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第3話 バイト終わり 先輩後輩 6\11(火)


「はぁ。今日は災難だった・・・」


 バイト先の店長につけられたタンコブをさすりながら帰路に就く。時間は22時を超え、街は夜の帳が落ちていた。

 バイト先のファミレスがあった地区を抜けて閑静な住宅街を歩く。すると一気に店や看板といった光源がなくなり、等間隔に配置される街灯がアスファルトを照らしていた。


「先ぱぁいが仕事中にサボるなんて珍しー」


 隣を歩く東條が言った。

 今の彼女はバイトの制服ではなく、私服を着ている。ファッションに詳しくないので、それぞれの服がなんていう服なのかはわからなが、ビッチっぽい服装という印象を受ける。全体的に露出が多めの服装で、胸元を大きく強調したデザインだった。彼女がとても大きいものをお持ちなので谷間がよく見える。


「あれは高梨が悪い」


 そう答える俺の服装は、東條の服装とは対照的に高校の制服を着ている。いつもなら授業のあと一度家に帰ってからバイトに行くのだが、今日は陸上部の練習があったので、その足でバイト先まで向かったのだ。

 お陰で今俺は教科書やノートが入った大きなショルダーバックを肩に掛け、部活の道具が入った小袋を背負っていた。バイトでそれなりに疲れているので、この大荷物は身体に応える。


「高梨サンとどんな話してたんですかぁ〜?アタシの話してるのはわかったんですけどぉー」


「聴こえてたのかよ・・・」


「ありゃ?ホントにアタシのこと話してたんですかぁー!?」


 コイツ、カマかけてきやがった。

 しまった、と思うがもう手遅れ。横にいる東條は何が嬉しいのか、笑みを浮かべながら俺の方にすり寄ってくる。


「先ぱぁい、どうしてアタシの話してたんですかぁ〜?何か気になることがあるんですかぁ〜?」


「うるせえ離れろ」


「アタシのことならアタシに訊けばいいのにぃ〜」


「それ以上近づくと置いてくぞ」


 そう言って東條から距離を置いて歩いた。


 俺と東條の家は同じ住宅地の一角にある。近所という訳ではないが、バイト先からの帰り道は途中まで一緒である。そのため、バイトの終了時刻が近い時は彼女を途中まで送ることにしている。金髪のギャルとはいえコイツも女の子。夜道を一人で歩かせるほど俺も薄情じゃない。


「そんなつもりないくせにぃー!なに照れてるんですかぁー?」


 そう言って片手にポーチをぶら下げながら俺の後ろを付いてくる東條。

 確かに彼女を置いてくつもりはない。彼女ほどのスタイルの持ち主が扇情的な格好をしているのだ。一人にしたらどうなるかわかったもんじゃない。まぁ恵まれた体型の彼女だったら痴漢の一人や二人撃退できそうだが。


「そろそろ分岐点だ。置いて行きたくても置いていけない」


 間も無く三叉路に差し掛かった。俺の家は右に、東條の家は左方向にあるため、見送りはここまでになる。


「じゃあな東條。またバイトで」


 東條に別れを告げて自分の家に向けて一歩を踏み出そうとしたその瞬間。


「先ぱぁい!」


 突然、東條に後ろから抱きしめられた。自分より20cmも身長の高い彼女に抱きしめられると、ちょうど後頭部に彼女の胸が押しつけられる格好になる。俺はその柔らかな感触に思わずビクッと身体が反応してしまう。


「な、何だよ急に!」


「先ぱぁいってやっぱりウブですねぇ〜」


 俺の反応を楽しんでる様子の東條。やっぱりコイツはビッチだ。俺に女性経験がないからこの状況でどう振る舞えば良いのかわからない。俺は完全に混乱していた。

 二人は三叉路に一本だけある街灯の真下にいる。すぐ横の地面に長い影とその影に包まれる小さな影が写っている。勿論長いのが東條の影で、短いのが俺の影だ。


「・・・気になりますか?」


「・・・何のことだ?」


 俺は抱きしめられてから後頭部の感触のことしか考えられなかったので、彼女が何のことを言っているのか見当がつかなかった。

 そんな俺の事情を知ってか知らずか、東條は俺の耳元に自分の顔を近づけると、やたら艶やかな声で呟いた。


「・・・Gカップです。先ぱぁいが見たどんなコよりも大っきいでしょ〜?」


 Gカップ!?それって胸のサイズの話!?確かにデカいわ!Gカップとかグラビア女優からしか聞いたことねぇよ!


「からかうなよ東條!」


 数々の障害(煩悩)を乗り越え、俺は東條の抱擁を振り解いた。Gカップの感触は惜しいが、ビッチとはいえ年下の女の子にからかわれていい気はしない。こんな暗い夜道で男女が二人で抱き合っている状況も世間的にはよろしくない。

 一方に抱かれてるからセーフ、という異論は却下する。


「・・・イヤだった?」


 イヤじゃないって即座に答えたい気持ちを理性で抑えつつ、東條を見上げた。


「お前がギャルかビッチどうかは知らないが、誰彼構わずこうして誘惑してるのか!?もっと自分の身体を大切にしろよ!俺みたいな奴にまで色仕掛けするなよ!」


 肩を震わせながら東條に言い放った。言われた本人は俺の言動に驚愕してるようだった。


「・・・誰にでもなワケないじゃん・・・」


「・・・え?」


 東條の言葉は小さく、俺には聞こえなかった。しかし、彼女が唇を強く噛み締めていて、もともと垂れ気味だった眉が下がっているのを見ると流石の俺も理解した。俺はまた同じ過ちを犯したのかもしれない。






「先ぱぁいのバカァーーッッ!!」






 目尻に涙を湛えながら俺を罵倒するや否や、夜道を駆け出していってしまった。

 呼び止めようとしたが、彼女の走るスピードが速く、街灯の明かりの範囲から一瞬でいなくなってしまった。


 一人夜道に取り残された俺は、どうしてまた過ちを犯してしまったのか考えた。これで女の子を泣かせてしまったのは2回目。どちらも年下の女の子である。

 女の子を泣かせるのは最低という見解には俺も賛成である。だからこそもう2度とこんなことにならないように注意していたはずなのだが。


「東條・・・。お前・・・」


 ふと視線を落とすと、そこには見慣れない表紙の学生手帳が落ちていた。拾ってみると案の定、女の子らしい丸文字で東條真理愛と書いてある。"愛"という文字に上からピンク色の蛍光ペンでハートマークが描かれていた。

 またバイトで会ったときに渡そう、と思ったが、同時に次バイトで会ったらどう接せばいいのかという疑問も湧き上がってきた。

 

 6月の夜はまだ寒い。三叉路を吹き抜ける風に背筋を冷やされた俺は、拾った東條の学生手帳を胸ポケットにしまうと、自分の家に向かって歩き始めた。


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