすと、俺の頭に手を置いた。そしてその手を自分の方に持っていく。


「兄さんの頭が私の顎の下くらいかな。こうやって頭に顎を乗せることもできるね」


 目の前には柚葉の膨らみかけの胸があった。Gカップの東條と比べるとあまりにも小さいが、それは比べる相手が悪い。むしろ中学生にしては大きい方だと思う。これからの成長な期待である。


「柚葉、今身長いくつだ?」


「この前の身体測定だと168cmだったよ。兄さんとは13cm差だね」


「何で俺の身長知ってるんだよ?」


「だって昔からかわってないじゃん」


 かわってるわ!という反論がでかけたが、どうせ数ミリしかかわっていない。ここ数年で数十cm伸びた柚葉に比べると、かわってないのと同義である。


 柚葉を見上げると愛おしそうな表情で俺を見下ろす柚葉と目が合う。


「これだと兄さんっていうより弟だね。二人で歩いたら私がお姉さんって間違いられそう」


 柚葉は長身に加え、大人っぽい顔つきをしているため、前から実年齢より高く見られることが多かった。

 それに対して俺は低身長からか、実年齢より若く見られることが多かった。

 前までは柚葉ともそんなに身長差がなかったのもあり弟に間違われたことはなかったが、今この身長差で街に繰り出したらほぼ全員が柚葉を姉だと思うだろう。


「俺が兄って言っても信じてもらないかもしれないな」


「ねぇ兄さん。実は一つお願いがあるの」


 柚葉は申し訳なそうに眉を歪ませて俺を見た。


「何だ?俺に出来ることなら何でもきいてやるぞ?」


「ホントに!?じゃあーねー」


 柚葉は腰を屈ませて俺と視線を合わせてこう言った。






「私のこと"お姉ちゃん"って呼んでみて」





「え?」


 俺は何を言われたのか分からず、柚葉を見る。柚葉は極めて真面目な表情で言った。


「だーかーらー。兄さんに私の"弟"になって欲しいの!」


「・・・え?」


 柚葉の突然の衝撃発言に理解がついていかない。何処の世界に実の兄に"弟"になって欲しいと頼む妹がいるのか。


「お姉ちゃんって呼んで欲しいのか?」


「そう!出来るだけ可愛く!」


「・・・"お姉ちゃん"」


「んあぁ!良いっ!良いよ兄さん!その調子!」


「・・・柚葉""お姉ちゃん"」


「グハァッ!・・・はぁ、今のは効いたよ。続けてたっちゃん!」


 いつの間にか俺の呼び方が変わっていた。本名が達彦だからたっちゃんなのだろうが、そんな呼び方は生まれて初めてされた。

 柚葉も筋金入りの変態のようだ。俺が"お姉ちゃん"と呼ぶ度に興奮に身を捩らせている。はたから見ていると気持ち悪いことこの上ない。

 しかし自分の性癖に付き合ってくれる可愛い妹に対してそんな暴言は吐けない。むしろ妹を思いっきり喜ばせたい。

 俺は全身全霊を込めて柚葉の"弟"を演じることにした。


「"お姉ちゃん"・・・。僕ね、夜ひとりじゃ寂しくて眠れないの・・・。だから柚葉"お姉ちゃん"。今日は僕の隣で一緒に寝てくれる?」


「うん、いいよ!たっちゃん!今日は柚葉お姉ちゃんが一緒に寝てあげる!!」


 柚葉はそう叫ぶと俺をベッドに押し倒し、キツく抱きしめた。もうテンションが完全にぶっ壊れてしまったようだ。もはや命の危険まで感じる妹の凶行にどうすべきか戸惑っていたところ、革命的なアイデアを思いついた。


「"お姉ちゃん"。苦しいよぉ〜」


「あぁ、ごめん!?大丈夫たっちゃん!?何処か痛いとことかはない!?」


 柚葉は俺を解放すると、体中をまさぐる。


「やめてよ"お姉ちゃん"!それ以上触ると嫌いになるよ!」


 俺はそう言い放つと、柚葉は絶望に打ちひしがれた。


「なっ!?そ、それだけはぁー!たっちゃん、私のことは嫌いにならないでぇーっ!!」


 柚葉は俺に向かって泣いて懇願する。

 "弟"になりきることで、妹の制御に成功した。

 とりあえず"弟パワー"で柚葉がコントロール出来ることが判明した。むしろコイツそんなに弟が好きだったんだ。確かに昔から弟が欲しいと言っていたような気がするが、ここまで病的なものだとは思ってもみなかった。 


 俺に縋り付く柚葉に今度はどう言おうか考えていたところ、突然勢いよく部屋のドアが開いた。


「うるさいわねぇアンタたち!何時だと思ってるの!早く寝なさい!」


 母は俺たちを一喝すると、そのままバンッとドアを閉めた。

 突然の母の登場にびっくりする二人だったが、柚葉はようやく我に返って客観的に自分の行動を振り返り、自分の行動がいかにおかしかったが理解しはじめたようで、恥ずかしさで段々顔を赤くしていった。


「・・・兄さん。さっきのこと、忘れて」


「・・・それは無理かな」


「だよね・・・」


 柚葉と顔を見合わせて二人で苦笑いを浮かべる。そして柚葉は何も言わずに俺の部屋を飛び出していった。

 部屋にかけてある時計はすでに12時を過ぎていた。


 部屋の電気を落とすと、先程の妹としたことを思い返す。兄妹ながら相当ヤバいことをしていたのではないだろうか。


 恥ずかしさに暫くベッドの中で頭を抱えていたが、いつの間にか意識を手放し、夢の世界に旅立っていた。

 

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